表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4331/5085

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百八十三


―――ルルーシロアは怒りを抱えていた、彼女にとってゼファーの態度は許容しがたい。


野生の竜であれば、気など使わないはずだ。


生態系の頂点は、あらゆる現象を軽んじなければならない。


すべてを気にせずに、踏みにじらなければ竜ではないのだ……。




『それなのに、おまえは……ッ!!』




―――鎧を身に着けていることも、気に入らなかった。


竜のウロコは頑強であり、ヒトの作り出した鋼になど負けてはならない。


ヒトに頼るなど、自分以外の生物の力を借りるなど。


理解しがたく、どう考えようとも竜への冒涜であった……。




―――強さの真の霊長が、どうして他者を頼らねばならないのか。


踏み潰すべきであるし、肉として喰らうべきだ。


戦いというものは、孤高であるはずなのに。


どうして、この黒い愚か者はそれさえも分からないのか……。




『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』




―――荒ぶる感情が魔力の奔流を呼び、ルルーシロアに『火球』を放たせた。


燃え盛る黄金色の『火球』が、ゼファーに迫る。


ゼファーはより低く飛ぶことで、彼女の攻めを回避した。


墜落寸前であり、実際に街道の脇に生えた看板の一つを破壊してしまう……。




―――愚かで無様な飛び方だと、ルルーシロアはさらに怒りを募らせた。


ゼファーのあらゆる行いが、気に入らないらしい。


しかし、ゼファーの飛び方は下手ではなかった。


むしろ上手な戦術行動だよ、地上にぶつかるほどの低さから羽ばたくことで……。




―――はげしく砂が舞い上がり、背後に迫っていたルルーシロアの顔を打つ。


イラつきながらも、金色の双眸を閉じることで眼球を守るほかない。


ゼファーの過ごした旅の過程が、年上の白竜より経験値で上回っている点があった。


『イルカルラ砂漠』を知っている、砂というものがどれほど厄介なのかもね……。




―――それを使いこなせたから、ルルーシロアの追撃の速度を緩められた。


おかげで、高度を稼ぐための余裕が生まれる。


わずかだよ、ほんのわずかではあるが貴重な高さを稼げた。


これをやれなければ、背後から飛びつかれて地上に叩きつけられていたかもね……。




―――高さを維持する、それが竜と竜の戦いでは重要な争点だ。


高さは落下することで速度を得られるし、上昇するためには力と時間を使う。


夏の空を、黒と白の竜がお互いを追いかけ回しながら旋回の勝負に入った。


同じ方向へ旋回しながら飛翔し続けることは、かなりキツイらしい……。




―――竜の強靭な内臓機能をもってしても、血液が片側に偏ってしまうから。


右旋回しているゼファーは、自分の左眼に血が集まっていくのを感じる。


遠心力というものがあるおかげで、血が偏ってしまうんだ。


そうなれば視界は赤く染まり、ヒトなら意識だって失うかもしれない……。




―――体に負担をかけ合う、竜と竜の勝負だった。


どちらも引く気はない、互いの誇りと正義が訴えている。


絶対に負けるな、相手を否定してやれ。


ふたりはどちらも風邪を読み解き羽ばたきを重ね、加速を作り上げていく……。




―――より速く、より鋭く飛ぶ。


相手の背中に追いついて、噛みついて引き裂いてやりたい。


原始的な本能と、飛行能力を構成する技巧と知識の総決算だ。


飛ぶことで勝利する、それは竜の自尊心と何よりも直結する……。




『まけ、ない……ッ』


『まけ、るか……ッ』




―――互いの左の視界は赤く染まり、右の視界は血を奪われ過ぎて暗みがかかる。


視界だけならともかく、右の翼が徐々に羽ばたきの力を失っていった。


これも血液不足ゆえのこと、ふたりは極限の力を捧げている。


全力というものは、それだけで何よりも疲れてしまうものさ……。




―――ふたりとも、より高いところへと上昇をし続けてもいた。


空は高く飛ぶほど、速さが出るらしい。


そして、高山病があることで分かるように。


高く飛ぶほど、空気が薄くなって呼吸がしにくくもなる……。




『はあ、はあ……ッ』


『はあ、はあ……ッ』




―――肺の皮が引っ張られるように痛くなり、ふたりの身体に限界が迫る。


プライドは死に至る悪癖のひとつでもある、戦場ではよく見かけるよ。


プライドのために早死にする者は、じつにありふれた傾向だ。


ふたりがどちらも野生の竜なら、気を失うまでこれをつづけただろうね……。




―――でも、ゼファーはガルーナの竜。


ストラウス家と共に在ることを選んだ、『パンジャール猟兵団』の一員。


視野を保っていたよ、ルルーシロアという最強のライバルと競っている最中であっても。


戦場という場所では、臨機応変さが評価される……。




『……れいちぇる……っ。じゃん……っ!』




―――旋回合戦のせいで、『オルテガ』からずっと遠くに離れていることに気づいた。


レイチェルとジャンが、帝国の傭兵どもを相手に戦っている場所の上空だ。


地上には多くの敵がいて、あまりにも数的な不利がある。


ゼファーは自分のプライドを、制御した……。




『に、げる……ッ!?』


『ち、が……う……ッ!!』




―――失神寸前まで、加速旋回をしていたおかげだ。


ゼファーが先にこの競争をやめても、ルルーシロアが背後に追いつくことはない。


わずかに尻尾の先を、傷つけられただけで済む。


ルルーシロアの意地の込められた首の一振りが、黒いしっぽをほんのちょっと削った……。




『いた、く、ない……ッ!!』




―――強がりのためではなく、自分のプライドを律するための魔法の言葉だ。


『パンジャール猟兵団』の勝利につなげるために、ルルーシロアを連れて行く。


わざと背を見せて、誘い出すんだよ。


逃げるような素振りをする、それは竜にとって屈辱ではあった……。




―――それでもガマンする、ルルーシロアとの競争も大切である。


だが、レイチェルとジャンの援護をすることも重要だ。


そして、自分たちが上空を飛び回れば敵どもは慌てることは明白。


それならば、巻き込んでやればいいだけのこと……。




『こい、るるーしろあ!!やるなら、あいつらのうえでも、いいだろう!!』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ