第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百六十五
―――パロムは信じるというよりも、選ぶことに決めた。
フリジアは憎むべき『カール・メアー』、その一員ではあったのだが。
共に戦うに足る覚悟は感じられる、それはディアロスにとって大きな価値がある。
勇壮な極北の戦士たちは、戦いで多くを語り合うものだからね……。
―――城塞から城塞に跳び移るという、極限的な運動。
それは戦いそのものであり、それを共に行うことで多くの知覚を得ていた。
肌が伝えてくれるし、彼女たちが最も頼りにする『水晶の角』からも伝わる。
フリジア・ノーベルの心までは探れないが、有能な戦士なのだと……。
「使えるのなら、使うまでですね!!」
「そうだ!!使ってくれるといい!!」
「跳びます、よ!!」
「ああ、置いて行かれないように、飛ぶ!!」
―――ディアロスが僚友として選んだとき、裏切るべきではない。
厳罰が待っているからだよ、パロムはフリジアが裏切れば自分の手で殺す気でいた。
パロムにとって、それはこの選択に伴う責任だったよ。
戦況を悪化させるような真似をすれば、槍で串刺しにしてやると……。
―――その覚悟をすればこそ、信じられなくても共に行動することだってやれるのさ。
じつにディアロスらしいもので、深い信頼関係のない者同士が共に戦う最低限の保証だ。
ヒトとヒトのあいだにある溝や壁は、『オルテガ』のそれよりも迷宮的だからね。
女神イースはべつに嘘つきでもない、ヒトはヒトを拒絶し合って今日まで来た……。
「ありがとう、私を拒絶しないでくれて」
「……私たち、ディアロスは……寛大なのです!!」
「そのようだな!!とても、ありがたいよ!!」
「……貴方は……どうして、『カール・メアー』なのだ!?」
「拾われた。そこが、『家』だった。それまでと言えば、それまでだな」
「だから、あんな残酷な連中の一員でいたと」
「そうだ。残酷というか、いや……残酷で、間違っていたのだが。ヒトは、流れに沿ってしまうものだ。私は、周りの者とのつながりを求めて、間違いさえも信じた」
「弱い。それは、弱さだと思います!!」
「そうだな。本当に……だが、誰もが、強くなれるわけではない」
「私たちは、強さを尊ぶ。極北からの風に凍てつきながら、瞑想だってする!!」
「瞑想は、私たちもしたのだが……どうにも、良くない夢想をしたのだ」
「何を、自分の内側に見たというのです?自然は、多くを教えてくれるのに!」
「孤独だ。孤独と、それを補うための、方法……少を滅ぼし、多を守る。それは、まるで正しいだろう?ありふれた正しさのある、考えじゃないか?」
「たし、かに……少のために、多が滅びるよりは、合理的。ありふれた、考えかもしれませんね」
「ありふれている。だが、だからといって、ありふれているコトが、正しさの証明にはならないだろう」
「それは、そうです……ね」
「少を消し去れば、世界はマトモになると思ったのだ。その行いの、善し悪しなど、自問もせずに」
「無責任、ですね」
「宗教とは、委ねる行いだ。自分で考えるために、信仰を選ぶ者は、極めて少数だ」
「貴方も、そうだった」
「そうだ。周りに、いともたやすく流された。帝国もそう言っているし、周りの皆もそう言っている。私は、何とも狭い了見しか持たなかったのだ。宗教は、ときに、あまりにも可能性を否定してしまう」
「『カール・メアー』は、やはり嫌いだ!!」
「ああ!それで、いい!」
「笑顔で、言うな!!それはそれで、何だか混乱しそうになる!!」
「考えるのも、悪くないだろう」
「ディアロスは、どちらかと言えば、感じ取るタイプなんです!」
「同じことだ。自分で感じ取ったコトを、考えるのだから」
「世界は、フクザツで、苦手かもしれない!!でも……」
「でも。どうだと言うのだ、パロムよ?」
「考えを、感じ取るのを、続けようと思う!!『カール・メアー』に、なりたくないからだ!!私は、私の辿った道で見たモノで、考えたい!!フリジア・ノーベル、貴方を、証明してください!!」
「証明する、か」
「どういう方法なのか、何がどうなるのを見たいのかさえもっ。私には、分からない。でも、証明して欲しい。貴方が、どんなヒトなのか!!」
「うん。してみせる……私が、なすべき道を、選ぶぞ」
「期待は、しておきます」
「お前は、いいヤツだなあ」
「当然です!!ディアロスは、いつだって明朗快活!!陰険で、残酷な『カール・メアー』とは、違うんです!!」
―――誰かを嫌い、何かを嫌う。
それもまたアイデンティティを、確認させてくれる行いだ。
パロムはフリジアを嫌うべきかどうか、分かっていないけれどね。
『水晶の角』は語りかけてくれている、偉大な北風のような覚悟を……。
―――フリジアはね、自分のことを全く考えていないんだ。
だからこその跳躍であり、だからこその追跡能力。
パロムは利他的な戦士にならば、いつだって敬意を持てるディアロスの戦士だよ。
誰かのために戦える者を、戦士の文化が軽んじられるはずもない……。
―――パロムにとっても、得難い出会いの一つだろう。
信仰に生きる者に、真の宗教家との遭遇する機会は稀だよ。
多くのそれらとは出会う価値がないからね、ただの聖典の劣化コピーに過ぎないから。
自分の考えを神さまにぶつけられてこそ、本当に価値ある思考だ……。
―――少なくとも、変革の時代を生きようとしている者にはそうだよ。
古臭く固着した教えでは、何一つの救いにもならない。
世界が変わるのならば、宗教だって変わらなくちゃならないんだ。
『カール・メアー』が亜人種や『狭間』を殺す理由が、解消されたとすれば……。
―――『カール・メアー』のやさしい慈悲は、どういう変革をすべきだろう。
亜人種や『狭間』と人間族が、手を取り合える世界が来たとすれば。
どんな『カール・メアー』になれば、そのやさしさを正しく使えるのか。
フリジアは、自覚なしにそんな考えをしていたんだよ……。
―――パロムもそうだ、本当に確かめたいのは変化の可能性だ。
どこまで石頭な宗教が変われて、憎むべき存在から違うモノになれるのか。
ミア/亜人種と、ビビアナ/『狭間』のために。
必死さを使える人間族/『カール・メアー』、それは混乱を招くほどの可能性だ……。
―――選んだのさ、信じられなかったとしても。
それでも、可能性を確かめてみたいと。
かつて『狭間』の子とその母親を守れなかった者は、責任がある。
自分の生きた道で確かめるのだ、この可能性の価値を……。




