第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百五十五
―――困難なことにぶつかったとき、ヒトは意外とあきらめる。
世界を変えるなんて行いは、一人では出来やしないのだからね。
ヒトには、ちゃんと限界があるのだから。
一人が成し遂げられる範囲は、あまりにもちいさいものだろう……。
―――でもね、『オレたち』ならどうかな?
一人では達成不可能な望みであったとしても、『みんな』ならどうなると思う?
ヒトは社会的な獣だから、群れを作り上げると大きくなれるものだ。
孤独の限界を超越した、本当に大勢の力ならば……。
「変えられるに、決まっているだろうがッッッ!!!」
―――あまりにも単純であり、あまりにも明快だ。
理論ではあるものの、これは論法を駆逐するような大きさの意志である。
あらゆる種族の力を合わせて、無理やりに世界を変えてしまうだけのこと。
参加すればするほどに、この力は際限なく大きさを増していく……。
―――ありふれた憎しみを、終わらせて。
ありふれた間違いを、正すために。
世界を変えてしまえるほどの革命的な暴力を、組み上げる。
もはやこれは孤独な挑戦でもなく、『未来』を願う者たち全員の闘争だ……。
「そうだ!!た、戦う!!」
「変えてやればいい!!オレたちで、勝っちまえばいいだけだ!!」
「ソルジェ・ストラウス!!オレたちも、オレたちも、戦うぞ!!」
「女神も、帝国も!!倒すんだあああああ!!」
―――若さは指導者を求めるもので、『大魔王』にはそれに応える資格があった。
明確な目標を提示する者は、とくに戦場では好まれる。
若い戦士たちは自覚した、自分たちは『世界を変える戦いの軍隊』だと。
恐怖を内側から打ち破って、その決意はそれぞれの範囲を越えて融け合っていく……。
―――ストラウス家の哲学、ガルーナ王国の哲学であるところの『歌』さ。
それよりも大きな進化をしてもいるし、ある意味では『先祖返り』とも言える。
『歌喰い/ラウドメア』のおかげで、忘れ去られた竜騎士姫の戦い。
かつて彼女は約束したのさ、『新しい故郷』を与えてやると……。
―――北方諸国を滅ぼそうと暴れ回った悪神、それを倒すために集まった者たちにね。
少なくない数が義勇のために、自分を捨てていたんだ。
悪神を倒すため、それぞれの国からガルーナにやって来ていた。
『ガルーナを弱らせる戦い』を、彼らの祖国は望んでいたというのに……。
―――殺される民も、殺された挙句に名誉/名前/記憶を奪われた戦士たち。
彼らの恨みと怒りに応えるため、戦士たちは自分を捨ててガルーナに来た。
竜騎士姫は種族も違う戦士たちのために、ガルーナを故郷として与える。
『歌喰い』と戦い死んでしまい、名前を忘れ去られたあとでも約束は機能した……。
―――アーレスという竜が、アレサという名を継いで。
竜騎士姫の名前も思い出せなくても、戦士たちと共に長くガルーナを守ったからだ。
『歌』の文化は、その時代に完成していった。
勇敢な戦士の魂たちを天空にたたえる契約の儀式であり、運命共同の約束の確認さ……。
―――若い戦士たちが、戦場に勇壮な雄叫びを使った歌を放つ。
本能的なものであるが、アーレスの血であるゼファーも呼応した。
天と地に融け合いながら歌が踊り、それは契約めいた『確かさ』を帯びている。
まさに契約の瞬間、若者たちはこの歌を放つことでソルジェの『未来』に同意した……。
―――『ルファード軍』の若い精鋭たちが、『自由同盟』の一員となった瞬間だよ。
彼らはソルジェの戦士として、同じ価値観のために敵に挑む。
女神イースもそうだし、ユアンダート率いるファリス帝国もそうだ。
ある意味ではそれら強大な敵よりも大きな、人種に対しての差別というものにもね……。
―――世界を変える、血なまぐさい戦いの始まり。
若い戦士たちは、ソルジェの背中を追いかけながら走っていく。
運命共同の誓いは孤独を打ち崩し、かつての北方の戦士たちの再来となる。
自分を捨てさせるような、歌となるに相応しい屈強な戦士の精神を若さに付与した……。
―――ヒトは根本的で逃れられない本能として、他者とつながりたがる。
群れ成す獣の本能が、それを肯定している。
友情や愛情や家族愛だけでなく、大きな理想とも結びつきたくなるのさ。
宗教にも近しい、思想の誕生だよ……。
―――孤独ではない、精神的な融合は勇気を与えてくれる。
どんな困難に対しても、自信の深さを示す笑顔を使って挑戦させてくれる勇気だ。
女神イースは、この熱狂的な一致に瞳を細めていた。
嫌悪すべき『洗脳』で、世界に対しての苦痛を増やす『あやまち』だと彼女は信じる……。
―――食い違う『正義』があれば、やはりこうなるものだ。
互いに全力と全霊をもって、殺し合う。
『正義』を保証してくれるものは、いつだって相手を殺したことによる勝利だけ。
やさしくはないが、これも数千年は続く人類の真実の一つさ……。
―――勝者だけが、世界を変えられる。
それを望むならば、戦って勝ち取るしかない。
運命をねじ曲げる権利を行使するのは、敗者ではないんだ。
その他の方法論は、それこそ空想に過ぎないのだからね……。
「ストラウス卿に、続け!!」
「女神を、殺すぞ!!」
「『命を、無駄にするとは!!愚かな、子供たちだ!!』」
「愚かではない!!『未来』のために戦うことは、何よりの正しい!!」
―――女神イースが六枚の翼を振り、弾丸の雨で若い戦士たちの突撃を迎え撃つ。
戦士たちはそれをまともに浴びてしまうが、即死はしない。
歯を食いしばりながら、背後に並ぶ仲間たちへと告げるのだ。
強がりではない、勝利を確信した笑みに口を歪ませながらね……。
「オレたちを、盾にしろ!!」
「行け!!女神を、倒せ!!」
「ストラウス卿を、援護するんだ!!」
「彼と共に!!今日から、世界を、変える!!」
―――若い魂たちは、竜騎士姫と共に悪神に挑んだ英雄たちと同じだ。
自分を越えて、大勢の仲間や『正義』とつながった自意識がある。
孤独とはあまりにも異なり、かつても今も存在する。
歌に相応しい、契約者たちだよ……。




