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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百五十一


「私を、狙う!?」




―――ルチアに向けて羽根の弾丸が、連続で放たれる。


赤い衝撃のリズムをつかみかけて同調しているからこそ、羽根の弾丸の射撃と噛み合った。


避けようとするが、弓を持つ左の腕をかすめた。


かすめるだけでも、とてつもない激痛だったよ……。




「な、なに、これ……ッ」




―――盗賊として戦士として狩人として、痛みに対しての経験を持つルチア。


彼女はたとえ腕が吹き飛ばされたとしても、耐えてやろうという覚悟があった。


おそらく『そんな痛みなら』、ルチアは絶えてみせたかもしれない。


でも違うのさ、今この瞬間に腕から駆け巡るのは通常の種類の痛みじゃなかった……。




「う、ぐっ。は、這入って……くるっ!?」


「ルチア、大丈夫か!?」


「さ、下がれ!!お前を死なせたくはない!!」


「みんなで、運べ!!」




―――ルチアの勇敢さが、リーダーシップを作り上げていた。


若い戦士たちは自主的にルチアを守ろうとする、ふらつく彼女の『盾』となった。


赤い衝撃の波にバランスや体勢を崩しながらも、地べたを這いながらだって。


若者たちはルチアを守るため前進し、ルチアを後ろへと下げようとした……。




「『庇うな。痛みが、増すだけだぞ』」




―――女神イースの弾丸が、戦士たちを襲う。


人間族であろうとも今度は容赦しなかった、それだけルチアを嫌っているようだ。


次から次に、若い戦士たちが傷つけられていく。


羽根の弾丸につけられた傷は、ルチアと同様におぞましい苦痛を与えていたよ……。




「こ、これっ。変だ。痛いだけじゃ、ないっ。の、呪いっ。呪術みたいなものも、これについてるんだ……ッ」




「『見せてやる。お前たちの無駄なあがきが、どれだけ深刻な苦しみを生み出して、広げていくのかを』」




―――女神イースの権能、その一つが機能していた。


ルチアの不快な苦痛に呑まれていき、意識は現実から遠退いてしまう。


それは深い海にでも沈んでいくような、大きな不安を伴う孤独感だった。


自分しかいない世界で、あまりにも感覚だけが広がってしまうような……。




―――現実には大勢の仲間たちがいたが、権能の世界における彼女は孤独を強いられる。


悪い夢のようであり、それにしては自我がしっかりと保たれていた。


精神に対しての攻撃だ、『ゼルアガ/侵略神』たちはよくやる。


『ギルガレア』の力で顕現した女神イースにも、同じ攻めがあったらしい……。




―――ルチアの記憶も女神イースは探ったのか、あるいは誘い出したのか。


孤独に耐えようとした彼女が本能的に選んだのは、ソルジェだった。


あこがれでもあるし、恋愛感情めいたものもあっただろう。


彼女が知る限り最強の戦士で、もしも今ここにいたら助けてくれたはずだからか……。




「助けて、ストラウス卿……ッ」


「『そいつの子供が、欲しいのか』」


「な、なにを……っ!?」


「『見せてやるぞ。お前が、望んだ世界の末路を』」




―――誰かに恋愛感情を抱くのは、罪じゃないよ。


その誰かとの『未来』を想像するのも、誰しもがやる普遍的な行いだろう。


架空の『未来』を、女神イースは見せてくれた。


ソルジェの子をルチアが産む、そんな夢だった……。




―――幸せな感情が湧いたが、それと同時に不安も生まれる。


ルチアはよく知っているからだよ、『狭間』を産んだ者たちの悲劇を。


ルチアの子供は、あらゆる者たちから憎まれ罵られていた。


石を投げつけられて、友だちも作れないその子は母であるルチアに泣きついた……。




「どうして、私なんて産んだの!?いじめられるだけなのに!!分かっていたでしょ!!ひどい、ひどい!!どうして、こんな世界に……いじめられるためだけに、産むなんて!!お母さんは、あまりに身勝手だよ!!」




―――母親になっていたルチアは、娘の叫びに心をズタズタに引き裂かれる。


幻だと思いたい、こんなものは呪いが見せるまやかしに過ぎないものだと。


理性はそれを望んでいたけど、心をコントロールできないんだ。


娘に愛情を抱いでしまうし、泣きついてくる娘の悲しみに共感してしまう……。




―――知っている、『狭間』は世界にいじめられるものだ。


ビビアナと、ビビアナの両親を覚えている。


あの三人に南のエルフたちがした所業もね、遠ざけたんだ。


どこにも居場所なんてない、それなのに……。




「どうして、産んだの!?どうして、私をいじめるの!?いじめられるだけなのに、どうして!!」




―――言葉を紡げないんだよ、娘の絶望の対象は『世界のすべて』なんだから。


女神イースの見せた幻覚は、あまりにもリアルだったし。


ルチアの深層心理にあった不安を、炙り出しにしていたんだ。


現実の世界ならば周りに仲間がいるから、どうにか理想を信じられる……。




――でもね、たった一人でいるときに『世界のすべて』なんて背負わされたら。


異常なまでに強靭な精神力の持ち主でもなければ、耐えられないだろう。


ソルジェはやれるよ、『ゼルアガ』の権能で妹が焼け死ぬ光景を千回見せられても。


耐えられてしまうほどには、異常な強さを持っている……。




―――故国を滅ぼされて、家族を焼き殺されたなら。


それだけの衝撃に耐えた経験があれば、精神は神々の悪意にさえ耐えるのかもしれない。


ルチアには、そこまでの異常さはなかったんだよ。


弱いわけじゃない、むしろこれは正常な結果だった……。




「私を、産んでほしくなかった!!こんな世界に、何もないもん!!私を大嫌いな世界になんて、どうして……こんなところで、生きていかなくちゃならないの!!」




―――叫びながら泣く娘を、必死に抱きしめるんだ。


かつてこの世界にいくらでもいた、無力な『狭間』の母親たちと同じように。


ルチアも泣きながら、必死に歯を食いしばりながら耐えるんだ。


絶対に言いたくない、愛しい子供を産んだという事実を否定したくなんてない……。




「ねえ、お願いだよ!!女神イースさま!!私を、こんな世界から消してください!!もう、いじめられたくなんてないの!!」




―――死を望む自分の娘に、ルチアは絶望する。


これまでいた、数え切れない母親たちと同じように。


世界を変えられるほどではないけれど、愛を伝えようと必死に抱きしめた。


それでも女神イースは慈悲という名の残酷を使い、ルチアの腕のなかで消え去る……。




―――ルチアは叫んで、娘は微笑んでいた。


女神イースは、ルチアの壊れそうな叫びを聞きながら。


もちろんあわれんでいたよ、ヒトの限界に挑んで負けた彼女たちを。


千年使って観測した絶望の精度を、女神イースは一人のエルフに証明していた……。




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