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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百四十五


「うあああああああああああああああああああああッッッ!!!」




―――こんなときに、どんな言葉を口が紡げばいいものか。


賢いビビアナにだって、分かるはずもないだろう。


親友を守ろうとしているし、『ルファード』軍と『オルテガ』のためでもある。


ボクたち猟兵や、『自由同盟』のためでもあった……。




―――ビビアナにとって、最大限の意味での『仲間』のために。


本当に多くの命を守るための、悲痛な選択だったよ。


帝国と戦うすべての者たちは、この攻撃に感謝を捧げるべきだ。


どれだけの想いで、ビビアナは叫んでいるのか……。




「や、やめろ……ビビ……っ!やめて、くれ!!」




―――泣いている、当たり前だよ。


最愛にして、最後の『家族』に槍を突き立てているような状況だ。


メダルドの体の一部が残っている『繭』を破壊すれば、おそらく奇跡は消え去る。


叔父を復活させる可能性そのものを、ビビアナは自らの手で終わらそうとしていた……。




―――槍を伝う魔力が彼女の叫びに操られ、破壊の熱となって『繭の怪物』を焼く。


火花が散り、金色の糸は燃えていた。


『繭の怪物』の内部に残存している、ヒトの肉片からは血が吹き上がる。


痛ましい破壊の魔力は暴れるが、金色の糸に絡み取られたフリジアは焼かない……。




―――極めてコントロールの利いた、魔力の奔流だったよ。


『繭の怪物』の動きを止めて、フリジアを助けるにはそれしかない。


100%の殺意を帯びた集中力で挑んでこそ、救出は成し遂げられるだろう。


ビビアナは大粒の涙をボロボロとこぼしながら、叫び続けた……。




「や、やれ!!や、やってしまうんだ!!」




―――シモンは、この攻勢を大喜びしている。


意地悪からではなく、死の恐怖から逃れられるチャンスだからだった。


『繭の怪物』が倒されなければ、シモンは遠からず殺されただろうから。


シモンは悪人じゃなくて、ただのありふれた普通の男に過ぎない……。




―――戦場なんていう極限の場で、他人様に見せられるような姿を保つのは困難だ。


『繭の怪物』に挑む勇気なんて持たないくせに、ビビアナを見ているだけのくせに。


彼は破裂しそうなほどの笑顔を見せつけながら、ビビアナを応援する。


悪気なく、ただ生き延びたくて必死な小市民だった……。




―――誰もが、英雄にはなれない。


男に生まれたからといって、戦場で期待される一人前の男になれるとは限らない。


幸いなことに、シモンの笑顔も喜びに揺さぶられる大声も。


ビビアナとフリジアの必死さの前には、届きもしなかったんだ……。




「や、やめろお……っ。ビビ!そんな、悲しいことをしちゃダメだっ!!」




―――暴れる『繭の怪物』を、フリジアの両腕が抱きしめる。


そうしなければ、この金色の触手がビビアナを切り裂いてしまう危険があったから。


『繭の怪物』はしぶとく暴れて、背後のビビアナを狙っているんだ。


親友を守りたくて仕方がない、やれることも考えられることも他になかった……。




―――『ハーフ・エルフ』の魔力が、『繭の怪物』に死を与えていく。


暴れるしぶとさは消え失せ、死に怯える藻掻きを始めた。


悲鳴が上がった、メダルドの声ではなく先ほど呑み込まれた若者のそれだ。


「痛い、痛い。怖い、怖い」と、悲しい訴えを融けかけの骨が叫ぶ……。




「……ご、ごめんなさい。叔父さま……叔父さま、ごめんなさい……っ」




―――ビビアナには、メダルドが苦しんでいるように感じられた。


事実と異なっていたとしても、そう聞こえる。


罪悪感は、自責の解釈を与えてくるものだ。


本物のメダルドならば、姪を苦しめるような悲鳴を上げなかっただろう……。




―――『繭の怪物』が、ついに動きを止めてしまった。


その場にゆっくりと、崩れ落ちる。


焦げついた金色の糸がほどけていき、戦いでひび割れた石畳に力なく広がった。


フリジアの目の前に、世界でいちばん悲しい顔をした親友がいる……。




「ど、どうしよう……っ。こ、殺しちゃった……お、叔父さまを……殺し、ちゃった……」




―――壊れそうな、いや壊れつつある心がいた。


フリジアはたまらなくなり、かける言葉を見つけられないままでも抱きしめる。


怯えて震える親友の体は、とても細くて弱々しく感じられたんだ。


ずっと支えてあげたくなる、言葉は思いつけないから抱きしめる腕に力を込めよう……。




「ど、どうしよう……ど、どうしよう……っ」


「だ、大丈夫だ。大丈夫だぞ、ビビ……ッ。き、きっと、きっと……きっと……」




―――言葉が、つながってくれない。


フリジアも、すべての事情を知り尽くしているわけではない。


それでも、メダルド・ジーが生贄として消費されたことは分かっている。


『ゴルメゾア』にされた、多くの孤児たちのように……。




―――怪物の一部にされた孤児たちは、元の姿に戻れなかった。


『繭』が、戻るための唯一の方法だとするのならば。


その奇跡の道具も、焦げて崩れて力なく横たわっているのだ。


「きっと……」、それから先に希望的な言葉なんてつなげられない……。




「ああ、あああ……ああ……っ」


「ビビ!ビビ、しっかりしろ……しっかり、してくれ……」




―――そんな言葉をかけることさえも、酷だと思う。


親を殺させたようなものだ、フリジアは自らを責めた。


こんな結末になるならば、自分こそがやるべきだったのに。


一生恨まれたとしても、ビビアナをここまで傷つけさせるよりマシだった……。




「叔父さま……叔父さま……っ。た、助けてあげたかったのに……っ。叔父さまには、帰る場所があるのに……わ、私みたいな疫病神の『狭間』を、本当の家族として、む、迎え入れてくれた方だったのに……私は、私は、わ、わたしは……っ」




―――悲痛な声に、抱きしめるだけしか選べない。


無力なフリジアも、ボロボロと泣いている。


大きな悲劇を前にしたときは、ヒトに選べることはあまりにも少なかった。


青く晴れた空の下、涙はまるで雨……。





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