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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百五十


―――神さまは、やはり圧倒的な神々しさを持っていた。


空中に浮かぶように君臨する姿だとか、光り輝くその姿。


赤い翼たちからは、威圧的な攻撃性があふれていたよ。


戦士たちの視線を女神イースは、独占してしまう……。




―――大きく腕を広げた姿に、母性じみたものも宿っていたからか。


敵意がどうにも和らいでしまうんだ、女神イースの掲げる『慈悲』を真に受けそうになる。


戦いでは相手を知り過ぎると、危険なときがあった。


洗練された戦士では問題も少ないけれど、若い戦士たちはとくに危険だ……。




―――女神イースと『カール・メアー』の、慈悲は我々にとって害悪なのだけど。


受容的な母性を、これほど見せつけられると若者たちは惑っていた。


『これは本当に邪悪な存在なのだろうか』、なんて迷ってしまう。


良くないことだが、しょうがないだろうね……。




―――『正義』と『正義』が、衝突し合うのが戦場なのだから。


ボクたちのそれに正当性があるように、相手にだってあるんだよ。


受け入れがたいロジックだけどね、この抱擁の果てに亜人種を滅ぼそうというのだ。


これは死の母性だよ、あわれな子供を安楽死させようという横暴な支配の残酷さだ……。




―――だからこそ、ガンダラは規範を示さなければならない。


傷ついて血を流す体で、消耗したハルバートを振り上げながら。


母性を発揮している聖なる女神に、荒ぶる暴力を叩き込むのさ。


女神イースにさせたくないからね、『圧倒的な権威による洗脳』を……。




ガギイイイイイイイイイイイイイイイイインンッッッ!!!




―――叩き込んだ斧の刃を、幾何学の紋章が防いでいた。


さすがはボクたちのガンダラだ、紋章の羅列のいくつかを粉砕してみせている。


女神の権威は、これで少しは傷ついたよ。


若い戦士たちには女神イースに従う必要がないのだと、この一撃で模範を示せた……。




「美しい言葉で飾ったとしても、私たち亜人種の滅亡など!!とても、受け入れられるものではありませんな!!それは、亜人種だけでなく!!我々と同じ価値観と『正義』のもとに集まった、すべての者たち共通の願いなのです!!」




―――理論武装になる、ガンダラの言葉は実にシンプルで正しいからね。


ボクたちの『正義』そのものだよ、ソルジェやガンダラの願い。


ボクやクラリスの願い、『自由同盟』と『ルファード軍』の願いでもある。


正しさで挑むべきだよ、このお節介が過ぎる女神さまにはね……。




「そ、そうよ!!あなたなんかに、殺されてたまるか!!」


「オレたちは、生きるんだ!!死んでたまるかよ!!」


「に、人間族も、亜人種の滅亡なんて望んじゃいない!!」


「少なくとも私は、そうだ!!みんな、『仲間』でいられる!!」




「『惑わせているな。ヒトの限界を、知るべきだぞ』」


「限界があるとすれば、それも神である貴方の方でしょう。『カール・メアー』の思想の化身でしかない貴方には、変革など起こせない。私たちは、違う。ヒトは、誰かと結びつくことで、これほど可能性を引き出せるのです」


「『結びつくことが許されない命も多い。ヒトは、ヒトとそれを完全に行えない。だからこそ、神がいるのだ。信仰のもとで、私に抱かれるがいい』」


「貴方の信者たちのあいだだけで、やってくれているのなら問題は少ないのですがな。ここにいる若者たちは、結びつくことで、新しい価値を見つけだした。邪魔をするべきではない」




「『笑わせてくれる。巨人族の男よ。お前は、どこまで信じられるのか?このような例外が、どれだけ限定的なのか、分からぬと己に嘘をつくのか?』」


「知ったことではありません。私は、とっくの昔に……選んでいるのです!!」




―――傷だらけでも、ハルバートを振り回していく。


『ルファード軍』の軍師としての責任でもあるし、ソルジェの副官という責任もある。


でも、それらを除いた実に個人的な感情に根差した行動でもあるんだよ。


ガンダラはとっくの昔に、人種の壁を越えて生きる道を選び取っているんだから……。




―――赤くかがやく紋章の羅列が作る、強烈な守りの連なり。


ガンダラは、それを打ち崩すことに夢中になった。


羅列どもは羽ばたきに連動して、まるで大波のように周囲へと放たれる。


若い戦士たちは、この赤い衝撃に揺さぶられて近づけない……。




―――ガンダラだけが、踏みとどまりながら攻めまで行えた。


あらゆる攻撃にはリズムがあるし、女神イースの動きはとくにそうだ。


音楽的なのさ、聖なる歌声で組み上がった神さまだからかもしれない。


ヒトでは抗いにくいまでの破壊力であっても、このリズムを読めば対策できた……。




「ち、近づけねえっ!?」


「観察、するのよ。ガンダラさんを、見て!!真似をしましょう!!」


「ま、真似をするって……カンタンに言うなよ、ガンダラ先輩は、『パンジャール猟兵団』の猟兵なんだぞ!?」


「それでも、コツがある……コツがあるから、あんな力にも耐えているんだっ」




―――若者たちは未熟だよ、だからこその強さもある。


完成された者たちよりも、より強くなりたいという願いが強いんだ。


そういうモチベーションに、分かりやすいお手本があれば成長を促すものだよ。


女神の術とたった一人で競り合えているガンダラは、彼らにとって最高の手本だった……。




―――それに、今の彼らは孤独じゃないのも強みだ。


ガンダラはコツを叫んだりはしない、その余裕なんてないからね。


『繭』から出て来てしまった女神イースは、さっきよりも数段強いから。


だからこそ、ルチアもギムリも考えなくちゃならない……。




―――考えても、盗賊稼業だけをして来た者たちでは限界があっただろう。


それでもね、彼らは孤独じゃない。


追い詰められているからこそ、素直にもなれる。


若者はプライドと心中するよりも、成長の可能性を選ぶものだった……。




「誰でもいい!!知恵を、貸して!!」


「そうだ!!知恵を出し合うんだ!!巨人族も、エルフも、ドワーフもケットシーも……人間族もだ!!そうじゃねえと、勝てねえんだ!!」




―――ガンダラの壮絶な戦いを見つめながら、若者たちはアイデアを求め合う。


良い行いだよ、天才がいなくても皆で考え合えば発想力も高まるものさ。


誰かの力を借りるという選択は、素晴らしい。


自分じゃない誰かには、自分では思いつけない考えもたくさん持っているのだから……。




「お、音……っ。音楽っぽい!!あの女神は、何だか、そんなカンジなんだ!!」




―――それは、音楽の素養のある人間族の若者の叫びだった。


戦士として参加してはいるが、戦闘の腕前そのものは知れている。


しかし、豊かな教養を持っていたよ。


彼は『ツェベナ』でオペラを見たこともある、金持ちの息子だ……。




「そ、そういや。聖歌も……イース教の、聖歌を……歌っていやがったよな!?」


「い、いい歌声だった。すごく……いや、敵だけど!!」


「敵でも、褒めたっていいだろ。そうだ……でも、音楽……」


「……一定なんだ。あの女神は、まるで……『ツェベナ』の指揮者みたいに、拍を取っている気がするよ!!」




―――武術はリズミカルなものでもあるからね、若者の主張を強者たちが理解する。


知性で把握したわけじゃないが、経験に即した理解力だった。


女神イースの動きに宿る、『型』のリズムを見つけられたんだ。


戦士たちは自信を深め、ルチアが叫ぶ……。




「あの女神野郎の動きを、読むんだ!!力の強弱……リズムを盗んで、援護をするんだ!!」




―――天性の感覚の世界であり、ルチアは確かにその分野で優れていた。


荒れ狂う赤い衝撃の波を、しゃがんで回避した直後。


矢を放ち、女神イースの顔に向けて撃てた。


新たな衝撃波によって、直前で矢はへし曲げられてしまったけれど……。




「お、惜しかったぜ!!」


「やれる……やれるんだ!!猟兵じゃなくても、やれることはあるわ!!」




―――勇気づけられた若者たちは、もう委縮していなかった。


女神イースへの挑戦に対して、集中を組み上げていく。


行動は人心を制するものだ、無言で模範を示したガンダラも。


ルチアの放った、会心の矢もね……。




「『可能性。可能性。つまらない誤差だ。惑わせる者に、罰を与えねば』」




―――ルチアは、正しい。


だからこそ、にらまれてしまう。


女神イースは、ルチアから見せしめにすることを選んでいた。


慈悲を込めた一瞬で命を奪うための、羽根の弾丸を放つ……。




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