第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百九十八
―――心を覗く呪術というものは、けた違いの情報収集能力を持っていた。
ビビアナは脳裏に、この呪術の全体像を描き始めている。
リュドミナとつながり、レナス・アップルに『蟲』を入れられた結果だ。
ケガの功名でもあるけれど、やはり彼女は呪術の才能が豊かのさ……。
「……循環を、創り上げる。この『繭』が肺だとか心臓だというのなら。もっと、他の臓器を各地に用意しているかもしれない……」
「いろんな臓腑を、この土地のあちこちに……?」
「そう。ヒトと同じようにするの。それらをつなげられるのなら、まるでひとつの巨大な体みたいに機能してしまう……互いを補完し合いながら……」
「つ、つまり。どういうコトになるんだ?」
「すべてと、切り離さなければ……女神イースは、機能しつづけてしまうかも」
「す、すべて……って。あちこちに、分散されているのなら……て、敵どもの死体と、すべてをつなげているのなら……それを、すべて排除しなくちゃならない……ってことか!?」
「だとすれば、ムリだね」
「え、ええ。現実的じゃない。でも、それが最悪のケースではある。『蟲』と呪術、あるいは『ゼルアガ/侵略神』の権能が、ぜんぶをつなげていれば……」
―――血の気が引いた、女神イースをソルジェたちが倒せていない理由。
それを、ビビアナは見つけている。
もしかすれば女神イースは、事実上の『不死身』なのかもしれない。
ありえないと、否定することが出来たら安心するのだけれど……。
―――『蟲』と『ギルガレア』の力のなかでは、ヒトの生死はあいまいになる。
ミアに倒されたはずの『ゴルメゾア』さえ、息を吹き返しているのだから。
そうして蘇生した者は、レイチェルの主張する通り面影に過ぎないのかもしれない。
本人ではないのかもしれないが、『カール・メアー』の理想/哲学は保存されている……。
「女神イースの『設計図』みたいなモノがあったから、女神イースらしき存在を模倣している。力は、本当に神さまそのものに近いけれど、ある意味ではニセモノで……でも、そういう『設計図』が分散されていて、あちこちにあるとすれば……」
「それがあれば、いくらでも女神イースが、復活しちゃうかもしんない。『材料』を、あちこちの臓腑が送り届けてくれているから」
「え、ええ。それが、あいつのタフさの正体。不死身、なのかも」
「分かった。それについての対策も考えながら、もう一つ考えてみて!」
「もう、一つ?」
「『守備』としての最悪だからね。あいつらは倒せないかもしれない。じゃあ、『攻撃』の最悪についても考えてみて」
「……そう、か。身を守るための力だけじゃない。あちこちから力を吸い上げるだけじゃなくて、その逆……この呪術を攻めに使う方法……」
「うん。考えてみて。リュドミナは、すごく性格が悪いんだよね。でも、本気で。私たち亜人種や『狭間』を消したいと信じている。それが正しくて、やさしいコトだって、本気で信じていたから。きっと、『攻撃』の戦術もあると思う」
「……死体からだけじゃなくて、生きている相手からも、魔力を吸い上げる。そうすれば、攻めにもなるわね」
「魔力を吸い上げる。『闇』みたいな、モノかな?第五属性……」
「そんな属性、伝説でしょうに」
「うちのカミラは、使えるの。『吸血鬼』だから」
「……な、なるほど。でも、捧げるだけじゃなく、無理やり吸い上げるような力は、存在しているのね?」
「うん。カミラは、他の属性の魔術をぜんぶ吸収できちゃう」
「『カール・メアー』なら、『吸血鬼』についての情報も集めているかも。あいつらは、他の組織ともつながっていた」
「帝国軍のスパイにも、『呪われた血』がいる。あいつらから、アイデアを得ているかも。ジャンみたいに、ヒトから『狼』に変わる呪いだってあるんだから」
「……叔父さまを『素体』にして、女神イースに『変えた』ものね。『蟲』の変異って、もっとおぞましい姿になると思っていたけれど。あれは、女神イースの姿は、ちょっと形が整っている……なんで、あれ。最悪の戦術は、見つけられた」
「うん。私たちから、魔力を吸い取ろうとするかもしれない」
「そうね。『繭』……臓器を使った最悪の攻撃は、そうだと思う」
「た、対処は、どうすれば……っ!?」
―――沈黙してしまう瞬間だった、ビビアナの賢ささえもね。
リュドミナが勝利を確信できるほどの、完璧な作戦だと感じた。
リュドミナはレナス・アップルを大切に思っていた、その記憶の断片をビビアナも有する。
だとすれば、そんな『彼女』を襲撃に参加させるという形で消費したのだ……。
―――確実な勝利だと信じなければ、そんな選択をしないだろう
女神イースという『作戦』を、リュドミナは完璧に仕上げているはずだ。
想像力が、不安と恐怖をいくらでもふくらませていく。
自分たちは蜘蛛の巣にかかった、羽虫のような立場なのかもしれない……。
―――だが、ミアには秘策がある。
この地上に張り巡らされた呪いがあったとしても、それを封じる唯一無二の秘策がね。
空を見上げて、ゼファーを探した。
見つからない、だからソルジェに訊いてみる……。
「お兄ちゃん、ゼファーが必要になると思う!!どこに、いるの!?」
「ルルーシロアと、交戦中だ!!」
―――ミアの猫耳が、嬉しさに飛び跳ねた。
ルルーシロアが襲った鯨の死骸を見たときから、邂逅の可能性に胸を躍らせていたものの。
実際に、このタイミングでやって来てくれるとは。
交戦中という点については、すこしは困ってしまうけれど……。
「ふたりとも、飛べなくなるまでは戦わないようにしておかないとね。もし、そうなったら、私たち、リュドミナの作戦に負けちゃうかもしれない」
「竜が、いれば……どうにかなるというの?」
「なるよ。ふたりのどちからと、お兄ちゃんがいれば。あいつの作戦を無効化できる」
「さ、さすがだ!!英雄は、ちが――――――」
―――作戦が、動き始めていた。
女神イースは最悪の『攻撃』を、スタートさせている。
そうだ、あらゆる亜人種と『狭間』を殺すための方法を。
ドワーフの戦士が、ミアたちの目の前でばたりと倒れていた……。




