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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百八十九


―――ゼファーとルルーシロアは血まみれだった、技巧と体力を尽くしたからね。

世界最強の竜同士が、一切の手加減なしで殺し合いをしているのだから。

だが、これは竜という生き物の本能を何よりも満たしている。

ふたりとも最高の笑顔を見せつけているのが、その証拠だよ……。




『GHAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』

『GHAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』




―――歌と歌が融け合って、互いに向けてぶっ放した黄金色の『火球』同士が衝突する。

至近距離で、まったくの同時に。

巨大な爆炎が猛火の柱となって、地上も空も焦がしていく。

巻き込まれた帝国兵どもが、まっ黒な欠片となって世界に爆ぜて飛び散った……。



―――巻き込まれただけでも消し炭になるほどの火力を、ふたりはどう対処したのか?

爆風に乗って、より高く飛ぶこともやれただろうけど。

ふたりはどちらも、そんな消極的な道を選ぶことはない。

渦巻く爆風のなかを、『泳いだ』……。




―――灼熱に暴れる黄金色の爆心地に向けて、迷いもなくアタマから突っ込んでいく。

ゼファーの伸びた首が、白い獲物の肌に牙を届けさせた。

ルルーシロアの伸びた首も、黒い獲物の肌に牙を届けたように。

空中でお互い噛みつき合っていたよ、首の付け根のあたりにね……。




『がるううううううううううううううううううッッッ!!!』

『ぐるううううううううううううううううううッッッ!!!』




―――血走った眼に、闘争に歓喜するウロコの震え。

相手の骨格をも軋ませながら、爆炎に焼き払われながら。

そんなことはお構いなしに、全身全霊の力比べで競り合った。

突き落としてやるつもりだ、この空から地上に向けて……。




―――もつれ合いながら炎に包まれているふたりが、地上へと衝突した。

大地が揺れて、何かが削られていくような残酷な音が響いている。

土煙が巻き上がり、乾いた夏の空は黄土色に塗りつぶされそうだったよ。

ふたりは数十メートルも地面を引っ掻きながら、ようやく止まる……。




―――いや、止まったという言い方には間違いが含まれてしまうか。

すでに地上戦を始めていたからだ、同時墜落の全身打撲をしていたのに構わずね。

焼け焦げて、すり傷だらけの巨体をはげしさで揺らしながら。

ぶつかり合っていく、頭突きであり翼で叩き蹴り上げてしっぽで殴りつける……。




―――どれもがバカげた破壊力の打ち合いだよ、馬車だって一瞬で粉砕される威力だった。

ドワーフの鍛冶屋がハンマーをぶつけている金床、それが耳元にあるみたいな騒がしさだ。

壮絶な音の応酬は、それだけで小心者を恐怖のどん底に突き落としただろう。

神話や伝説のたぐいと同じレベルの打撃戦だから、しょうがない……。




―――困ったことに、ふたりともまだやるつもりだ。

竜の本能のまま、どちらかを殺すつもりになっている。

笑顔でね、そういう生き物だ。

自分が殺すために生まれた生き物だと、ふたりとも信じて疑ってなどいない……。




―――とくに、野生のままのルルーシロアはそうだ。

殺し合い以外の手段は、彼女にとって邪道であり不法であり冒涜である。

ゼファーを殺すため、脊柱を狙い始めていた。

首の骨をへし折って、死を与えてやろうと……。




「猟兵の流儀を、教えてやりましょう」

『……はい!!戦場に、一対一なんていう甘ったれた状況は、な、ないんだ!!』




―――誰よりも勇敢な『巨狼』が、殺し合いに興じる竜たちに向けて突撃する。

これ以上の戦いでは、どちらかが死ぬからね。

レイチェルの読みでは、ルルーシロアにゼファーが殺されていた。

それは避けねばならないし、そもそも戦場に一対一などというヘンテコな状況はない……。




―――ガルフ・コルテスならば、ニヤリと笑いながらルルーシロアに教えただろう。

「嬢ちゃん、地上に降りちまった時点で負けだ」。

「そこにいるのは、どっちの仲間なんだい」。

一対一の決闘の行方など、どうでもいいんだよ……。




―――これが戦場であれば、ゼファーの勝ちだった。

ボクたち猟兵からすれば、竜の本能よりも分かりやすい真実だよ。

『巨狼』に化けたジャンが、ルルーシロアの巨体に頭突きを入れた。

爪で踏ん張ろうとしたものの、ルルーシロアは大きく地上から離される……。




『……いぬ……っころ……ッ!!』

『お、『狼』だよ!!』




―――ルルーシロアに隙が生まれてしまっていた、それにゼファーが反応する。

竜の本能が強いのは、ゼファーも同じことだよ。

殺そうとしていた、ルルーシロアの喉笛に噛みつきを放とうと。

だから、『人魚』にしかられてしまう……。




―――『巨狼』の背から、ゼファーの狂喜する顔に向かって跳躍した。

レイチェルは身体構造理解のスペシャリストで、解剖学も教え込まれている。

知っていたよ、芸術家の目はどこまでも真実を追いかけていくからね。

ゼファーという竜のあごには、弱点があった……。




―――嚙む力は恐ろしく強いけれど、あごを開く力はせいぜい馬の全力の蹴り脚程度。

弱いというには、すこしばかり難があるかもしれないけれど。

『人魚』の身体能力からすれば、攻略可能な範囲の『弱さ』だった。

ルルーシロアの喉笛に噛みつく寸前、ゼファーの鼻先はレイチェルに蹴られる……。




―――喉を噛みちぎってしまう前に、あごは閉じられた。

おかげで、ルルーシロアは頭突き程度のダメージで済んだよ。

死なずに済んだ、プライドは傷ついたかもしれないけれど。

どちらにも死んでほしくない我々からすれば、無視していい傷だね……。




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