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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百七十


―――当たり前だけど、『攻撃』の戦術というものは連携で威力を増す。


カミラは混乱した敵に対して、襲い掛かったよ。


馬を追いかけてしまったため、連中の『密度』は大きく薄まっていた。


猟兵にとっては、何とも楽な仕事になる……。




―――襲撃者を探そうとして、分散してしまった敵。


二人一組となり索敵行動をしているが、背後に忍び寄った『コウモリ』に気づけない。


ヒトの姿に戻ったカミラは、一人目を背後から襲撃する。


『闇』を使った斬撃だよ、頸動脈を確実にかき切る一撃だ……。




―――刃のように鋭く尖り、長く伸びた影が死を刻む。


二人目が背後のカミラに気づいたが、それで終わりだよ。


カミラが左腕を水平に振ると、影の刃が波打ちながら踊った。


指揮者に忠実な楽団みたいに、影の刃はカミラの想像力を完璧に実現させる……。




「あなたにも、すみやかな死を与えてあげるっすよ。苦しめる必要はありませんっすからね」




―――吹き上がる血潮が激しすぎて、断末魔さえも遠くに響かない。


死に至る恐怖、それを主張する機会さえも圧倒的な力は奪い取ってしまう。


カミラはそれを喜びはしないが、敵が長く苦しまなかったことは誇らしかった。


無意味な苦しみを与えたくない、彼女らしい……。




―――『コウモリ』の力を悟られないことも、大切なものだ。


『吸血鬼』の力に有効な対策法など、この世には存在しないのだけれど。


知られなければより有効であり、それはカミラ自身の安全を保障してくれる。


『パンジャール猟兵団』の戦術にも、大きなアドバンテージになるのは言うまでもない……。




―――すぐさま『コウモリ』に身を変えて、ふたたび空へと戻った。


足跡ひとつ残していない襲撃者を、どうにか探そうと努力する帝国兵ども。


そいつらを片っ端から襲撃し、この部隊の半数をまたたく間に狩り尽くす。


完璧な仕事だよ、全滅を目指さないやさしさは評価が分かれるところだけどね……。




―――それでも戦術というものは流動的だ、全滅させないことが有利を起こす。


生き残った帝国兵どもが仲間の死体に気づくと、恐怖に陥った。


勇敢さに欠ける者たちは、敵前逃亡を始める。


生半可に精強な部隊ではあったからこそ、臆病者たちは賢くもあった……。




「し、死にたくねえ……っ」


「何か、とんでもないバケモノがいる……」


「お、オレは帝国市民権を手に入れたんだ……」


「……わざわざ、死ぬことはない。隊長も、死んじまった」




―――この卑怯な臆病者たちは、他の帝国兵にすぐ見つかる運命だ。


敵前逃亡の罪で、すぐさま裁かれることはない。


賢い判断だ、戦闘がいつ起きてもおかしくない状況では帝国軍の鋼の規律も歪む。


今このときなら死刑に値する敵前逃亡も、見逃されてしまうのさ……。




―――彼らはよく理解していた、自軍が手薄となっていることを。


もしも戦いになれば、敵前逃亡の罪人でも戦闘要員として復帰させる必要が生まれる。


卑怯であり不公平な行いであるが、それでも生き抜くための処世術だ。


カミラはしっかりとこの逃亡者どもを観察し、気づいている……。




『古強者たちでは、あるみたいっすね。年齢も、高い。それに、傷だらけ……『プレイレス』で戦ったばかりなのかもしれないっす』




―――まだ癒えぬ傷から、カミラはそんな予測を立てた。


おそらくそれは当たっていたのだろう、優秀であり経験豊かであるが。


戦闘に対してのモチベーションが、あまりにも低い帝国兵ども。


そういったベテランが、帝国軍には生まれつつあったのさ……。




―――無敵のはずの十大師団の度重なる敗北が、ベテランどもの想像力を刺激している。


十大師団に属していることは、名誉あるエリート軍人という立場を示していた。


ベテランどもも、その事実に酔いしれてきたものだが。


今となっては、名誉よりも生きることを望みつつある……。




「あれだけ、戦って来たんだぞ。それなのに、し、死んでたまるか」


「……長く、長く戦っているんだ」


「……帝国軍は、そのせいで……もう老朽化していまっている」


「オレたちには、帰還する権利があるはずだ。兵役の義務は、もう果たしている」




―――大陸全土を掌握する勢いの侵略戦争、無数の勝利を作ったのはベテランたちだ。


しかし、彼らにも不満が募りつつある。


十大師団の敗北を見せつけられた彼らは、気づいているんだよ。


自分たちが敗北した理由は、帝国軍そのものの老朽化だと……。




「そうでもなければ、負けるはずがない。亜人種どもごときに……」


「帝国軍は、人材を失い過ぎたんだ……」


「マルケス・アインウルフ将軍も、謀反を起こしたと」


「……真に栄光ある将軍たちが、帝国を見限りつつある……」




―――今では我々の盟友、マルケス・アインウルフは大きな仕事をしていた。


彼の帝国からの離反は、帝国軍のベテランに響いている。


栄光の時代は去ったのだと、ベテランどもに伝える最高の広告塔だ。


帝国内の人気もいまだに高いから、帝国も扱いに困るだろう……。




「……帝国軍が、常勝無敗の時代は、もう終わった」


「……少尉殿も、死んじまったしな……長く一緒にやってきたが」


「オレたちだけでも、生き延びるしかない」


「そうだ。死んでたまるかよ」




―――このくたびれ果てたベテランどもが、おめおめと退却して来たとき。


帝国軍の士官は、怒鳴り散らしはした。


しかし、ベテランどもの計算の通りにその場で処刑されることはない。


人情味あふれる判断ではあるが、大きな間違いではあったよ……。




―――若い兵士もいるからね、ベテランどもの軍規違反を目の当たりにすれば。


若く未熟な正義感は、アンフェアさにうなりを上げる。


どうして罰せられるべき者たちが、罰せられないのかと。


士気に直結する行いであり、大きな愚策だった……。




―――ありがたいことにね、帝国軍の精神的な結束がゆっくりと蝕まれている。


カミラはその一部始終を上空から見守りながら、この部隊の馬たちも暴走させた。


ベテランどもは、士官に教えてやる。


つい先ほども、こんな現象が起きたのだと……。




「つまり、いるってわけです。近くに、少尉殿を殺した、凄腕の暗殺者がね」


「アンタは一人にならない方がいいぜ。敵は、間違いなく……指揮系統を狙っている」


「いい報せだろう。全員で、固まっておくべきだ。そうすれば生き残れる」


「……黙っていろ。臆病さは、伝播してしまうものだ」




―――その通りだよ、恐怖は想像力を燃料にして燃え広がる。


弱気なベテランどもに、それを処罰することも選べない士官。


それを見てしまった若い帝国兵らは、不満と失望と恐怖を胸に抱いてしまう。


分析能力が足りなくても、本能的な社交性が読み解いた……。




「も、もしかしてよ……戦況は、すごく悪いんじゃないか……?」





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