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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百三


―――猟兵らしく、役割分担ということだね。


ゼファーは地上を走り始め、ジャンは帝国兵どもの群れへと向かった。


帝国兵どもは女神イースの生きた祭壇、あるいは死体の祭壇となっている。


うごめきながら女神に魔力を供給するそれらは、とても醜いものさ……。




―――ジャンはそれらを襲撃していき、片っぱしから潰して回る。


機能させていてはマズい、という本能的な察知ゆえにだし。


これが死者への冒涜なのだと、考えていた。


『魔王の騎士』としては、騎士道に反するモノを見捨ててはおけない……。




『ヒトを、道具にしてはいけない!!わ、分かるよ……『お母さん』みたいに、ヒトを操ろうとしているカンジがするから!!』




―――子供のころに、悪神に『狼男』として覚醒を強いられている。


それはいつまでだって消えない傷として、心に刻み付けられたままだよ。


自分の意志を奪われて、悪神の手先にされる。


それは間違いなく悪夢であり、悪夢からは解放してやるのも慈悲だった……。




「お、狼が!?」


「く、くそ!?傭兵たち、わ、我々を守れ!!」




―――角笛を吹いて、傭兵どもに救援を要請する。


少なくない数が、それを無視した。


ルルーシロアの不在は、傭兵どもに『オルテガ』一番乗りの賞金獲得を思い出させている。


だが、雇われの身の流儀に従う傭兵も少しだけいたよ……。




「面倒だが、聞こえちまったものなら反応してやるしかないか」


「助けに、行くんですかい?」


「そうだ。ついでに国境まで戻る。恩を着せてやるとしようぜ。他の傭兵たちは、命令よりも賞金に目がくらんでいる」


「了解!狼を、包囲してやりましょう!!」




―――ゼファーは地上を駆け抜けていたよ、レイチェルの命令だ。


翼に塗った血止めの秘薬の効果を、わずかでも高めてやるために。


造血の秘薬も打ち込まれていくよ、首筋に何本も注射器が突き立てられる。


連戦で消耗しているのは、ゼファーも同じだ……。




―――だからこそ、地上で『補給』をしてやる必要もある。


レイチェルは判断し、適切なターゲットを指で示した。


そうさ、『食べろ』と命じているんだよ。


帝国兵どもを救援に向かった傭兵どもに、ゼファーの巨体が突っ込んでいく……。




「竜が、く、来る―――」


「う、うわあああああああああああああああ!!?」


「だ、だ、団長が……ッ」


「ま、丸のみにされちまったあああああ!!?」




―――レイチェルは当てていた、そのグループを指揮していた者が誰かをね。


ゼファーは丸呑みにして、胃袋の奥にそいつを押し込んだ。


暴れることはない、喉を通過するときに筋肉を使って仕留めているからね。


鋼だって、竜の胃酸ならすぐに融かしてしまえるよ……。




『えいよう、たべた!!』


「傭兵どもよ。帝国軍に伝えなさい。竜の好物は、帝国兵とそれに協力する傭兵です」




―――『心理攻撃/いやがらせ』も、忘れはしない。


恐怖を与えれば、敵は委縮してくれるからね。


傭兵どもは、いいメッセンジャーになってくれるだろう。


彼らは竜の恐怖を、余すことなく体験した者の一員となったのだから……。




「ゼファー、飛びなさい」


『うん!……つかまっていてね!』




―――怯え切った傭兵どもを残して、ゼファーは加速し風に乗っる。


翼の傷からは血が吹き出したものの、想定以上の少なさではあった。


『マージェ』の秘薬との相性は、バツグンなのさ。


その事実はゼファーの心を、明るくさせる……。




『『まーじぇ』のくすり!きいているよー!!』


「リエルの愛情が込められたものですから。当然です。母親の愛情とは、とても強いものなのですよ」




―――そうだ、だからこそレイチェルの気力はいつになく充実している。


我が子を心配しているからだ、人間族の夫とのあいだに生まれた『狭間』の息子を。


自分と同じように苦しんでいるとしたら、一秒でも早く助けてあげたい。


息子の苦しみを代わってやれるのなら、レイチェルは今すぐに選んだだろう……。




―――でもね、やれないのさ。


そんな呪いも祝福も、権能だってレイチェル・ミルラにはない。


どんなに望んだとしても、取れるべき解決策はただひとつだけ。


確実に女神イースを排除する、それが愛する我が子を助ける方法でもあった……。




―――空へと舞い上がったゼファーは、翼で空を叩きつける。


西の海岸へと一直線に、突き進んでいった。


ルルーシロアが見える、全身を赤い血で染めたまま空で暴れる竜の女王が。


金色の眼でにらみつけている相手は、偽りの竜『ゴルメゾア』さ……。




―――ルルーシロアは、激怒している。


『ゴルメゾア』も亜人種たちから、魔力を奪っていたからね。


漁船は倒れ込む男たちで、あふれ返っていた。


それが気に食わない、ルルーシロアには何とも腹立たしい……。




『こいつらから、ちからを、うばいとっているのか……にせもの、ふぜいがッ!!』




―――あらゆる苦難の痛みは、若き魂に学びを与えてもくれる。


すべてが満ちたりたときよりも、足りない痛みを感じるほどに。


ルルーシロアは、イライラしていた。


ゾロ島のキケも、倒れているのだ……。




「はあ、はあ……ッ」


「親分さん、大丈夫かい?」


「……竜……竜……赤い、竜……ッ」


「うわごとを言っているのか……大丈夫だよ、あいつは、あの赤い竜は、オレたちを守ってくれるよ。親分さんを、守ってくれるから!」




―――知ったことではない、と思うべきだ。


竜はヒトなど気にすることはない、気にすべきではない。


それなのに、どうしてなのか腹が立ってしょうがないのだ。


自分は白い竜である、それなのに赤い竜などと誤認して叫んだ無礼者たち……。




―――罰してやっても当然な、愚かな連中だ。


それなのに、どうにもこうにもおかしいもので。


血が燃える、真の気高さを学びつつある仔竜の心に怒りが灯る。


今すぐ『ゴルメゾア』を、嚙み殺してやりたくてしょうがない……。




『ゆるさんぞ!!にせものがああああああああああああああッッッ!!!』




―――その怒りに使うべき説明の仕方を、まだルルーシロアは知らない。


自分を讃えてくれた戦士たちが、傷つけられているのだ。


それはまるで自分そのものを、傷つけられたかのように腹立たしい。


真の騎士道を獲得しようとしている者が、空にもいた……。




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