第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百六十四
―――戦士たちが集結しようとしていたとき、フリジアもまた現場へと急ぐ。
『曙』の『全速力/スパート』には、大きく離されてしまっていたものの。
それまでの時間、『曙』はちゃんと『手加減しながら走っていた』。
互いの距離は、絶望的なほどは開いちゃいない……。
―――馬たちは汗をまき散らしながらも、『オルテガ』に到着する。
パロムの『水晶の角』は、『曙』の居場所を教えてくれていた。
若さには課題を与えるべきで、パロムと『曙』は課題をクリアし成長を果たしている。
空間を越えて、互いの知覚を今まで以上に伝え合っていた……。
「やれる、ものですね!『曙』が、誘導してくれています!!あとは……城塞の上を私たちが駆け抜ければいい!!」
「馬も限界だからな。これ以上、走らせれば心臓が破裂してしまう。よくがんばってくれた……よしよし」
「いい馬です!!『ルファード軍』のみなさん!!ケアをお任せします!!私たちは、ストラウス卿の援軍に向かいますので!!」
「……ソルジェ・ストラウス。戦っているというのか……女神イースと……」
「そのようです!『曙』から、伝えられたハナシでは!」
「……そう、か。レナスよ……お前は、本当に成し遂げたのか」
「貴方は、来なくてもいいのですよ?」
「覚悟は、している。私は、ミアとビビの親友だ。二人のために、戦う」
「そうでしたね!!では、私につづいてください!!」
「城塞を一気に、駆け抜ける……」
「最短距離を、『曙』のひづめを追いかけるのです!!」
「……馬より速い、ユニコーンに……いい運動になりそうだ!!」
―――二人とも達人級に程近い優秀な戦士だ、しかも追いかける『道しるべ』があった。
ルートを考えなくてもいいのさ、それは追跡のアドバンテージとなる。
『曙』にはディアロスとユニコーンの、本能めいた絆が機能していた。
何かと言えば、ディアロスの身体能力で追いつけるギリギリのルート取りだよ……。
―――ユニコーンの跳躍距離に、ヒトであるディアロスが勝ることは難しい。
しかし、不可能ではないんだよ。
ディアロスの騎馬槍は、戦闘だけに使えるわけじゃない。
移動にも使えるのさ、具体的には棒高跳びの要領だよ……。
「私に、つづいて下さい!!」
「お、おう!!」
「『曙』に跳べて、私に跳べない道など……ないのです!!でやああああ!!」
「お、おお……ッ。本当に、この距離を……跳ぶのかっ」
―――長い歴史が自動的に編み出していた、本能に沿う文化というものがある。
ディアロスとユニコーンは、お互いに結び合おうとするのさ。
たとえ戦場で離ればなれになったとしても、必ず合流できるように。
極北の勇者と霊馬の歴史は、普遍的な法則を作り上げていた……。
―――『曙』のルート選択は、無意識ながらもパロムの追跡を許す。
騎馬槍を使いこなし、城塞から城塞のあいだを見事に乙女が飛び越えていた。
パロムは喜びを得ていたよ、『曙』と自分の絆を感じられたからさ。
問題は、フリジアはディアロスじゃないということかな……。
「私に、やれる……だろうか……っ」
「さあ、飛んでください!たったの8メートルほどの距離です!!」
「ま、まあ。助走をつけられれば、この程度は越えられるが……助走なし、か」
「迷わずに、ドーンと!!為せば成ると、言うではありませんか!!」
「そ、そうだな……ッ。『カール・メアー』の体術で……ミアを、再現だ……ッ」
―――これもまた歴史だったよ、フリジアの人生は『カール・メアー』と共に在った。
そして『カール・メアー』と決別した今は、ミアの動きを頼ろうとしている。
ケットシーの動きを真似るのは、人間族にはかなりの難しさはあるが。
それでもフリジアに頼るべきは、この選択しかない……。
「お山の教えてくれた力と、ミアの力……ッ。二つとも、私を、助けてくれる!!」
―――ほぼ助走無しの、8メートルの跳躍。
隠遁の術、『風』の魔力を意識した体術でミアの圧倒的な速度を真似る。
フリジア・ノーベルは、それを見事に成功させていたよ。
彼女には無自覚の意地があり、力を引き出させた要因だった……。
―――『カール・メアー』と、ケットシーの力。
お山と、親友の力。
亜人種と『狭間』を排除する者たちと、亜人種たち。
それらをつなげる道を、フリジアは無意識かつ必死に求めているんだ……。
「と、届いた!!届いたぞ……ははは、ははは!!」
「ナイス、跳躍ですよ!!」
「ああ。ありがとう、パロム。さあ……先を、急ごう!!」
「ええ。これを飛び越えられるなら、私も遠慮なしに追いかけられます!!」
「う、うむ。ついて行くぞ!!戦いの場に、向かうのだ!!」
「ええ、こちらです!!」
「ミア……ビビ……待っていろ、私も……戦う」
「……友情って、ステキですね!!」
―――パロムは容赦なく、『迷宮都市』の攻略を開始した。
『曙』を追いかけて、ただひたすらに走って跳躍する。
フリジアも『風』の魔力を使いながら、どうにかパロムに追いすがった。
必死さが必要な追従であることが、フリジアには大きな救いになってもいる……。
―――女神イースは、彼女にとって最も大切な存在のはずだった。
『カール・メアー』と決別しても、女神イースへの信仰を否定したわけじゃない。
女神イースがこの世界に実在している事実を、喜ばないはずがなかった。
孤児であるフリジアを、究極的に救って来たの信仰心なのだから……。
―――無条件の愛では、なかったかもしれない。
『カール・メアー』は『家族』の代替としては、どうしても不完全だ。
信仰しつづけなければ、お山に居場所は作れなかったかもしれない。
巫女戦士を目指したからこそ、得られて満たされた所属意識もある……。
―――フリジアは、本当の家族愛なんて理解していない。
それに触れたことが、ないからだよ。
似たような力を支えにして、ここまで生きて来ただけでね。
無条件で拒絶されることのない、本当の無償の愛がある場所なんて……。
―――それでも聖なる女神は、多くをくれた。
仲間も師も友人も、そして生きる方法も目標も。
だが、やはり家族とは違う。
抱きしめるための体も、女神イースは今まで無かったのだから……。
―――会えば、どんな感情を抱くだろうか。
夏の暑さの下で、全力の跳躍をしながら。
フリジアは想像をする、自分の人生に多くをくれた女神イースと出会ったとき。
笑顔になるのは、仕方がないことだろう……。
―――それをパロムに見られて、不審に思われてしまうのも。
パロムも純粋ないい子だけど、『カール・メアー』への敵意と疑問はあった。
フリジアの辿った複雑な道を、理解できるはずもない。
出会って数時間も経っていないのだから、完璧な信頼を醸成するなど不可能だ……。
「貴方は、女神と……戦えますか!?」
「……お、おお。お前、いきなり核心を突くではないか」
「普通ならば、戦えないと、想うのです!!貴方は、僧侶であり、女神イースは信仰対象でしょう!!」
「そうだ、そうだよ。だが、だがな、パロムよ」
「何ですか、フリジア」
「……『カール・メアー』の、召喚した女神イースは、本物ではないだろう」
「……そう、でしょうね。ヒトが、創り出した神さまに、過ぎない」
「女神イースに会えるのは、嬉しいのだ。しかし、な。しかし……イース教の神髄は、女神が不在であることで、成り立つのではないかと思っている」
「難しいですね。異教は、分かりません。『カール・メアー』は、女神が欲しくて、呼び出したのでしょう!?」
「そうだ。だが、『カール・メアー』全体の総意でもない。もちろん、問えば……尼僧たちの、ほとんど全員が、それを求めただろう。私も、おそらくそうだ」
「なら、戦えないんじゃ、ないでしょうか!?」
「……直接、剣を叩き込めなくても……ミアを援護し、フリジアの盾となることも可能だ」
「二人の盾になって、死ぬと?それなら、女神イースに逆らわないで済むから?」
「それも、戦い方ではある。だが、おそらく私は……」
「甘い考えをしていれば、戦場で邪魔になります」
「……フフフ。そうだな。だがなあ、僧侶とは、そもそも甘いのだ。戦士ほどの冷徹さや、割り切りは不可能だろう」
「足手まといに、なるかもしれないと、感じています!!」
「手厳しい。だが、案ずるな。ちゃんと、親友たちのために行動する」
「戦う、と断じて欲しいものです!!」
「戦うか、女神イースと……なかなかに想像が難しいなあ」
「……ならば、ここで、置き去りにしたいとも考えています!!」
「嫌だ!ついて行きたい。置き去りにしてもらっても、どうにかこうにか追いつくぞ。ミアとビビの、役に立ちたい。それは絶対だ」
「……それも、分かります。痛いほどに、伝わってくる……必死でなければ、今ここにいない……『カール・メアー』……どうして、どうして……」
「人生は、フクザツなのだ。考えれば、混乱してしまうほどにな!」
「笑顔で、言うコトじゃありません!!」
「笑顔で、言うコトだとも思えるのだ。この苦しみは、何かを悟らせる。大切なものを、確実に。二人を守る。それに……女神イースにも、やはり会ってみたいな」
「私たちを、裏切るために?」
「いいや。そうじゃない。私は、証明したいのだ。この友情も、信仰も。きっと、世界をより良くする力を持っているのだと」
「甘い、ですね。僧侶は」
「そうだ。でも、甘いからと言って……弱いとは、限らない」
「それは、否定できませんね。事実、ここまでやって来た……」
「ああ。私は、きっと、この戦いに役立つぞ。より良き道を、見つけるのだ!!」




