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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百九十二


―――竜の『火球』に、かなり似てはいる。


しかし、その爆発は紫電のほとばしりも帯びていた。


威力は『火球』と同じだ、戦士たちは船ごと吹き飛ばされてしまう。


偽りの赤い竜に、戦士たちは素早く反応したよ……。




「あれは、ストラウス卿の竜じゃない!!て、敵だ!!」


「撃て!!あいつは、我々を狙っている!!」


「は、速い……ッ!!」


「こ、こっちに来るぞおおおおおお!!?」




―――『ゴルメゾア』は、船の間を縫うように飛んだ。


竜にも似ている飛び方だが、羽ばたきの数が多い。


巨大な翼はふたつだが、その付け根のあたりにちいさな翼も生えていた。


ビクビクとけいれんするように、それは揺れ動く……。




―――ちいさな翼の小刻みの羽ばたきのせいで、それは竜よりも昆虫じみた飛び方だ。


右に左にと、振り子のように揺れている。


それはまるで、花を値踏みしているミツバチのようでもあったよ。


事実、このバケモノは新たな獲物を選別しようとしていた……。




「う、うわ!?」


「オレたちを……素通りした、ぞ!?」


「何で、だ……?」


「……この船に乗っているのが、人間族だけ、だから……か?」




―――あらゆる命を喰らいたいわけでは、ないらしい。


女神イースの下僕らしく、『ゴルメゾア』が狙っているのは亜人種たちだ。


ゾロ島の漁師たちの船は、こいつにとって狙うべき典型的な獲物になる。


亜人種の逃亡奴隷たちばかりで、協調性が高いとは言えない人々だ……。




―――人間族の戦士を乗せている船もあるが、すべての漁船がそうではない。


誰もが過去に対して和解できるわけでは、ないのだからね。


自分たちを捕らえて拷問し、奴隷として無理やりに働かせた人間族。


許してもらえるとは、限らないだろう……。




―――奴隷にされた者たちには、永遠の苦悩がつきまとった。


許すことは弱さかもしれないとさえ、考える。


憎しみ続けることだけが、自分の価値を主張する方法みたいに思えていたんだ。


間違いではないかもしれないが、『ゴルメゾア』の標的にはされてしまう……。




―――亜人種の仲間たちだけで集まっていた漁船に、『ゴルメゾア』が食らいつく。


漁船ごと爆破されると考えた亜人種たちが、次から次に海へと飛び込んだ。


すばやい行動ではあったけれど、爆破の威力はすさまじい。


逃げたところで、海中にさえも衝撃波が浸透していた……。




―――水は圧力を伝えやすくもあるからか、亜人種たちは海中で全身の骨を砕かれる。


もちろん死ぬよ、即死であれば幸いな死に方だった。


溺れ死ぬ者もいた、意識を保ちながら死を待つだけの彼らは何を呪ったのか。


多くの憎しみが心を埋め尽くしただろう、悲しい結末だ……。




「あいつ、亜人種だけを狙うってのか!?」


「帝国らしいバケモノだ!!竜とは、ぜんぜん違うぞ!!」


「そ、それに……なんだ、この……『歌』は!?」


「……知っている。奴隷のときに、聞かされた。これは、イース教の聖歌だ!!」




―――『ゴルメゾア』の体のあちこちにある『口』が、聖なる歌を放っていた。


そのあまりにも醜い外見から受ける印象とは、あまりにも異なる美しい歌声で。


レナス・アップルの歌声は、『ゴルメゾア』に受け継がれている。


死者の『口』は完全ではなくて、本物の『彼女』と比べればかなり劣るものだが……。




―――無数の『口』が、聖歌を放つ。


死者を悼むためではなく、女神イースの神聖さを讃えるための歌を。


亜人種の戦士たちは、嫌悪感と恐怖に囚われる。


戦場で異教の聖歌を合唱する、死者で作られた空飛ぶ怪物なんておぞましすぎた……。




―――漁師たちのトップであるゾロ島のキケは、歯ぎしりする。


自分たちを襲っている敵の本質を、野生的な彼は本能で悟っていたらしい。


『帝国的』であり『イース教的』であるが、もっと端的に判断すれば答えに行きつく。


『カール・メアー的』なんだよ、亜人種を滅ぼしたがる女神イースの下僕ども……。




「こいつで、亜人種を間引こうっていうのか!?帝国軍ども!!こんな、おぞましい力を頼りやがって!!」




―――帝国が基本的に呪術を嫌っていることを、ゾロ島のキケは知っている。


邪悪な力も、根本的には嫌っていることを。


帝国は秩序と合理性を求めているのは確かだが、空を飛ぶ怪物は典型から逸脱した。


それは『憎悪の証明』なのだと、ゾロ島のキケは悟る……。




―――亜人種を滅ぼすためなら、どんな手段でも採るべきだ。


そういう意思決定の果てに生まれた、自分たちを滅ぼすための手段なのだと。


何て腹立たしいことだろう、何て執拗なのだろう。


亜人種に対しての無限の憎悪が、この邪悪な存在を産み落としたように感じた……。




―――しかも、こともあろうに赤い竜の姿を真似ている。


ゾロ島のキケはハーフ・エルフの妻を娶っているんだ、悲惨な人生を歩んだ女性を妻にした。


この世界の大半で、『狭間』は忌み嫌われているものだけど。


最近、ゾロ島のキケは希望を見つけたんだ……。




「『プレイレス』を解放してくれた。ソルジェ・ストラウスたちが……だが、見たんだぞ。オレと、ヨメは見たんだ!!ハーフ・エルフの子が、赤い竜に乗る幻を!!あれは、あれは……オレたちの大きな希望だった!!」




―――『狭間』は忌避される立場だったけど、それも変わるかもしれない。


赤い竜に乗るアリーチェの幻は、ハーフ・エルフたちを勇気づけた。


ゾロ島のキケの妻もだし、彼自身もそうだ。


世界が良くなる兆しなのだと、あの幻を受け止めていたのに……。




―――それを冒涜された気持ちになり、ドワーフの頑丈な歯ぎしりをした。


おぞましい偽りの竜が、彼の頭上を歌いながら飛び抜ける。


彼は人間族の戦士たちも船に乗せていたから、難を逃れた。


模範になろうとしていたんだ、人間族なんて今まで大嫌いだったのに……。




―――漁船に乗せてやったから、助かった。


空の高みで獲物を選別する、偽りの赤い竜をにらみつける。


世界は変わらないのかと、大きな絶望を胸に抱きかけた。


自分の妻は、やはり世界から呪われたままであるかのと……。




―――偽りの赤い竜が、新たな獲物を選別し終える。


亜人種ばかりの船を見つけ、それを狩るために魔力を練った。


戦士たちは矢を放つが、死者で編まれた巨体にさほどの傷は与えられない。


美しい聖歌の向こう側で、巨大な破滅の炎がおどる……。




「海に、逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」




―――ゾロ島のキケが、リーダーとして策を与えた。


船上にいるよりは、多少は生存の確率が増すはずだと信じて。


この海に、かつて多くの者たちが助けられたのだから。


逃亡奴隷となった者たちを、守ってくれたのはこの海だった……。




―――偽りの赤い竜が、彼の目の前で仲間たちを殺そうとした瞬間。


黒い影が彼を覆い尽くす、ゼファーを連想した。


希望に満ちた目玉を動かして、黒ではなく白に出会う。


いいや、その白い体は赤くもあったんだ……。




―――怒りのまま、傷だらけの体であるに関わらず。


全力で偽りの竜を仕留めるためにやってきたから、傷は開いて全身が血に染まっていた。


白い体だからこそ、より赤い色が映えもする。


まるで、アリーチェの乗っていた赤い竜のようだ……。




すくなくとも、ゾロ島のキケにはそう見えた。




「『本物』の、『赤い竜』……っ!!」




―――信じたよ、ルルーシロアに正当性を見たんだ。


海に生きるドワーフは、本能に優れている。


その直感は、とても正しい。


赤い竜は、やはり彼らの希望だった……。





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