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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百六十


―――可能性には、いつでも悲しいところがあるものさ。

あらゆる願望のなかで、叶えられずに消え去ったものも多く含むのだからね。

『魔法のもしも』の世界は、本当に豊かだった。

いつかどこかで、ありえたかもしれないそのセッション……。




―――歌えたかもしれないね、不才である不屈の男ならば。

悲しい少年に、あきらめることなく歌うための舞台をプレゼントしたのかも。

才能がないからこそ、義務だと信じられるのかもしれない。

素晴らしい芸術を、観客たちに届けたいと願えるのかも……。




―――笑顔に尽くした人生を持つ男なら、笑顔を失くした歌声に。

新しい笑顔だって、与えられたかもしれない。

すべては、『魔法のもしも』の世界。

ありえたかもしれない、叶えられなかった願望の世界……。




―――ボクがその世界に言える感想は、いくつかあるよ。

その一つは、聴いてみたかった。

女神イースのための歌でもいいし、そうでなくてもいい。

彼らが作ったサーカスの天幕のなかを、どんな素晴らしい歌で満たしたのか……。




―――オペラの伝統のように、フィナーレを務めさせたのか。

あるいは別の構成で、何か他の演目と共に歌ったのだろうか。

ボクはスパイで猟兵だけど、芸術家でもあるからね。

興味は尽きない、ボクは彼らの邂逅を見たかったんだ……。




「世界は、それを許さない!!」

「許されなくても、成すべきことがある!!」

「身勝手だ、あまりにも!!」

「傲慢でも、いいのです!!芸術とは、本質の叫び!!」




「世界は、多くを裏切った!!貴方も、裏切られたでしょう!!」

「ええ。世界は、いつも不完全でしたが……それでも、ヒトはいつでも笑顔を失わなかった!!」

「笑えない悲劇だって、あるんだ!!笑顔で、支えてあげられもしない悲劇が……ッ」

「それでも、芸術は示す。いつでも、真実を示す。心が感じたままに、否定できない、正しさのために!!」




「貴方と話すのは、本当に、イライラします!!」

「良い兆候ですよ。心を、もっと解放したらいい。女神のための使命は、尽きたのでしょう。ならば、あとは貴方のエゴをぶつけてくれればいい。受け止めてあげます。レナス・アップルの分まで、私に怒りをぶつければいい!!」

「あの子は、そんなことを……」




「会ってみたかったわ。『蟲』の媒介では、伝えきれない感覚も多い。どんなに貴方が再現したところで、それは究極の模倣に過ぎないもの。本当の交流を、したかったわ」

「……本当に、貴方は……ムカつくわ」




―――動きが止まるよ、リュドミナ・フェーレンは常に圧倒され続けていたから。

レイチェルも音楽の天才だ、リズムとテンポを読み解く力はソルジェに勝る。

あまりにも律された、教官的な武術の使い手の天敵だからね。

リュドミナは、もう戦う力を保てていない……。




「私は、貴方が好きですよ。リュドミナ」

「……余裕ぶるんですね。まあ、勝者には……その権利はある……」

「余裕でもありません。私は、もっと早く片付けられると思っていた。そして、そうするべきでした。女神イースに、私もぶつかるべきだったから」

「……女神イースのために、役立ったわけですね……竜は、もう、行ってしまったわ」




「ええ。だから、私は帝国の傭兵どもを、襲うことにします。役割分担をしなければなりません」

「……『オルテガ』への侵攻を、止められると?」

「作戦はあるから、心配しなくても十分ですよ」

「心配なんて、しません……」




「誰かに伝える力も、ないでしょう。貴方は、『帝国軍のスパイ』たちも裏切っていた」

「……彼らは、仲間ではありませんから」

「皇帝ユアンダートも、敵ですか?」

「……女神イースには、劣ります。すべては、女神が……奇跡で……救う。貴方も、遠からず消えるでしょう。すべての、亜人種が……この世界から消える……世界から、これで、また一つ……争いの火種が消えるの……こんな敵意を持っていても、私が好きですか?」




「好きですよ。政治的な信条と、好きか嫌いかは、さほど関係がないものです」

「……変わっているわね、本当に」

「やさしさだけは、疑いの余地はない」

「……ええ。やさしいに、決まっているじゃないですか……『カール・メアー』ですよ。私たちだけが、亜人種や『狭間』の救済を考えていた……無駄な苦しみなど、一切、もう背負わなくていい。貴方も、ね」




「そのやさしさを、別の『正義』に使ってくれたら。あるいは、もっと自由でいてくれたら。今の何倍も、貴方を好きだったでしょう」

「……残念でしたね。そこまで、私は、甘くはないもの」

「そうね。貴方は、信念と執念の女だった」

「……何でも、分かっているみたいに語るのね。決めつけすぎだわ。そういうのは、誤認を生む……」




「貴方に関しては、正しいでしょう」

「……認めては、あげませんよ。私は……自分のために、生きたわけじゃない。これは与えられた使命。私は、常に……女神イースの下僕なのです」

「貴方が作ったのに?女神イースを、もう一度、作ったのは、貴方の意志ではなかったと?」

「……与えられた使命に、従っただけ。使命に、生きる。それは、罪深さも、自主性もない、ただの無我の境地に過ぎません……だから、やっぱり、貴方の間違いですよ」




「強がりなのね、リュドミナ」

「……そう在るべきだから、そう在っただけです。いつでも、そうです。死んだあとでも、そうでしょう……そろそろ、ああ……もう……自分が、維持できそうにない」

「『蟲』に、喰わせはしません。それは、統制できなくなった宿主を、喰らう。『面影』を遺したとしても、それは不可全。私が満足する交流を得られません。貴方を、『蟲』に取られたくありませんね。貴方は、私が殺してあげます」

「……傲慢なのね、『人魚』さんは…………でも……いいわ……貴方に、あげます。この首に、罪人あつかいの断頭の一撃でも、入れてみなさい……」




―――レイチェルは、断頭の一撃を放った。

リュドミナの首が瞬時に切断されて、その首はレイチェル目掛けて飛んだよ。

最後の『攻撃』を企んでいたのさ、信念と執念の女性だからね。

最後の最後まで、ちょっとでも女神イースの敵に噛みつきたかったのさ……。




「分かっていましたよ。本当に貴方は、ブレない方です」




―――レイチェルは、その『攻撃』に。

斬撃を叩き込んで、終わらせていた。

リュドミナ・フェーレンの人生は、それで終わったよ。

大きな理解者の手で切り裂かれた彼女は、安らかな笑みを浮かべていた……。



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