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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百四


―――『ゴルメゾア』は偽りの竜としての姿を、より強くしている。


無数の死者たちで編まれた巨体のあちこちから、痛ましく呪わしい赤い骨が突出した。


血を流す白骨などというものも、女神の権能の支配下では起きてしまうらしい。


赤い骨は魔力を集めて、すすっている……。




『それで、まりょくを……うばっているか!!』




―――ルルーシロアは自分のしたいことを、理解していた。


この怒りをどうにかするためには、『ゴルメゾア』を倒せばいい。


戦士たちを苦しめている者を、倒せばいい。


戦士たちのため、いいや自分のために……。




―――ガンコな彼女は、ヒトのために戦うなんてしたくなかった。


だからこそ、そういう方便も必要になってくる。


あくまでも自分のために、この腹立たしい敵を倒すだけのこと。


それならば問題ない、自分は竜である……。




―――ヒトとつるむなんて、間違いは犯さない。


ヒトの力を借りなくても、竜はそれだけで最強なのだから。


例外があったとしても、それでも自分はやはり己のために戦うのみ。


戦士たちの呼吸を聞いている、彼女を讃えた声たちはか細い祈りを捧げていた……。




「助けて、竜……赤い竜……くるしいよお」


「戦い、たい……っ。戦いたいのに、動けない……くやしいんだ……っ」


「死に、たくない……」


「夏なのに寒い、いやだ……溺れている、みたいに、呼吸が……助けて、くれ」




「……竜よ……竜よ……変えてくれ……ワシの妻は……幸せな、人生ではなかったのだ。ハーフ・エルフだ。みじめな暮らしを、強いられる……逃げて、逃げて、どうにか得た……幸せにしてやれたのかまでは、自信はないが……あいつが、理由なく……殴られずにすむ家ぐらいは、あたえてやれた……でも……そんなものじゃあ、足りない……世界が、欲しい」




―――死にかけて、苦しそうな呼吸たちが。


それぞれの祈りを捧げている、世界を変えてくれと願っている。


ルルーシロアには関係のないことであるはずだが、どうやらヒトの世界は不完全らしい。


何故だかは分からないが、それについても腹が立った……。




「変えて……くれ……ハーフ・エルフの子を、背負った赤い竜よ……お前なら、きっと……ぜんぶ、変えてくれる……世界が、欲しいのだ…………」




―――自分のために欲しいわけではないのだと、賢いルルーシロアは悟る。


今にも死んでしまいそうなこいつの祈りは、そういう意味を帯びてはいないのだと。


誰かのために、欲しいらしい。


それが自分のことのように、あるいは自分以上に大切なことらしい……。




―――ちっぽけな、死にかけだ。


そのくせ、理解しがたいことに。


竜である自分が、気にしている。


ヒトなど気にしてはいない、そんなことはかつてなかった……。




―――いいや、そうでもない。


ミアを思い出す、『モロー』の海上で自分の背に乗せて戦ったのは事実である。


あれも亜人種である、ここにいる猫耳たちのように。


もしかしたら、苦しんでいるのだろうか……。




『……しった、ことかッッッ!!!』




―――命を吸われて、息も絶え絶えな者たちが祈りを捧げる空。


ルルーシロアの血まみれの翼が、叩きつけた。


加速して、『ゴルメゾア』に襲いかかっていく。


『ゴルメゾア』は回避できない、ルルーシロアは自分の傷が開くのも気にしなかった……。




―――『モロー』の戦いで見せたような、彗星みたいな速さだったよ。


蹴爪を『ゴルメゾア』に叩き込み、そのまま至近距離で『火球』を放つ。


黄金色の爆撃は、『ゴルメゾア』を貫けない。


女神と同じように、この眷属もまた力を増しているのさ……。




『たえた、だと……ッ!?』




―――ルルーシロアも、弱っている。


血を流し過ぎれば、最強の空の女王といえども疲れてしまうよ。


『ゴルメゾア』とのあいだにあった、力量の差は狭まりつつある。


それでも、また彼女の方が強い……。




―――『ゴルメゾア』が反撃を仕掛けようと、その体から赤い骨を伸ばした。


人骨が組み合わされるようにして作られた、赤い呪いの槍だ。


それはルルーシロアの首を狙っていたが、彼女は流麗な動きで回避する。


避けながら作り上げた勢いを利用して、『ゴルメゾア』を横回転に巻き込んだ……。




―――勢いをつけたまま、海中に向かってぶん投げる。


海面に高速で激突させてやるつもりだったが、やはり失血の代償は大きい。


『ゴルメゾア』は骨張った翼を広げて、海面ギリギリで耐えてみせた。


腹が立つ、自分の疲労が不甲斐ないものだと……。




「竜よ……竜よ、お前なら………………」




―――呼吸がかすれるようなノイズを混ぜて、止まってしまう。


ああ、何かがまた痛みとなってルルーシロアの内側で暴れていた。


正体など知らない、まだこの痛みの価値を分からない。


ただし失望などさせたくはないのだ、この止まってしまった呼吸に対して……。




―――だから、使うのだ。


記憶のなかにいる、ミア・マルー・ストラウスを。


『ケットシーの竜乗り』は、竜騎士姫のパートナー。


忘れられた竜騎士姫の技巧を、『ケットシーの竜乗り』が再現した……。




―――『歌喰い』に喰われて、名前さえも忘れられた竜騎士姫。


主である彼女を真似するように、自分も名前を残しはしなかった。


それでも彼女の技巧と知識と執念は、時と世代を超えて受け継がれている。


ミアを乗せて飛んだ感覚を、ルルーシロアは『再現』した……。




『『みていろ』!!!これが、わたしのぜんりょくだッッッ!!!』




―――ほめただろう、『ケットシーの竜乗り』も。


「まるで、お姉さまを乗せたときのアーレスみたい」。


記憶など悪神に奪われていたとしても、『ケットシーの竜乗り』は確信を込めたはず。


空に再び描かれた彗星は、竜騎士を乗せた竜のように速くて強かったのだから……。




―――上昇しようとしていた『ゴルメゾア』に、彗星が叩き込まれる。


今度はどうにもならない、骨張った翼のすべてが折られてしまい。


『ゴルメゾア』は、海面に叩きつけられて巨大な水柱が上がった。


途絶えていた呼吸が、揺れた海面のせいか仲間の心臓マッサージのおかげか……。




「…………やる、じゃ、ねーか…………願いを、叶える……流れ星みたいだ……」




―――ずっと、昔。


遠い北の、ガルーナで。


アーレスが見せたように、ルルーシロアも笑った。


誰かのために戦う竜が、何よりも強いものだ……。




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