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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百六


―――昔々、あるところに竜がいた。


素直になれない黒い仔竜、ザードという名の竜だった。


最愛の竜騎士姫を失うまで、真の忠誠を得ることはない。


忘却に喰われる彼女の記憶をとどめるため、この竜は自らの名に彼女の名残を刻んだ……。




『せかいが、ちょっと……ゆがんでる。ちょっとだけ、おもいだせている』




―――ゼファーはソルジェがやろうとしている行いに、気がついていた。


『ゴルメゾア』と空中での格闘戦をしながら、世界の異変を察知する。


空にいるからだろうか、それとも竜の強い記憶力のおかげなのか。


アーレスの物語の断片を、悪神の権能に消されるはずの物語を思い出せている……。




―――すべてではない、すべてではないが十分だ。


竜と竜騎士が、真なる契約を成し遂げた歴史に触れているのだから。


ゼファーは疲れているはずなのに、全身に力があふれてくる。


うごめく無数の死者で編まれた偽りの竜ごときに、負けるはずもない……。




―――牙と爪に暴力を込めて、この巨大な敵を引き裂いてやった。


引き裂かれながらも回復しようとする敵に、首から突っ込む。


うごめく死者にアタマを圧迫されながらも、にやりと笑って『火球』を放つのだ。


内部から爆破されれば、さすがに『ゴルメゾア』もこたえたのか……。




―――そうでもないらしいが、ゼファーはあきらめない。


倒し切れたなら幸いだ、こいつと女神イースを連携させるのは悪手だからね。


牙と爪で、再生していく『ゴルメゾア』を刻んでいく。


再生を上回る破壊を浴びせて、倒しにかかる……。




『……あれじゃ、だめだ。あれでは、たおせん』


「それほど、あの魔物が強いと?」


『あいつは『そと』から、いのちをすっている』


「では、無限に回復してしまうというわけですか」




『そうだ。じかんが、かかりすぎる。そうなれば……おおぜい、しぬだろう』


「いい子ですね。周りを心配できるようになった」


『うるさい。ふりおとすぞ』


「いいえ。ルルーシロア、貴方はしません。貴方は、私に訊きたいことがあるからです」




『おまえに、ききたいことなど…………』




―――沈黙とは、いつでも雄弁なものだった。


ルルーシロアの心に浮かんだのは、ミア・マルー・ストラウス。


想像力は恐怖と相性がいい、自分と対等に渡り合おうとしたちいさな生き物だ。


強いのは知っている、そうでなければ竜の背には乗れない……。




「ルルーシロア、ミアについて教えてあげます。気になっているでしょうからね」


『きになど、しては……』


「大丈夫です。ミアは、『例外』らしいですから」


『れい、がい?』




「女神イースは、ミアに対してこの厄介な権能を使ってはいないのです」


『いーす……それが、てきなのだな』


「ええ。帝国人の神さまですよ。人間族だけは、救うという思想の。ミアも私と同じく亜人種ですが、ミアはこの息苦しい権能の侵襲を受けていない。良かったですね」


『……なにを、いわせたいのか』




「言わせたいのは、誓いです」


『ちかい、だと?』


「ミアといっしょに、戦ってあげて欲しいの」


『そんなのは、おことわりだ!!』




「強く、なれますよ」




―――三つの世紀ほど昔、仔竜ザードは口説かれた。


竜騎士と共に生きれば、今よりもずっと強くなれるのだと。


心に響いたそれに、仔竜ザードはうなずいた。


ルルーシロアにも、その言葉はあまりに深く突き刺さる……。




「貴方だけでは、届かぬ高みがあるのですよ。でも、竜と竜騎士がいっしょなら、状況は変わってくれるでしょう。何処までも、貴方とミアならば強くなれるでしょう」


『あいつの、てだすけは―――』


「―――いるでしょう。貴方は、もっと強くならなければなりません。竜とは、最強の存在です。今の貴方では、成し遂げられないことがある」


『そんな、ものは』




―――金色の瞳が、海を見つめる。


『ゴルメゾア』とゼファーの戦いも気にはなるが、それと同時に。


あの『分身体』どもの動きも、気になってしまうのだ。


あれが海の底に隠れながら、戦士たちの命を奪おうとしている……。




「この戦いは、もうすぐ潮目が変わります」


『かわる、だと?』


「当然でしょう。あの赤い魔物がいくら強かったとしても、貴方とゼファーを同時に相手しようとするはずがない。ふたりがかりならば、倒せるでしょうからね」


『……つまり、やつは……』




「『オルテガ』に、あそこに見える街へと逃げる」


『……いやな、においがしているな』


「それこそが女神イース、貴方に倒して欲しい相手ですよ。それを倒さない限り、この厄介な権能は止まることはないでしょう」


『そいつを、たおせば……』




「『オルテガ』に向かって。ミアを乗せれば、貴方は誰にも負けない。やれないことは、なくなります」


『にせものも、いくのならば、おいかけてやるさ。だが、あいつは、まだねばっている。それに……』


「海を逃げ回っている、邪悪な気配を気にしているのですね」


『そう、だ』




「それならば、問題はありません。私が、連中の退治を担当しますので」


『ふざけるな。むりに、きまっている』


「あら。そちらこそ、何をふざけているのでしょう。私の実力がいかほどなのか、分かっているでしょうに」


『……おまえも、よわっているだろうが』




「そうですね。普段の一割程度の力でしょうか。ですが、私は『人魚』。海のなかでは誰にも負けないのですよ。たとえ、竜が相手だとしても負けません」


『よわっていれば、まける』


「心配してくれるのですね。でも、それは余計なお世話です。誰もが、戦っているのですよ、ルルーシロア。いくら苦しかったとしても、命をかけて戦う必要がある。私は、勝ちますよ。母親ですので」


『……はは、おや……?』




「息子がいるのです。その子は、人間族である夫とのあいだに生まれた男の子。その子も、この権能に襲われているでしょう。亜人種よりも『狭間』を『カール・メアー』は憎悪していました。ならば、より深く、痛めつけられる。それは、とても痛い。私は、自分の苦しみなどよりも、あの子を襲う不当な痛みの方が、痛いの」




―――血の赤に染まった赤い首に、レイチェルはリエルの秘薬を使う。


造血と血止めの秘薬を、大量に打ち込んであげるのさ。


わずかでも体力を回復させるために、女神イースとの決戦で勝利してもらうために。


レイチェルは分かっている、その戦いに今の自分は足手まといになるのだと……。




「とても、悔しいことです。私が全力を出せるのであれば、女神イースなど、すぐさま引き裂いてやったのに。息子のためになら、私はそれだけの力を出せるの」


『……おまえも、だれかのためにたたかいたいのか』


「あの子のためにね。そのために、海に逃げた敵は私が引き受けてあげましょう。貴方の後ろ髪を引く敵どもを、すべて排除してあげる。だから、ルルーシロア。貴方は、素直になりなさい。それは、より成長するための自己統制です」


『しぬぞ、おまえ』




「いいえ。息子のために、死にはしない。亡き夫のためでもある。私は、約束があるので。いつか天幕の下に戻る。私は、サーカスのアーティストなのですよ……さあ、お互いの役回りを始めましょう。曲芸の、時間です」




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