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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百十四


―――衝突することは、認識を深めてくれた。


痛みや失敗が、自分の理想の方向へと導いてもくれる。


女神イースとふたりきりの世界に招かれても、今のフリジアは迷うことはない。


自分の理想を勝ち取るべきだと、心から信じられた……。




『傲慢だとは思わないか?千年の検証に、お前は挑もうとしているのだぞ。お前を育てた『カール・メアー』の悲願に反して。それほど友情とやらが大切なのか?』


「はい。ビビが教えてくれました。女神イースさま。あの子は『狭間』です。しかも、悪名高い『人買い』ジーの一族の娘。それなのに、私はあの子を受け入れられる」


『おぞましい血筋だとは、思わないのか?』


「今は、思っていません。生まれは、あの子の罪ではないのです」




『限定的な絆だろう。お前と彼女は、人種の壁を越えられたのかもしれない。終生の友情を得たのかもしれない。だが、それが何になる?お前たち以外には、その友情はない。やがて世界は、ありふれた道筋を辿る』


「誰もが、ジーの一族を許したり、『狭間』を受け入れられたり……それほど、世の中は柔軟ではないかもしれません」


『彼女は不幸になる。他のあらゆる『狭間』たちと同じように。仲間や友人に守られようとも、世界のすべてからは守られない。阻害の絶望は、孤独は、必ずやビビアナ・ジーを不幸に導く』


「……そうかもしれない。それでも、女神イースさま。私は思うのです」




『何を、思った?』


「不幸な結末になったからといって、ヒトは不満なのでしょうか?」


『お前は、恐ろしい言葉を口にしているぞ。不幸を、肯定しようとしている』


「はい。私は未熟なので、どうにも極端な考えに至ってしまうのかもしれません。でも、私は、不幸な結末になったとしても、それを拒もうと戦った者たちのなかに、満足しながら死んだ者たちがいると信じています」




―――ビビアナの両親を、フリジアは考えた。


ビビアナのために命を削る呪術を使い、その結果として亡くなった者たち。


客観的に見れば、悲劇かもしれない。


だが、そのふたりは何かを成し遂げていた……。




「悲劇は、大きな痛みです。でも、それがあるから確かめられる愛情もあるのだと、ビビは教えてくれました」


『学ぶための悲劇は、とうに千年の期間を繰り返している』


「多くの者には、これまで伝わらなかったのかもしれません」


『これからは、異なるとでも言うのか?』




「変わらなければ、ならないのです。『カール・メアー』の教義では、不完全だったから」


『どう、変わると?』


「……寄り添い続ける道が、正しい。ただただ信じて、ただただ努力を重ねる。痛みが教えてくれる大切な価値に従い、正しい道へと歩めばいい」


『残酷な道だ。そして、古い道でもある。その結果が、今の世界だ』




「その道を、より究めるのです。『狭間』や亜人種に、門戸を開けばいい。『カール・メアー』の慈悲は大きなもの。私のような捨て子や、傷ついた者たちを受け入れられた。閉ざしていた扉を、もっと開けばいいだけ」


『それでは多くを救えないからこそ、『カール・メアー』は亜人種たちに、せめて安らかな終焉を与えると決めた。お前の道は、すでに試し尽くされて、否定されている』


「それでも、貫くのです。信じるのです。神さまや信仰にもやれなかったコトを、ヒトは己の力で成し遂げられると」


『不可能だと、言っているのがどうして分からない』




「いいえ。可能です。まだ成し遂げていないだけで、あきらめていては……可能性は死んでしまいますから」


『妄信が、何を衆生から奪うかを学ぶ必要がある』


「奪われる痛みが、私を貴方に槍を向ける覚悟をさせてくれました。ビビのためなら、私は『カール・メアー』という『家族』も、私を受け入れてくれた仲間たちさえも、裏切れました。誇れるような道では、ありません。私は、とても罪深い女です」


『そのあげく、私に戦いを挑んでいる。それで、お前は満足するとでも?』




「怖いコトなのですが。満足しているのです。ビビを助けられたら、私は死んだとしても満足できるので。私は、世界よりも大切な友情を知れました。とても、痛くて、とても、苦しくもありましたが……女神イース、貴方の遺した信仰が、私を支えてくれたのです」


『信仰に刃向かって得た痛みに、お前が身勝手な価値を与えただけに過ぎない』


「いかにも、そうです。だから、罪深くもあるのですが。迷いなく、いられます。ビビも女神イースの教えも、私にはとても大切だからこそ、これだけ胸が張り裂けそうに痛むくせに、それでも迷いなく笑顔でいられるですから」


『……善き出会いでは、あったらしい。だとしても―――』




「―――はい。だとしても、貴方の……『カール・メアー』の『やさしさ』は、許さないでしょう。抱きしめる腕で、愛を込めて……未来にある無数の悲劇を絞め殺す。悲しみももたらす可能性を、すべて排除すれば、人種が原因の戦いはなくなりますから」


『世界は、より平和になるだろう』


「ですが、その道に、私は価値を見つけられません。多くの者が苦しみながら、痛みや絶望と戦いながら、選び、積み上げていった道こそが、本当の価値ある『未来』だと信じます。そして、信仰は、それを信じて支え続けるだけでいい」


『傲慢だな。無数の悲劇を、無数の痛みを、お前は見過ごそうとしている。そのような傲慢さは、神々にだけ許されるものだ』




「貴方のような、神さまだけに許されると?」


『ヒトでは背負い切れまい。力も、この『切除』の痛みも。未来に向けて広がり続け、繰り返される悲劇を、希望ごと私は『切除』するのだ。より多くを、救う。愛しい命をも、犠牲にして』


「……貴方は、やはり、とてもやさしいです。女神イース」


『お前たちの苦しみもだ。いくら、教義で理論武装を施しても、亜人種や『狭間』を死なせることで、多くの痛みを背負っただろう。彼女たちの、悲しみも絶望も、私は背負い、応え、救ってやらねばならない。お前の言った通り、『私は『カール・メアー』の女神イース』なのだから』




―――信心は麻薬のようなもので、正しさの理論武装で痛みを誤魔化してくれる。


多くの『カール・メアー』の巫女戦士たちが、苦しみを抱えていた。


必死に『正しい』と思い込みながら、亜人種や『狭間』を処刑していからね。


人一倍はやさしい乙女たちに、そういった行為は苦痛でもある……。




「正しさで、和らげながらではないと。悪いコトは、やれませんから。誰かから命を奪うなんて、恐ろしいコトも」




―――女神イースは、『カール・メアー』の巫女戦士たちに応えたい。


彼女たちも『良かれと思って』、たくさんの亜人種や『狭間』を殺したんだ。


『良かれと思いながら』も迷いはあるよ、絶望に染まった者たちの瞳は物語るからね。


正しいと思い込もうとしても、その認識は悲鳴に揺るがされた……。




『彼女たちは、未来に約束しながら、多くの者たちを殺めた。死ぬ理由もない、罪なき幼子にさえも手をかけて。私は、そのような苛烈な覚悟の道を歩んでくれた『カール・メアー』に、呼び出された女神イース。応えてやる。多くの痛みに報いた、完璧な未来を与えることで。お前が見つけられなかった価値は、とっくの昔に支払われた痛みで保証されている』




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