第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三百一
―――互角になる、ストラウス兄妹と女神イースの戦いは全くの互角に。
だが、問題はあった。
ふたりがいくら女神イースを傷つけても、すぐに傷がふさがっていくのだ。
供給され続ける魔力のおかげで、女神イースは衰えを知らない……。
―――それに引き換え、ソルジェとミアの体力と魔力は有限だ。
最適の動きを選び、最小限の動作で綱渡りの曲芸を連続で成功させているだけ。
何とも分が悪いものだと、女神イースはストラウス兄妹の挑戦を考えていた。
このまま長く戦えば、確実に自分は勝てるのだと理解する……。
―――それは合理的な判断であり、それゆえに猟兵は読解できた。
ソルジェとミアもだし、ガンダラもそうだ。
この女神の戦術を、妨害する必要がある。
とくにガンダラは、示す必要があった……。
―――多くの亜人種の戦士たちが、虫の息のような状態である。
勇気づけなければならない、ミアは体がちいさすぎて弱った戦士たちには見えにくいから。
足もとの槍を拾い上げる、それだけで気絶しそうなほど息苦しくなった。
だとしてもやり遂げる、そうしなければならないと自分で決めていたんだ……。
―――『自由』とは、重大な責任を押しつけてくれるものであったけれど。
ガンダラはそれが大好きでたまらない、失神しそうな息苦しさに耐えながらも。
槍を突いて、仁王立ちを続けてみせる。
それが、何の意味があったのか……。
―――あるんだよ、とても大きな意味と価値があるんだ。
『立ち続けている亜人種がいる』、その事実をガンダラは示しているのさ。
多くの亜人種が今この瞬間にでも、気を失ってしまうかもしれない。
そんな過酷な限界状態では、ガンダラという事実が大きな心の支えになってくれた……。
「我々は、死にはしないッッッ!!!」
―――強い声を出した、それを出すのも苦しかったはずだけど。
それでもお構いなしだ、これはハッタリだし演技だしウソでもある。
だとしても魔法を帯びた叫びだったよ、若い亜人種の戦士たちは信じたからね。
自分たちはこの謎の衰弱で、殺されることはないのだと……。
『ウソつきめ。これは、ゆるやかな死に至る……』
「生き延びれば、ウソにはならん!!」
「そうだよ。みんな、がんばってくれている!!」
『無駄なあがきか。千年を使った証明の果てにあるこの戦いに、ある意味では相応しいかもしれん。哀れな自己陶酔に、殉ずるがいい!!』
―――思い込みに過ぎない、女神イースはそう信じたようだ。
ああ、その指摘を甘んじて受けいれてあげるよ。
死なないというのは、思い込みだ。
ただのハッタリに過ぎない叫びだったけれど、それでもみんなは『選んだ』のさ……。
―――『自由』の定義は、いくつかあるだろう。
でも、これこそが大切なものだ。
『選べる』、それが多くの亜人種たちから奪われてしまっていたものさ。
戦士たちは女神イースが押し付けてくる運命に、逆らうことを選んだ……。
「死んで、たまるもんですかあ……ッ!!」
「オレは、オレも、立ち上がる……ガンダラ先輩いいいっ!!」
―――信じている、仁王立ちする巨大な筋肉の山脈の言葉をね。
選んでいる、この正体不明のとてつもない苦しみにも抗い勝利してみせると。
それがどれだけ、極限状態での力となり得るものなのか。
女神イースは、つい先ほど学んだはずなのにね……。
―――そして、大きな恐れを覚えたはずでもある。
ヒトが見せられる最大の可能性は、自己陶酔じみたものだ。
自分の信じた道を、どこまでも信じられるからこそ奇跡みたいな力を出せる。
世界を変えられる力がヒトにあるとすれば、これを置いて他にないだろうよ……。
―――絶望が、変わっていく。
ソルジェとミアは、戦いながらも背中に感じ取るのさ。
『歌』属性の力だ、死者の力にも等しいそれだけど。
本質というものは、幅広さがあるものだよ……。
―――死をも越える力、それが『歌』属性の持つべき解釈の一つだった。
死さえも殺せない信じられる力、芸術でいえば『真実』という概念なのさ。
英雄たちを信じている、成し遂げられないことはないのだと。
たとえ自らが倒れたとしても、仲間が立ち大きな自分たちの一部を継承していく……。
―――立ち上がる者たちが、あちこちに出た。
地べたに転がっていれば、それだけでいくらかマシだというのにね。
大丈夫だと主張するために、英雄ガンダラの背中を信じた者たちがムチャをする。
ひとり、またひとりと身を起こしていく……。
―――亜人種たちの見せた、ひとつの奇跡だ。
千一年目のあらがいかもしれないよ、何せこれまでの千年とは違うことがあるから。
もがきながら戦おうとしている亜人種の戦士たちを、今は人間族の戦士たちが支える。
千年なかったことだ、人種の壁は無色で透明なくせに分厚くてバカ高くそびえるのに……。
「大丈夫だ、死なない!!」
「立たせてやるぞ、オレたちが、立たせてやる!!」
「死ぬな、死ぬじゃない!!」
「あんな身勝手な女神なんかに、負けてたまるかよ!!」
―――この戦いは、あらゆる人種が参加しているからね。
何も『パンジャール猟兵団』だけが、成し遂げた力じゃない。
女神イースが呪わなかった人種が、呪った人種たちを助けようとしている。
若い戦士たちは、千年の過去を克服しつつあるらしいよ……。
『愚かな、迷いだ。そんな抗いを、続けたところで。何も得られないのに』
「……得られる、よ」
『偽りしか、得られない』
「……『本当』に、さわれている気がする。みんなね、今ね、世界をぶっ壊してやりたくなっているんだから!!」
―――賢いガンダラは、成すべきことがまだ一つあるのに気がつく。
若者たちの意志は、とても必死過ぎて熱量がけた違いではあるけれど。
ひとつだけ、大きくて致命的な欠点があるからね。
革命を成すための指導者がいない、いや指導者の命令がない……。
「ソルジェ・ストラウス!!団長!!号を!!」
―――必要だったのは、この混沌としたまでの力を統率する声だ。
ソルジェは賢くないから、アタマでは理解は出来ていない。
それでも魂みたいな深さでは、ピンと来ていたのさ。
言わなくてはならない言葉が、ある……。
「世界を、変えるぞ!!女神イースを、倒す!!動ける戦士は、オレに手を貸せ!!!」
「イエス・サー・ストラウスッッッ!!!」
「このバケモノを、ぶっ殺してやりましょうッッッ!!!」
「女神を、殺せええええええッッッ!!!」
「神を殺して、仲間を救うんだああああああああああッッッ!!!」




