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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百八十四


「りゅ、竜が来るぞ!?しかも、に、二匹もいるじゃねえか!?」


「聞いてないぞ!!黒いのが、一匹だけってハナシじゃ……っ」


「ちがう!!聞いた、ことはあるぞ!!『モロー』で……『モロー』の沖で……」


「帝国の艦隊と、白い竜も戦っていたと……く、来る!!う、撃てええ!!」




―――『オルテガ』への一番乗りを決めるレースよりも、生存競争の方がやる気は出た。


帝国の傭兵どもが、次から次に空へと矢を放つ。


おびえた矢では、まして鳥を射るときのノウハウではかすりもしないというのに。


矢の群れをゼファーもルルーシロアも飛び越えて、羽ばたきの風に騎兵をまき込んだ……。




「ぐはあ!?うう、馬が……っ」


「あんなのと、戦うのかよ……命が、いくつあっても足りない」


「はあ、はあ。こりゃあ、退きどきかもしれんぞ―――」


「―――あ、あぶねえ!?」




―――ゼファーが戦術を使ってくれるのなら、レイチェルとジャンも呼応する。


竜たちの急接近にひるんだ敵どもに、『巨狼』が襲い掛かったよ。


体当たりで踏み潰し、その背に乗ったレイチェルの『諸刃の戦輪』が敵を裂いた。


空と地上を同時に警戒しなければならない状況は、小規模部隊にはあまりに厳しい……。




「やってくれますね、ゼファー」


『は、はい。『ルルーシロア』を、う、上手くこっちに誘導してくれているみたいです』


「美しい竜。気高い竜……ミアが、欲しがるわけです。怒りに満ちていますね。ゼファーにご執心というよりも……自らの価値観との衝突に、藻掻いているように見える」


『か、価値観との衝突……ですか?』




―――芸術家の感性は、いつものように難解さがある。


それでも、いつものように真実を照らした言葉だ。


幼い仔竜でもあるルルーシロアは、藻掻いている。


悔やんでもいるのだ、どうして『あんな選択』をしたのか……。




―――『モロー』の沖合いでミアを背中に乗せて、いっしょに戦ってしまった。


それが気に入らない、あの選択が気に入らない。


ひとりで敵を倒せば良かっただけなのに、どうして乗せたのか。


ルルーシロアは、あの日の選択をした自分に納得してやれなくなっている……。




―――ゼファーが猟兵たちと関わるのを見ると、あの過去が蘇った。


消せない過去を突きつけられ、心がぐるぐると怒りに空回りする。


過去を殺す方法は、竜でさえ持たないのだから。


どうにもならない屈辱に、閉じ込められている気持ちになる……。




―――空が重く、風がまとわりつく。


この感情を、どうやって処理するべきなのか。


とりあえずは、目の前を飛ぶゼファーを追いかけることにした。


ゼファーのしっぽから流れる血が、ルルーシロアの顔にかかる……。




―――『同族殺し』、『竜喰い』。


『耐久卵の卵/グレート・ドラゴン』の本能が、ゼファーの血で満たされる。


どんな獲物の血肉よりも、竜のそれは味が良かったから。


イライラすることは多いが、『ごちそう』を喰らいたくなる……。




『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』




―――空を揺さぶる、あらゆる生物の霊長の歌。


帝国の傭兵どもの注意と警戒が、『オルテガ』から竜たちに向けられた。


歓喜と殺意が完璧に一致した感情が、空から降り注いでいる。


死を約束されたような気持ちとなり、『オルテガ』進撃の士気は削がれていた……。




「いい仕事をしてくれていますが、長くは持たないでしょうね」


『で、ですね。ルルーシロアは、完全に……ゼファーを、ね、狙っていますから』


「こちらの仲間と言い切ることは難しい関係性です。だからこそ、ジャン」


『は、はい!地上で、ぼ、ボクたちが敵を襲って……ご、誤魔化しましょう!!』




「敵の認識を、揺さぶってやるのです。各個撃破しながら、数を減らす……集中してくれたら、それはそれでチャンスですね。ゼファーが、『火球』で焼き払ってくれますから」




―――竜への対策を、帝国側も考えつつある。


密集すれば、まとめて吹き飛ばされるという事実を理解していた。


今は密集したくもなっているが、気軽にそれをやれない。


そのジレンマに乗じて、レイチェルとジャンの『狩り』は続行していくわけだ……。




「あの女と狼に集中すれば、竜にやられちまう……」


「集まれば、竜。密集しなければ、あいつらに……」


「どうすべきだ!?隊長、考えなくちゃならねえぞ」


「……『オルテガ』まで行けば、報酬が出る。ギャンブルは、乗るべきだ!」




―――傭兵稼業は過酷だけど、それを気に入る者は多くいる。


誰もがなれるわけじゃないが、戦闘狂という領域があってね。


命がけのスリルにこそ、生き甲斐を感じられる連中がいた。


そういう連中は、竜のプレッシャーに対しても考えを深めない……。




「突撃だ!!他の連中を、出し抜いてやればいい!!」


「で、ですよねえ!!」


「さすがは、隊長だ!!」


「稼いだあとは、退いても構わねえんだ。ボーナスだけは、もらうぞ!!」




―――もちろん、そういう連中は狙われもする。


猟兵の哲学は、『士気の高い強者から殺してしまえ』だからね。


ガルフ・コルテスの教えに従い、猟兵たちは戦場の狂信者から仕留めてみせた。


メッセージだよ、『お前たちは我々と戦って生き残れると思っているのか?』……。




『れいちぇる、じゃん。すごい……てきを、くぎづけにしている……っ!』




―――喜びが生まれ、空を叩くゼファーの翼に力が生まれた。


仲間と協調して飛び回ることに、ゼファーは幸福を感じられる。


それは大きな『変化』であり、かつてよりも自分はフクザツになったことを自覚させた。


ルルーシロアにぶつけられる言葉は、疑問を呼びはする……。




―――『竜らしく、ないかもしれない』。


竜の本能を果たそうとするルルーシロアと、自分のどちらが正しいのだろうか。


そんな思考を、ゼファーは一瞬だけする。


でも、迷うことはない……。




―――『ドージェ』が好きで、『マージェ』が好きだ。


竜は孤高であるべきかもしれないが、竜と同じぐらい強い猟兵たちとは共存できる。


ソルジェが王道を身につけつつあるように、ゼファーは騎士道を理解し始めていた。


他者や大義のために戦うことが、ガルーナの竜が持つ騎士道なのだと……。




―――究極の獣ではなく、ヒトと共存する獣となる。


それをルルーシロアは家畜化と見ているが、竜と竜騎士の関係性はもっと複雑だ。


竜だけではやれないことを、竜騎士だけではやれないことを成し遂げる。


そのための契約であり、それは竜の本能に勝る喜びを与えてくれた……。




『せかいは、ひろいんだ!!』


『なにを、いっている!?』


『ぼくたちは、とても、おおきなことをしている!!がるーなのりゅうは、あーれすの『ち』は、けだかい!!』


『そんな『ち』は、わたしが、すべて……のみほしてやる!!『かて』になれ、くろいやつ!!』




―――迷わない、ふたりの正義は揺らがない。


それでも戦術の沼に、引きずり込もうとゼファーは努力した。


敵の上空で、極限の追いかけっこをすればいい。


細かな部分は、地上にいる仲間に頼ればいいだけのこと……。




『ぼくだけじゃ、やれない。でも、やれている。なかまを、たすけているんだ!!』


『なかまなど……むれようと、するな!!りゅうとしての、ほこりはないのか!?』


『あるよ!おまえとは、ちがう……ほこりにも、たくさんある!!』


『ないね!もっともただしい。いちばんのおこない。『さいこう』とは、『きゅうきょく』とは、『れいちょう』とは……いつも、ただひとつ!!』




―――当然だけど、ルルーシロアは甘くない。


容赦もしないし、とてつもなく狂暴だ。


戦術を考えながら飛び回る状態のゼファーが、いつまでも逃げ続けられるはずもない。


撃たれた『火球』を回避して交差する瞬間、翼の半ばにある爪で傷つけられる……。




―――ブラックミスリルの鎧が裂かれて、血が空に舞った。


戦術の『ルール』を賢いルルーシロアは、とっくに把握している。


ゼファーのやりたい動きを、すべて見抜いてしまっていた。


ならば対策は簡単だ『ルールに乗ることで、ゼファーの動きを制限してやろう』……。




―――竜は賢い、教わっていない戦術さえも戦いながらすぐに理解し逆手に取った。


ゼファーは、ルルーシロアの賢さを思い知らされる。


あちこち傷つけられることになる、それでも勝機は捨てない。


ルルーシロアが喜ぶ事実だろうね、竜はあきらめるような生き物ではなかった……。




『……やっぱり、りゅうはすごい。『いちばん、ぼくがこまるうごきをする』。おまえが、それをするから。それを、ぼくも『よめるようになった』。さくせんで、おまえを……たおしてやるぞ!!』





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