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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百十二


―――『オルテガ』の状況は、悲惨の一言に尽きたよ。


亜人種の戦士たちどころか、非戦闘員も含めて完全に青息吐息だ。


意識を保っているだけ、上出来と評価してもいいかもしれない。


例外あつかいされているのは、ミアとビビアナだけ……。




「しっかりしろ!!パロム!!」


「はあ、はあ……分かって、いますよ……っ!!」




―――屋根から屋根に飛び移るなんてマネは、今のパロムにはもちろんやれない。


だから、同行しているフリジアは肩を貸した。


傷だらけだったよ、ふたりともね。


屋根から落ちかけたパロムの腕をつかんだあと、もつれるように路上に落ちたからだ……。




「人間族は、この状況でも、息苦しくないようですね……っ」


「そうらしい。女神イースの、せいだろう」


「……でしょうね。『曙』が、教えてくれていますから」


「『水晶の角』とやらは、便利なものだな」




―――体調の悪化を感じつつも、パロムはムリして飛んでいたよ。


その結果、飛び移れずに地上に落ちかけた。


フリジアは見捨てられなかった、いいヤツだからね。


そのせいで、あちこち強打してしまっていたが……。




「……助けて、くれるとは……でも、足手まといを増やした」


「足手まといには、ならない。かならず、ミアやビビの役に立つ」


「……なら!……私を、置いていけば、いいのに……」


「お前は、行きたいんだろ。戦場に」




「当たり前です!!これは、亜人種たちへの呪い。同胞たちが、苦しんでいるのなら!!戦うのが、ディアロス……っ」


「強いな。感心する」


「……うるさい。こんな、意固地になってる……足手まといに、そんな評価しないでくださいよ!!」


「それでも、一緒に行きたい……」




「……ずるい、女です。あなたは……」


「そうかもしれない。いや。そう、だろうな」


「女神イースが!!……あなたの、敵になろうとしているから……っ。ひとりで、戦いの場に向かうのが、怖い、だけでしょうに!!」


「うん。認めるよ。私は、私は……その場に、行くのが、怖くもある」




―――『カール・メアー』のせいだから、元・『カール・メアー』の巫女戦士は責められる。


それを覚悟していたはずだけど、状況はさらに悪化していた。


路上に亜人種たちが転がり、彼らは苦しそうに呻いているのだから。


この責任を、フリジアは背負わなければならない……。




「私のせいでもある。これを、こんなコトを望んではいない。いなかったけれど。それでも、『カール・メアー』の責任なんだ……っ」


「……そう、ですよ。本当に、あなたたちって、サイテーです……っ」


「もっと、私に体重をかけていい。背負ってだって、やれる」


「けっこうですよ……っ。そんなマネ、したくない。されたくないんだ!」




「憎まれても、当然だからな」


「……あなたが、憎いわけじゃない。でも……っ」


「うん。ありがとう。だから、怖がらずに……いや、怖くても進めてる」


「……やっぱり、理解できない。あなたは、バカです!!」




―――どれだけの憎悪を、浴びることになるのか。


勇敢で単純なパロムでさえ、理解が及ぶに決まっている。


殺してやりたちと、亜人種の全員が考えているはずだった。


ミアやビビアナさえ憎しみを向けてもおかしくないのに、とパロムは考える……。




「だって、こんなに……死ぬほど、苦しいのに……っ」




―――それは、あまりにも怖い感覚だった。


死の持つ冷たさや空虚さが、全身に広がっていく。


戦いで死ぬのならば、覚悟していた。


戦えもせずに、ただ弱り切り死ぬかもしれないなんて……。




「命が、消えていくような、感覚が怖くて、怖くて……なさけない、気持ちになるのに……」


「……私は、これを。否定したいんだ」


「意味、分からないですよ……」


「女神イースの慈悲は、こんなものじゃない。もっと、やさしくあるべきなんだ」




「あなたの、思い込みでしょうに……」


「……いいや。思い込みじゃない。それを、証明してやる」


「……ちくしょう。ほんとうに、ずるい……っ!」


「そうかも。旗幟鮮明とは、まったくの逆な行いだな。私は、『カール・メアー』なのに」




「嫌いです。嫌いだ……っ。大嫌い。もっと、世界って、シンプルじゃないと……憎めもしない。こんな、苦しくて、情けない状況にされているのに……怒りもぶつけられません!!」




―――いい子だった、パロムは模範的なディアロスの戦士だ。


戦いで死にたいと考えている、だからこそ『間違った判断』にすがりつく。


これだけ疲弊した自分では、何の役にも立ちはしないのに。


ただの自己満足にすがりついて、フリジアに負担をかけ続けてしまっている……。




「私は、バカだ。バカだ!……こんな間違った選択をして、歯がゆさで泣いてる。みじめな、戦士です。もっと!優等生だと、思っていたのに……っ」


「似ているな。私も、自分をもっと優秀だと信じていた」


「どうして、達観していられるの?あきらめてもいないくせに……」


「私も、意外とバカだったタイプだから。説明なんて、やれない……けど」




「けど、なんですか?」


「信じているだけだ。諸々の間違いを、正すために、すべてを捧げればいいと」


「……嫌い。弱っちいくせに。大したヤツじゃないくせに。本当に……本当に……」


「……うん。すまない。もっと、正しくて強いヤツだったらよかったのにな」




「……あなた、ごときが。誰かの助けになるなんて、思えません。強行軍で、ボロボロです。私まで、かばって……っ」


「ああ。ミアとビビを助けたい。それでも、力不足は知っている」


「なら、どうして……」


「助けにならないかもしれない。助けられないかも、しれない。でも、助けたい。助けたいんだよ。弱くても、雑魚でも……弾避けぐらいには、なってやりたいんだ……ッ」




―――ディアロスの戦士にとって、最前線で死ぬのは名誉だ。


北方の戦士たちの多くに共通する、戦での死の栄誉。


パロムも、それに殉じたかった。


きっと家族もそれを望むだろうし、何より自分が満足するだろう……。




―――唇を噛みしめて、若い血があふれてしまっていた。


無意味な自傷だが、この屈辱に耐えるためには必要だ。


彼女だって、どれほど不本意なのか。


それでもパロムは選ぶのだ、彼女の願いに『曙』は応えていた……。




『ヒヒイイン!!』


「お、お前は?」


「『曙』ですよ、私のパートナー」


「そうか。こいつがいてくれるなら……!」




―――戦場から、『曙』が駆けつけてくれる。


フリジアとパロムの目の前で止まり、その背中に『乗れ』と伝えた。


フリジアは素早く飛び乗ると、パロムに手を貸そうとした。


引き上げてやるつもりだったが、パロムは首を横に振っていたよ……。




「どうして!?戦いに、行きたいんだろう!?」


「役に、立たないからです。『曙』だって、疲れている。無理をさせれば、弱くてなってしまいます……っ。だから、せめて……っ」




―――ディアロスの戦士にとって、この『譲歩』がどれほどの苦悩なのか。


フリジアにも伝わっていたよ、あまりにも大粒の涙が純粋だったから。


泣いている、泣くに相応しい。


戦士にとって、自分が役立たずと判断してしまうなんて……。




「運命って、不公平だ!!」


「どうした、いきなり!?」


「どんなに望んでいても。あきらめたくなくても。やるしかない。見届けるコトだって、やれない」


「パロム、お前……」



「行って、ください。私の、分まで……っ。戦いなさい、『カール・メアー』!!フリジア・ノーベル!!それが、それが……弱っちい私にやれる、最善の策なんですからっ!!」




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