第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三百三十一
―――魔力を吸われ、長時間の戦闘で体力もすっかりと疲弊している。
女神イースは勝利を確信しているが、こちらには切り札があった。
心を覗き見する権能から、ソルジェとミアが隠し切っている一手がね。
ふたりとも、さすがは猟兵だ……。
―――この瞬間まで、隠し切ってみせるなんて。
心のなかに浮かべることもないまま、耐えに耐えた。
ゼファーがどうにか『ゴルメゾア』と競り合い、女神イースと合流出来ていない。
当初の予定とは異なるが、この状況でも問題はないだろう……。
―――魔力を吸われ、息切れしつつあるソルジェだが。
その顔には笑みだけがあった、猟兵らしい強さの証がね。
ソルジェは魔眼を使い、ゼファーに連絡する。
「どうにか、そいつを抑えてくれ!!」……。
『まかせて、『どーじぇ』ッッッ!!!』
―――女神イースは、ソルジェが何かを仕掛けようとしていることに気づいた。
だが、視線を向けるのが精いっぱいだ。
ミアとルルーシロアの猛攻が、彼女をその場に釘付けにしている。
戦いながら権能を使おうとして、違和感を知ったよ……。
―――精神力で作戦を隠すことまでは、可能だろうと女神も認めた。
それでも何かを仕掛けようとしているこの瞬間にまで、その意図が読めない?
おかしなハナシだと思いながら、ただ一つの可能性に行きついた。
『そもそも権能が通じない相手』ならば、いつまでも隠し通せる……。
「『ギルガレア』あああああああああッッッ!!!オレに、力を貸せええええええええええええええッッッ!!!」
―――空に掲げた竜太刀から、鋭い牙の列が生えて踊る。
それは空を喰い破るような力でもあったのか、空に赤い裂け目が生まれていった。
女神イースは、自身にも列なるその力を感じ取り。
美しい顔を、大きくしかめてしまう……。
『おのれ、私の権能を……ッ』
―――空には、逆さ吊りになった『もうひとつのオルテガ』が姿を現す。
『不滅の薔薇の世界』、『ギルガレア』が創り出した理想郷。
その場所には、この状況を乗り切るどころか逆転させる特性があった。
あの場所では竜騎士姫の物語さえも、蘇るのさ……。
「ちょーっと、思い出して来てるよ。竜騎士姫のコト!!『ギルガレア』のおっちゃん、いい仕事してる!!」
―――ミアは、心からの笑顔になったよ。
『ギルガレア』から継承したあの場所は、ミアの考えの通りに機能していた。
『歌喰い』という古き『ゼルアガ/侵略神』の権能さえも、あそこでは消え失せる。
『あらゆる神々の干渉が起き得ない場所』であり、それはつまり……。
「あなたの権能だって、『ゼルアガ/侵略神』の力だよね。だから、きっと、打ち消せると思っていたの!!」
―――空に広がる『もうひとつのオルテガ』は、女神の権能を妨害していた。
完璧にではないが、亜人種の戦士たちがその場に置き上がれるほどにね。
『オルテガ』を中心に広がっていた、厄介な権能の場は崩されている。
女神イースは、自分が最大の窮地に立たされたことを理解した……。
「今なら、あなたは無敵じゃないかもしれないよね!!」
『きりさき、くいちらかせば、しぬということかッッッ!!!』
「そういうコト!!倒せるよ、今なら!!!」
『……調子に、乗るな!!』
―――女神イースは、方針を変える。
ミアとルルーシロアに向けて、荒々しい突撃を放った。
敗北出来ないのは、彼女も同じだ。
威圧的な迫力を帯びて、赤い槍と赤い翼でふたりを攻め立てていく……。
―――保守的な時間稼ぎをする意味が、無くなっていたからね。
むしろ、これからはそれをするだけ損だった。
吸い上げていたはずの魔力が、『逆流』を始めてもいる。
あるべき場所に戻ろうと、魔力は奪われた者たちに返還されていたのさ……。
「呼吸が、楽になっている……?」
「女神の呪いが、消えたのか!!」
「何であれ、これは……ッ」
「逆転の、勝機だあああああああッッッ!!!」
―――『もうひとつのオルテガ』の下で、復讐者たちが歌った。
地獄のような疲弊の苦しみから解放された彼らは、女神を探す。
一秒でも早く、女神イースを倒すために。
この回復の奇跡が、いつまで続くのかを彼らは知らないからね……。
―――もちろん、それはソルジェとミアにも言えることだ。
『ギルガレア』から託された遺産を、ソルジェは見事に召喚してみせた。
それはさすがの一言だけど、『もうひとつのオルテガ』の全容を把握してはいない。
『権能破り』の力があるとは見越したが、それが何時まで続くかは不明だ……。
―――それゆえに、急ぐ必要がある。
ソルジェは息を整えると、ミアとルルーシロアの元に向けて走った。
女神の護衛である『ゴルメゾア』は、ソルジェを止めようとするが。
ゼファーに噛みつかれて、その行動は封じられる……。
『いかせ、ないぞ……ッ』
―――竜太刀と共に、『オルテガ』の城塞を駆け抜けて。
ミアとルルーシロアと死闘を演じる女神の背に、飛び掛かった。
女神イースは、鋭い視線でソルジェをにらみつける。
それだけが精いっぱいだったよ、赤い翼をうねらせたところで……。
「『カール・メアー』武術は、もうオレたちには効かんッッッ!!!」
―――赤い翼が、またたく間に斬って裂かれていた。
どこまでも『カール・メアー』らしく、彼女たちの武術の化身だった。
それを超えることを、彼女自身も望めない。
神さまは絶対的な存在であり、彼女は『カール・メアー』のための女神だ……。
―――変われないし、そもそも変わる必要もなかったはずだった。
千年の検証の果てに、亜人種を根絶やしにすることで。
この大陸から人種の差によって起きる争いを、永遠に排除する。
そういった慈悲を貫くために、他の可能性を拒まなければならない……。
―――彼女は変われないし、変わるつもりさえなかった。
ただひたすらに『カール・メアー』の理想を体現し、それを叶える。
そのおかげで、ソルジェたちは勝てた。
女神イースの身体能力で、もっと変則的に戦えれば勝利は不可能だったはず……。
『変われん。退けん……敗北など、許されるかッッッ!!!』
―――赤い波動が、女神イースから解き放たれる。
とどめを刺そうとしていたソルジェとミアを弾くほどの、強い圧力だ。
ヒトの力では、近づけはしない。
だからこそ、竜騎士には竜がいた……。
「ルルー!!噛みついちゃえッッッ!!!」




