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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百七十八


―――ロロカの指揮と連鎖した無数の戦術により、大きな有利が作られている。

夏の日差しの下で、帝国兵どもは負傷者の手当てに追われた。

『コウモリ』の群れが、その様子を確認している。

必死な声を聞いたよ、それは切実な医療の現場だ……。




「死ぬなよ!傷は、そんなに深くない!!」

「……そういうウソを、お、オレも……言ったよ……は、腹に穴が、開いてるんだぞ」

「それでも、助かる!縫うから、待っていろ!!気を強く持つんだ!!」

「……う、うう。戻りたい……家に、戻りたい……母さん、母さん、母さん……」




―――カミラには選択肢がある、圧倒的な才能を持たされた『吸血鬼』だからね。

負傷した帝国兵どもを数えるだけじゃなく、死をもたらす力もカミラにはあった。

何せ『血を操れる』のだからね、帝国兵どもの傷口からの出血を早めることも可能だ。

確実に殺せる対象が、『コウモリ』の群れの下にはたくさんいたよ……。




―――もちろん、カミラ・ブリーズは迷いもしない。

敵兵どもの傷口から血をあふれさせることなんて、聖なる呪われた娘は選ばないよ。

猟兵の職業倫理でもあるし、そもそも人道に反する行いだ。

カミラは選ばなかったよ、そんなつまらない戦い方なんてね……。




―――やさしいからだし、本物のプライドを彼女は身に着け始めているからだ。

猟兵の職業倫理だけでなく、医療現場に参加した者としての職業倫理さ。

カミラの人生が得た、あらゆる正しさが彼女を複雑に成長させている。

誰に命じられても、目下で繰り広げられている生存のための医療を妨害しない……。




『……敵っすけど。殺せるっすけど。そんなのは、邪道っすから』




―――甘さなどではないよ、プライドを貫くという行いは人生で最も尊い選択だ。

自らの信じる倫理に正しく従える者が、真の誇り高き者だからね。

カミラは敵の負傷兵の数と、医療が救えないであろう数をすばやく把握すると。

果たすべき使命のために、自軍へと急いだ……。




―――武装を外した者たちが、敵の弓兵の死体から矢筒を回収していたね。

『地雷』には気をつける必要はあったけれど、誰もそれを踏むことはない。

欲も悪くも『プレイレス』軍が用いた火薬は、質があまり高くなかったから。

火薬のにおいに集中しておけば、走り込まない限り『地雷』の場所には気づける……。




―――敵から回収できた矢は、かなりの数となった。

これも期待しての、弓兵狙いの狙撃の連射であったわけだよ。

敵の矢であったとしても、利用し尽くしてやるべきだからね。

矢を消耗し切っていた『プレイレス』軍は、どうにか矢を補充していく……。




『……作戦は、完璧っすね。あとは……自分の仕事に、集中するっすよ!』




―――こちらにも負傷兵はいるよ、帝国軍ほどではなくても大勢ね。

戦術的な有利がいくらあったとしても、殺し合えば無傷でいられるはずもない。

即席の野戦病院が作られていて、傷を負ってしまった戦士たちは集められている。

そこがカミラの仕事場になる、負傷者全員の『血の流れ』を制御するのさ……。




「……っ!?出血が、止まった……!?」

「これが、ウワサの……っ」

「縫える!血が止まってくれるなら、深手でも傷口が明確になる!!」

『自分に任せるっすよ!もっと、傷ついたヒトたちを、一か所に集めるっす!」




―――『コウモリ』の群れから、ヒトの姿に戻ったカミラは医療班に命じた。

カミラの力を聞かされていた医療班は、この圧倒的な力に従順さで応えていく。

死ぬしかないはずの重傷者でも、『吸血鬼』の異能があれば助けられると理解したのさ。

戦場の傷は止血が叶うならば、それだけで生存率は大きく上昇する……。




「助けてみせるっすよ。『吸血鬼』は……恐ろしくて、おぞましい力かもしれないけど。ソルジェさまが、自分に……聖なる道もあると教えてくれたっすから!」




―――血を操りながらも、カミラは自分も治療にあたる。

深い傷を縫い合わせて、止血の秘薬を使いながら包帯でぐるぐる巻きだ。

ソルジェの魔眼以上に『血液の流れ』を把握しているから、お手の物だよ。

縫い手としての技巧もある、故郷では針仕事もこなしていたからね……。




「こ、これだけの人数の出血を、抑えられるんですね……っ」

「そうっす。自分でも、これだけやれるとは知らなかった……成長を感じるっすよ」

「すごい能力ですっ。情報を、口止めされるわけですね。敵に知られれば、欲しがられる」

「……敵が、降伏するなら治療もしてあげられるっすけれど。今は、戦いの途中っすから」




―――殺し合いだけに夢中になるのが、戦いではないよ。

政治的で経済的な行いであり、つまりは社会的な行動だ。

複雑な側面を有しているもので、残酷さだけで成り立つわけでもない。

職業倫理と誇りを失わないことが、社会をより正しく生きるコツなのさ……。




―――迷いもするし、迷うべきこともある。

世の中は複雑だから、そう在るべきだ。

ヒトが死なずに済むのなら、それは最も正しい道なのには違いない。

殺しながらも生かす道を探る、なかなかの矛盾であり難解さはあった……。




―――医療班は目の前の負傷者に、集中していく。

誰かを助けるという行いは価値あるものだし、大きな満足を治療者にも与える。

カミラはここが戦場だなんて、考えなくなっていた。

治療に没頭していく喜びがある、戦士としての喜び以上のものだ……。




―――それでも、戦いのために必要な情報もある。

ロロカはカミラに近づいた、敵の正確な負傷者を聞くためにね。

カミラの集中を妨げることに罪悪感を覚えながらも、指揮官としての責任を果たす。

敵の負傷者の数を把握すると、ロロカは次の一手を考えつつ質問を重ねた……。




「こちらの負傷者のうちで、戦線に復帰可能な方は?」

「……二十人っすね。あまり、して欲しくないっすけど」

「ええ。いきなり最前線に立たせはしません。それでも、こちらの数が減ったように見えれば、敵は増長する」

「……はい。そうなれば、戦いが長引く……」




「敵の士気を完全に崩しておきたいですからね。『オルテガ』に対しての援護のためにも。あと一押しすれば、敵は……『オルテガ』に向けた兵力を呼び戻そうとする。そうなれば、ソルジェさんたちへの援護にもなる……欲張り過ぎですが、それが最も、こちらの死者を減らすから」

「……やってみるべきっすね。あちこちで、戦っている状況っすから」

「ええ。敵に使者を送ります。負傷兵の退却を、また許してあげると」

「そういうのは、好きっす。可能なら…………いえ。何でも、ないっす」




「はい。成すべき行いを、選びましょう」




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