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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百十


―――整然とした帝国軍の隊列が迫るなか、ロロカは戦士たちに足踏みをさせる。


こちらも一致したリズムを作り、士気を鼓舞するためだった。


戦場において音は大きな意味を持つものだよ、作戦を全員に明瞭に伝える力を持つからね。


権能対策を施しているカミラにとっても、幸いだ……。




『こちらの動きも、把握しやすくなるっすからね!!』




―――敵の術のリズムに、守るべき仲間たちのリズム。


それらをカミラは感じ取りながら、『闇』の力の制御に尽くしていく。


大きな課題ではあるけれど、それだけに成長を促すことにもなっていた。


カミラはまだ『闇』を扱い切れていない、成長途中の未熟な猟兵でもある……。




―――未熟さや課題の多さが、脆さにつながるとは限らないものだ。


多くの賢者が書き残してきたように、それらは発明の母ともなる。


完成してはいないからこそ、カミラはとても柔軟に可能性を使えたのさ。


吸い上げられていく魔力の流れを感じたとき、『受け渡せるのではないか』と考える……。




―――ククリとククルの双子が、成し遂げていた戦術があったからね。


ふたりがかりで、魔術を組み上げるという技巧だよ。


魔力や魔術というものは、ただひとりの体内で完結しているものじゃない。


そういう可能性を、すでにカミラは見ていたからこそ考える……。




『この魔力の流れを、利用できるかも……敵に吸われるのを防ごうとはしているっすけど。完璧じゃないっすからね。じゃあ……『どうせ吸い上げられてしまう』のなら、それの流れの方向を変えられたら……?』




―――カミラは自らの分身である『コウモリ』を一匹、リエルのもとへと飛ばす。


弓に矢をつがえて、敵の出鼻に撃ち込もうとしていた森のエルフの弓姫。


リエルの矢は戦場で圧倒的な武器にはなるものの、もうひとつの武器も強力だ。


『戦場では使うべきではないとされている攻撃用の魔術』、最強の魔術師のひとりだよ……。




「どうしたのだ、カミラ?」


『リエルちゃん。上空に、敵に吸い取られそうな魔力があるっす。それを、魔術として敵にぶっ放せないっすか?』




―――魔術のシロウトでもあるからこそ、カミラの発想は伝統や常識を乗り越えていた。


奪われてしまった魔力を、カミラが操り。


その魔力をリエルが構成して、魔術と成す。


ふたりの会話を聞いていたロロカが、眼鏡の下で目を見開いていた……。




「リエル、やれますか?」


「……ロロカ姉さま、私ならば、やれます!!」




―――自信満々の笑顔になっていたよ、リエルは自分こそが最強の魔術師だと信じている。


魔術の制御については、誰にも負けはしない。


何よりも、楽しそうだと感じていた。


不謹慎な天才性が、もちろんリエルにもあるのさ……。




「カミラ、やってやるぞ!!我々から奪われた魔力、敵に使われる前に、私が使ってやるとしよう!!」


『は、はいっす!!』


「可能ならば、『炎』……『火球』を。『空からの爆撃』です。まるで、ゼファーのそれのようなものがいい。竜がこの戦場に来たと、敵に思わせたい」


「さすがは、ロロカ姉さまだ!!」




―――カードゲームの達人は、駆け引きを心得ている。


竜が参戦したと思い込ませれば、効果的に敵の士気をくじけるだろうからね。


それに、空を警戒しながら進む軍勢の勢いは弱まる。


ロロカの選択は、いつでも効果的だった……。




―――リエルはさっそく、魔術を詠唱し始める。


リエルにとっても、初めての挑戦ではあった。


『自分以外の魔力』で、魔術を使うなんてね。


だが、やれると信じた……。




「シンプルで、力強い。竜の『火球』のような一撃……初歩の初歩。私が、三才のときに始めて使った魔術が、ちいさな『火球』である……カミラ、私のアタマにとまるがいい!」


『はいっす!!ちゃーくち!!』




―――銀髪のなびくアタマのてっぺんに、『コウモリ』がとまる。


リエルは命じたよ、「私と動きを同調させるのだ!」。


『こうっすか!?』、『コウモリ』のちいさな翼が空に向けられた。


「呼吸を合わせろ。お前とふたりがかりで、魔術を成すぞ!!」……。




―――カミラにとっても、初めての魔術と言える。


『闇』以外の魔術は、『吸血鬼』である彼女は使えなかったからね。


間接的にではあるけれど、『ヒトに許された魔術』を使えるなんて。


カミラには、心が躍る行いでもあった……。




「うむ……掴めて来たぞ。やれる、カミラ……私の矢が、最も高く飛んだとき。それに魔力を押し込むのだ。そうすれば、術は成る!!」


『は、はいっす!!』




―――リエルが空に向けて矢を放つ、天空の高みに飛んだそれが『起点』となった。


緋色にかがやく紋章が、その矢からあふれるように広がっていくのさ。


それに向けて、カミラは魔力の流れを操作してみせる。


軍隊ひとつから吸い上げられた魔力の量、それらの一部が『起点』へと合流した……。




―――魔術は、魔力の量と術を成す才能から組み上げられるものだよ。


普通はひとりの体のなかで、それらのプロセスのすべてが行われるけれど。


『単純な初歩の魔術/火球』ならば、ぶつけ本番でも成功してみせた。


さすがはリエルとロロカ、大魔王の妻たちらしい才覚だろう……。




―――空が赤くかがやいて、巨大な『火球』が生まれていた。


轟々とうなる声で空をかき混ぜてしまいながら、そいつは敵陣目掛けて落ちていく。


完璧な隊列を見せつける、敵の隊列の最前線を狙ってね。


出鼻をくじく、あるいは「見せつけてやるのだ!」というリエルらしい発想だった……。




―――帝国兵どもは、空から襲いかかる死の運命に驚愕する。


ゼファーの『火球』ほどの速度はないが、彼らはそれほど竜に詳しいわけじゃないからね。


ロロカの計算の通り、「竜だ!!!」と誤認してくれた。


この『火球』の速度、かなり遅くはあったけれど威力は十分だったしね……。




―――数百人分の魔力で作った、『火球』は竜のそれ以上の威力だったよ。


数十人の帝国兵どもが、この爆撃で吹き飛んでいた。


ケガの功名というものか、女神の権能に奪われた魔力の有効活用だったね。


もちろん敵は混乱したし、もちろんロロカがこの絶好機を逃すはずがない……。




「中央突破で、打撃しますッッッ!!!」




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