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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百七十五


―――人種差別の感情も、ロロカは利用した。


けっきょくのところ、既存の世界の常識はそんなものではある。


人種の差は大きくて、ほとんど絶対的に心を分け隔てていた。


ヒトは誰かを好む以上、誰かを嫌いにもなれるからね……。




―――だからこそ、賢いロロカは考える。


自分たちが力尽くで、自分たちの『正義』を保証しなければならないと。


『狭間』の子を産む宿命にあるのは、ロロカも一緒だよ。


その子を否定する世界なんて、破壊してやりたくて当然だった……。




―――母性的だろう、すべての『狭間』の母親がこの作戦を指揮していたら。


全員ではないだろうけど、多くの母親たちが同調したんじゃないかな。


亜人種や『狭間』に対して憎悪を燃やす敵の群れを、差別感情を逆手に取って滅ぼす。


それに対して、ある種の快楽を覚える者だっていたに決まっている……。




―――それだけ彼女たちは苦しんできたし、『未来』を勝ち取らない限りずっと同じだ。


分からせて欲しいと、願う者もいる。


この世界にある不条理を、この世界にある不公平を。


ロロカは憎悪する敵を、冷たいサファイアブルーの瞳で見据えながら計算を練った……。




「ギリギリまで引きつけますよ。全員、その意識を徹底してください。『突撃させるんです』!」




―――土と地にまみれた二十分の作業をしていたのは、帝国軍だけではない。


こちらもその時間を、有効に活用していた。


時間だけは平等に、あらゆる者に与えられるからね。


帝国軍の若者どもは、それに気づいてはいないだろう……。




―――演技が必要だ、こちらは受け止めるつもりだと見せかける。


中央と左右の翼端に分かれたユニコーン騎兵たち、彼らが迎撃のいななきを歌った。


地を前足でガリガリと削る動きも見せつけて、敵に挑発を仕掛ける。


勇敢さと怒りと憎悪に駆られた若い帝国兵が、イラつきながら叫んだ……。




「角馬どもを、ぶち殺してやるぞ!!」


「劣等種族どもめ、いい気になるなよ!!」


「数で、圧倒してやればいい!!」


「帝国軍は精強であり、圧倒的多数なんだ!!」




―――帝国軍の指揮系統は、どうにもこの若者どもの逸る気持ちを制御できない。


いや、しなくていいとも考えたのか。


暴走する感情のまま、この若者どもを突撃させることを選ぶ。


中央突破の尖兵として、走らせていた……。




「突撃しろ!!あの薄い敵陣を、突き崩せ!!」


「今度はこちらが中央突破だああ!!帝国軍の強さを、見せつけろ!!」


「角馬の首を取った者には、褒賞を与える!!」


「ユアンダート陛下の理想を、示してみせよ!!」




―――感情による統率は、かなり有効なものだった。


血気盛んな帝国兵どもが、闘争の情熱に身を委ねて突撃を開始する。


帝国軍は強いよ、十分な訓練を末端にまで施している。


理論武装もしているからね、人間族第一主義と『無敗の歴史』だ……。




「ファリス帝国は、負けを知らないのだ!!」


「いくつかの師団が後れを取ったとしても、それはただの一時的な現象!!」


「最後に勝てばいい!!そうすれば、オレたち帝国軍は無敵のままだ!!」


「帝国軍に、栄光あれえええええ!!」




―――いい突撃だった、気勢をまとった鍛え上げられた突撃。


自らの『歴史』を信じたとき、軍隊は強くなれる。


帝国軍は無敗、ソルジェ以外と戦って負けたことはほとんどない。


その歴史を継承している気になった若者たちは、夏の風を突っ切るように走った……。




―――無敵であり無敗であったはずのベテランどもは、すでに疲れていたのにね。


熱狂に乗るためにも、それなり以上の体力がいる。


判断力を有した、本当の強敵はこの突撃について来れない。


ロロカの計算は、そこまでも当たっていたよ……。




―――ギリギリまで引きつける、『見破られないように』。


こちらの作戦は、実にシンプルなものだから。


ベテランが最前線に並んでいれば、この『動き』を読解されたかもしれない。


帝国軍のベテランどもは、本当に経験値が豊富な百戦錬磨ではあるからね……。




―――演技力と、度胸の時間だよ。


商いと同じく、戦場での戦術も博打と詐欺の要素があるものだ。


ストラウス商会の副社長は、その有能さをすでに証明済みだよ。


突撃していく帝国兵どもを見つめたまま、ロロカは命令を叫ぶ……。




「『敵の勢いは、想像以上です!!中央、下がりなさい!!』」




―――『プレイレス』軍が一斉に動いた、土煙を上げるような速度でね。


中央突破を仕掛けている最中の、若い帝国兵どもは大喜びだ。


自分たちに敵が背を向けて逃げ出した、それは戦場では熱狂的な喜びを招く。


自信を深めて、ますます勢いを増して走ってしまった……。




―――左右に長く伸びていた『プレイレス』軍の陣形、その中央。


まるでロロカの命令が真実だったかのように、大きく後ろにへこんでいたよ。


中央での衝突を避けるように、逃げ出してしまったかのようだ。


だが、それはすべて偽装に過ぎない……。




―――ロロカたちが率いていた中央の部隊は、じつは後ろに下がっちゃいない。


それでも、後ろにかなりの数の部隊がいた。


どういう手品かと言えば、『入れ換え』が行われていたのさ。


中央の部隊は、じつは『左と右に移動していた』だけ……。




―――『左と右にいた部隊の少しずつが、斜めに走って『後ろ』に移動していた』。


『何がしたかったのか』と言えば、突撃してくる敵を招き入れたかったのさ。


さっきまでロロカたちがいた中央、その『すぐ後ろ側』にね。


二十分の時間を使い、そこにはたくさんの『地雷』を埋めていたのだから……。




―――この『地雷』を踏まないように、中央の部隊は左右に動いた。


それと『入れ換わる』ようにして、左右の部隊の一部が『後ろ』に走る。


こちらの誰もが『地雷原』を踏むこともないまま、中央が『後ろ』に下がった形となった。


突撃を仕掛けた帝国兵どもは気づかない、陣形の移動が『見た目とは違う』ことに……。




「私たちの、勝ちですよ」




―――帝国兵どもは、中央突破の欲望に駆られたまま。


『地雷』を踏んでしまい、あちこちで爆発が起きる。


竜の『火球』のように、すべてを破壊するほどの威力はボクらの火薬にはない。


それでも足を骨折し、周囲の敵に飛び散る破片で傷を負わせることはやれた……。




―――突撃の最中だからね、誰かが『地雷』で吹き飛べば後続の大きな邪魔になる。


突撃の速度は緩んだが、それでも若い帝国兵どもは状況を誤認した。


『地雷原』に自分たちが招き込まれたなど、つゆほども思わない。


こちらの突発的な反撃程度に考え、ますます力強く突撃する……。




「や、やめろ!!これは、敵の策だ!!」


「行くな!!バカ!!この突撃は、失敗するぞ!!」




―――ベテランどもが叫んでいたが、若さはそれを臆病と断じる。


ますます躍起になっている突撃し、第二第三の『地雷』の横列を踏んでしまった。


そうなれば若い突撃もさすがに緩み、状況に気づいたベテランどもは突撃を拒む。


途中で止まった突撃ほど、弱々しいものはない……。




「私たちの包囲の真ん中で、傷つき止まってしまったのです。覚悟をしてください。弓の使い手たちが、左右を囲んでいますから。女神イースに、祈るといいと思います」




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