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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百八十七


―――楽しい、それを不謹慎だとはルルーシロアも思わない。


その感覚について、同意が出来るからだ。


究極の加速勝負をしたあげくに、殺し合う。


それが楽しくなかったとすれば、竜が何を楽しめるというのか……。




―――最強の竜がそろっているからの、何百年かに一度の奇跡だ。


この至高の殺し合いを楽しむために、何か大がかりな運命の装置が働いていたかのようだ。


速度が上がると共に、喜びもまた増大していく。


地上を見つめ、勝負所にふたりは目をつけた……。




―――帝国兵どもと帝国の傭兵どもは、竜たちに見入ってしまっている。


竜対策さえも忘れてしまい、ただ畏怖に震える本能が不用意な集合を行っていた。


『オルテガ』への進軍をも忘れてしまう、青空を撃ち抜くふたりだけが気になる。


それを見ようとせずに、ひたすら『オルテガ』を目指した者たちは……。




「私たちが、狩ってあげますから」


『ゼファーと、る、ルルーシロアのおかげで。かなり仕事が、ら、楽になります!!』




―――黒と白の大空を旋回しながら、重なり合って暴れる飛翔の音。


それは地上に響き渡り、敵どもは恐怖の汗を垂らしながらも考えた。


対策をしなければならない、そう信じ込んだのさ。


ふたりが敵同士だとは知らないからだ、竜がふたりがかりで攻めてくると信じ込む……。




―――あながち、間違いではないけれどね。


ゼファーが戦術的にそのルートを選ぶというのなら、今のルルーシロアは乗ってくれる。


集中力を乱さないために、イラつきはしない。


ひたすらに速度を作り上げるためには、今は細かい怒りは無視して楽しむのみだ……。




―――彗星のような速度となって、竜たちは同時に角度を変える。


鼻先をより低く、地上に向けたのさ。


加速が深まっていき、地上がどんどんと近づいてくる。


敵どもが何かを叫ぶが、ふたりは気にしちゃいなかった……。




「う、撃てえええええええええええええええッッッ!!!」


「竜を、射落とすんだああああああああああッッッ!!!」


「仕留めろ!!じゃ、じゃないと、こ、殺されるっ!!!」


「竜が、く、来るぞおおおおおおおおおおおッッッ!!!」




―――恐怖と共に、無数の矢が放たれていく。


それでも竜の射方を、この連中はまったくもって分かっちゃいない。


世界最高峰の弓使いでも、おそらく今のふたりの速さを掴むのは難しすぎたはずだ。


どうにもならない、空に伸びる影にさえも当てることがなかったよ……。




―――当たらないどころか、反撃も受ける。


ふたりは矢を飛び越えたわけじゃなくて、驚くべきことに『かいくぐった』のだから。


矢よりもはるか低い場所に入り込み、敵の頭上すれすれを飛び抜けた。


地上に当たるほどの低さを、翼が触れるように隣り合って飛んでいく……。




―――重なり合う羽ばたきが、荒れて狂う竜巻のような暴風で地上を掃き捨てていく。


ホウキで掃除しているかのように、大地が疾風に削られて高くまで土煙を巻き上げていた。


ああ、もちろんこれほどの爆風じみた衝撃を浴びせられたならばヒトも馬も吹き飛ぶよ。


何十人もの敵兵どもが、ふたりの起こした爆風に当てられて致命的な高さまで舞った……。




―――悲鳴もかき消されて、死の落下が起きる。


次から次に、敵は死んだよ。


ゼファーもルルーシロアも、そんな下らない光景を見てはいない。


見ていたのは、お互いの笑顔だけだった……。




『あそこの、じょうしょうきりゅうで!!』


『けりを、つけてやるぞ!!』




―――仲良く並ぶように飛ぶだけで、終わるわけじゃない。


速度勝負はまったくの互角だから、これから先の変化ですべてが決まる。


見つけていたよ、夏の大地で渦を巻く上昇気流の兆しをね。


ふたりはそこに吸い込まれるような真っ直ぐさで、突入していったんだ……。




―――羽ばたきが、完璧なシンクロを起こす。


右を飛ぶゼファーは、反時計回りの軌道を描きながら浮かび上がった。


左を飛ぶスルーシロアは、時計回りの軌道を描きながらだ。


互いの羽ばたきが起こした風が衝突し合い、空が大きく揺さぶられる……。




―――お互いの背中を向け合うようになる、ぐるりと身を捻っているんだよ。


ルルーシロアの方が、高さがあった。


羽ばたきの強さと、ブラックミスリルの鎧をつけていないアドバンテージがある。


あくまでも『高さ』についてはね、それがこの戦いのすべてではない……。




―――ルルーシロアも気づいている、ブラックミスリルの鎧がもたらす効果を。


その『重り』は、生身の竜にはやれない重心操作を起こせた。


ゼファーは多くを竜騎士ソルジェ・ストラウスから、学び取っているんだよ。


鎧を使いこなす、『ヴァルガロフ』の剣闘士と鎧職人がいただろう……。




―――ソルジェがあの風変りな師弟から学び取った技巧を、ゼファーも真似した。


ルルーシロアの旋回はまるで斬撃のように鋭いから、打ってつけだよ。


鎧に衝突させるように必殺の一撃を『わざと受け』、それをしつつ回避する。


究極的にこれらの状況は、大きく似ているところがあったんだ……。




―――人生そのものが、武器となってくれる。


人生を証明し肯定するような主張を込めた力、それこそが名誉だ。


ゼファーは勝つだとか負けるだとか、そんなことさえ今は考えていなかった。


最高の技巧を繰り出そうと、心の底から楽しめていたよ……。




―――ゼファーの動きはルルーシロアの、上空から切り下ろしてくる爪の斬撃と交差する。


低いが横にスライドするような動きで、ルルーシロアの攻めをくぐろうと試みた。


ルルーシロアは、さらに速度を増して逃そうとはしない。


まるで断頭台の刃のように、約束された死を与えようと降ってくる……。




―――胴回りを補強している鎧に、爪の斬撃が命中していたよ。


ブラックミスリルの板鋼が、あまりの鋭さゆえに瞬時に切断されてしまう。


ゼファーの脇腹にも、傷を当たえてしまい血が吹き上がった。


それでも、回避には成功している……。




―――反撃のチャンスを、ゼファーは掴んだ。


肉を切らせて、自らよりも強いルルーシロアを倒すためのチャンスを。


絶対強者は空振りしているからね、体勢を整え直すにはゼファーが有利だ。


全身をうねらせて、ふたたびルルーシロアの『泳ぎ方』を模倣する……。




『これで、いちげき……あてて、やるぞ!!』





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