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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百十三


「ああ。パロム殿の分まで、戦う!!」

「これを……使って」

「槍、だな」

「馬上では、剣なんで使いにくいでしょう」




―――託されたものは、かなり大きいものだ。

所属する文化は大きく異なるものだけれど、戦士のすべきことに種類は少ない。

戦い切るために、戦場へと向かう。

槍を握りしめるとうなずき、『曙』の首をなでた……。




―――『曙』が走り出し、パロムは見送りながら地面に倒れる。

『水晶の角』の操作を、彼女はまたひとつ学んでいたからだ。

お互いをフォローし合うように、それらはパロムと『曙』をつなぐ。

そういう仕掛けを、彼女たちは自らの意志で『切断』した……。




―――ディアロスは北方の戦士だからね、戦いの技巧は磨きぬいている。

もしも、戦場でディアロスかユニコーンのどちらかが絶対に助からない傷を負えば?

互いのつながりを『切断』することで、体力と魔力を有効活用する手段を作っている。

そうすれば元気な方は、まだ戦えるからだよ……。




―――彼女たちらしい、荒々しくも合理的な方法だった。

『曙』はパロムをフォローしなくていいからこそ、よく走れたんだ。

感情があって知性の高いユニコーンらしく、少しばかりの感傷もあったけれどね。

泣いていたよ、パートナーを戦場に運べないという大きすぎる屈辱のせいで……。




「……ありがとう。パロム殿の分まで、戦い抜く」




―――せまい『オルテガ』の街路を、駆け抜けた。

血と怒号と、負傷者たちや疲弊した亜人種たちの苦悶に満ちた広場。

ありふれた表現で言えば、地獄そのものだった。

戦場らしい光景ではある、空気に殺意と血と鋼のにおいが満ちているなんてね……。




―――まるで、帝国軍の侵略戦争のようだ。

多くの場合、帝国軍は勝利を果たして来たからね。

亜人種たちは戦場に寝転び、ただひたすらに死を待つだけとなる。

戦いが終わってから死ぬ者も多い、騎士道を尊ぶ者は稀ではあるのだから……。




―――武器を持たぬ者を、あるいは武器が持てなくなった者たちを『襲わない』。

そういった戦場の古い美学は、失われつつあった。

戦争論の一種の『進化』、そうとも言える変化だ。

戦はかつてよりも広大な意味を持つようになり、残酷かつ合理的になっている……。




―――フリジアは、子供のときに訊いたものさ。

『カール・メアー』の尼僧たちに、子供らしく実に素朴な疑問をね。

「どうして、戦なんてあるの?」。

「しなければ、みんな死なないのに」……。




―――戦の傷病者が、『カール・メアー』に流れ込むことも少なくはなかった。

およその宗教組織がそうであるように、『カール・メアー』も医療提供をしていたよ。

傷つき苦しむ者へ、治療を施してくれる無償の集団は貴重だからね。

たくさんの死傷者を見ていれば、子供だって素朴かつ賢い質問を口にする……。




―――フリジアは、リュドミナにもその質問をしていたことを思い出した。

詠唱長は静かに答える、「世界が不完全だからですよ」。

「全員が女神イースの庇護を受けられる者たちになれば、おのずと争いは消える」。

「慈悲深い行いです。戦とは、せめて、そうあるべきでしょう」……。




―――世界を平和にするために、戦う。

その建前はフクザツだから、幼いフリジアには理解が及んでいない。

それでも、詠唱長は飴玉をくれながら続けたよ。

「いつか、争いがなくなる日を祈っています」……。




「……これが、争いをなくすための争い?……やはり、それは違うと思う」




―――フリジアは『仮面』を用意したよ、それをかぶった。

『カール・メアー』と認識されないように、匿名性を頼りたいわけでもない。

自らの力を最大限に引き出すために、『仮面』と自己暗示に頼っただけ。

『仮面』越しに、敵をにらみつける……。




「あれが、女神……イース……っ!!」




―――赤い六枚の翼を持った、美しい女。

人間族の戦士たちの軍勢を、受け止めながら宙に舞う姿は神々しさに満ちていたよ。

聖典に描かれた姿そのものだから、フリジアは本能的な感動をしてしまう。

しょうがないことさ、『カール・メアー』のイメージ通りの女神なのだから……。




「どれだけ、祈ったか。どれだけ、実在してくれたら、さみしくないことか」

『……ヒヒン!?』

「ああ。安心しろ。あの姿は、私の心を掴むが……偽りだとは、理解している。詠唱長殿が作った、偽りの女神……それでも、美しいよ。だとしても、戦えるから疑うな!槍を構えておいてやる!!一撃の『突き』に、すべて捧げてやるぞ!!」

『ヒヒイイン!!』




―――『曙』は信じたよ、フリジアが自らの味方だと言うことをね。

大声で鳴いたから、戦士たちは『突撃』に気づいてくれる。

『曙』の『道』が開かれて、そこからは全速力だ。

女神イースに戦いを挑む若者たちに、ガンダラが命じてもくれたよ……。




「ユニコーンの突撃が向かいます!!戦士たちよ、女神の両翼に分かれなさい!!」




―――正面突撃のための道が、開かれた。

『曙』は迷うことなく、残りの体力を使い切るように加速する。

女神イースは、もちろん気づく。

フリジアについてもね、彼女の心を覗きにかかった……。




―――突撃の時間が伸ばされていき、時間の流れは緩慢なものになる。

記憶のすべてが読み尽くされ、女神イースは表情をいかめしいものへと変えた。

『カール・メアー』の巫女戦士が、背教者となったことを悲しんでいる。

心のなかに這入り込むと、この哀れな少女に問いかけてやった……。




『……伝えたい言葉は、あるか?』

「……ありがとう。一目、女神イースの姿を見れた。それだけで、大きな喜びを得られます。ありがとう……きっと、レナスは救われた。あの不幸な女は、見事にあいつなりの使命を果たしたと思う。感謝は多い。喜びも多い。貴方たちの『正義』の、大きさは感じられる。皆が、やさしいのだ」

『慈悲のために、すべては行われる』

「はい。素晴らしい信心だ。それでも、『私の信じる女神イース』は、この世界に不在だから良いのだと確信できる」




『願いを叶えてやれる。それを、望ましいと思わないのか?』

「信心はつなぐ力を、強めてくれた。敵となった今でさえ、レナスや詠唱長殿とも心の一部がつながっている。それは、女神イースを追い求めた私たちの心が作った絆です。与えられ、押しつけられたとしても、この痛みも喜びも入り混じった、豊かなつながりは得られない」





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