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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百四十九


―――ルチアの判断に、ガンダラは同意する。


二人はどちらともが、『攻撃』的な戦術を得意とする人々だからね。


馬が合ってしまうし、『オルテガ』に迫る帝国軍についても考えていた。


勝負所が早い方がいいというのは、とても合理的な考えではある……。




―――ガンダラが六枚の翼が作り上げる、屈強な守りの結界へと踏み込んだ。


自分だけに集中させるため、あえて間合いへと侵入するんだよ。


女神イースがくるくると、『繭』の奥で動いた。


翼がこれまで以上に立体的かつ複数の角度で、ガンダラへと襲い掛かってくる……。




―――ハルバートと共に踊り、防ぎ続ける。


いや、それ以上に攻め込んでいた。


『繭』ごと女神イースの胴体を、裂いていく。


その代償として、ガンダラも翼の先端で切られていたよ……。




―――致命的な範囲ではない、巨人族の戦士ならではの戦術だ。


肉を切らせて骨を断つ、そういう痛ましくて欠陥の多い選択さ。


傷ついて血まみれになったとしても、前に前に。


かつて子供のころ命令により強いられた戦術を、今は『仲間』のために選ぶ……。




―――痛いさ、巨人族の体は大きいから少しばかりの傷や衝撃に耐えてしまうけれど。


もちろんとんでもない激痛であり、傷を与えられた体からは鮮血が吹き上がる。


自分の限界以上の運動だからね、心臓は激しく鼓動して汗が全身から浮かんだ。


すべてを提供し尽くすような、血まみれの突撃だったよ……。




―――傷つきながらもハルバートを放ち、『繭』を切り裂きながら女神も傷つけた。


斬られた『繭』の黄金色の繊維が、秋の小麦畑みたいに揺れる。


甘い香りがした、大量の花から抽出された『カール・メアー』の聖なる花油の香り。


血のにおいも混じる、ガンダラのそれと女神のそれが……。




―――裂かれた黄金色の繊維のヴェールの向こう側に、美しい女の顔を見る。


こちらを見つめているのは黒い髪と、黒い双眸だ。


ガンダラには既視感があったよ、その顔はボクたちの『仲間』と似ていたから。


『メルカ』の人々と、とくにルクレツィア・クライスに似ている……。




―――ほがらかな彼女とは異なり、女神イースの笑顔はより神秘的な冷酷さがあった。


『メルカ』の人々は、とてもマジメでね。


あくまでも誰かに仕えるべき立場を感じさせるが、女神イースはより支配的だ。


ガンダラは迷うことなく、女神イースにハルバートを叩き込む……。




―――翼ではなく、腕が動いたよ。


幾何学的な光が、女神イースの右の手のひらに浮かび上がっていた。


それは障壁となって、ガンダラの全力の斬撃さえも受け止めてしまう。


一瞬で、ハルバートの刃が大きく欠けていたんだ……。




「やりますな。女神イース。しかし……」




―――戦術は成っていた、弓に覚えのある戦士たち全員が一斉射を放つ。


すべての包囲からの射撃が、『繭』を貫いて女神に降り注いだ。


翼を動かして守りを組み上げようとしても、ムダだったよ。


ハルバートの強打を受け止めてしまっていたせいで、衝撃が彼女から運動性を奪った……。




―――次々と翼に矢が突き刺さっていき、接近戦に覚えのある戦士たちが突撃した。


人間族の戦士たちは『盾』となることを選び、鋼を構えながら『仲間』を守る。


傷つくことも、果ては死ぬことも恐れちゃいない。


『攻撃』がもたらす一体感は、ガンダラのはげしい勇姿は若者たちから恐怖を消した……。




―――『繭』に槍が突き刺さり、剣が『繭』を裂きにかかる。


翼に鋼が衝突し、血しぶきが爆ぜたんだ。


女神イースは明らかに傷ついていて、突撃を果たした戦士たちは手応えに興奮する。


体力を燃やし尽くすような勢いで暴れ、鋼の乱打を浴びせていたよ……。




―――黄金色の『繭』が完全に崩されて、その内側にいる神々しい姿があらわになる。


光る翼を背中から生やした、美しい黒髪黒目の女の体がね。


それは一糸まとうこともなく、あちこちを傷つけられて血で赤く染まっていた。


不思議な存在であり、どうにも神秘的ではあったが……。




「チャンスだわ!!そいつを、仕留めて!!」




―――群がる戦士たちは、女神イースにさらなる攻撃を仕掛けようとした。


相手が神さまであったとしても、殺せることは昨夜に証明されたばかり。


『神殺し』の名誉に惹かれたかのように、戦士たち全員が強打を放つ。


翼が崩れて、ガンダラのハルバートが女神の胴体に命中したんだ……。




―――女神イースは、その状況に陥ってなお。


冷静な支配者の顔を保ったまま、ガンダラを見つめていた。


それは敗者が見せる表情とは、あまりにも違っている。


彼女は、あわれんでいたのさ……。




―――人種の壁を越えて、融け合うように雪崩れ込んできた若者たちを。


こんなものはひとときの迷いに過ぎないのだと、信じ切っていた。


血に染まった六枚の翼が、さらに赤さを増していく。


傷が深まったわけではなく、女神がその形態を選んだ……。




―――より攻撃的な力を振るうに相応しい形態へと、彼女は至る。


ガンダラは「下がれ!!」と叫び、若い戦士たちもそれに従った。


本能に訴えかけるような気配が、その大きな羽ばたきを始めた赤い翼にはあったからね。


赤い衝撃の波が、うなりとなって包囲する全員を襲う……。




―――若者たちは、この衝撃波に軽々と吹き飛ばされてしまった。


竜巻でも浴びたかのような、あるいは暴走する馬車にでもはねられたような力だからね。


あまりにも強さがある突風の暴力に、ガンダラ以外が立ち続けられなかった。


女神イースは赤くなった翼を羽ばたかせ、ガンダラの目前に浮遊する……。




―――その羽ばたきは優雅を極め、物理学に反していた。


ゼファーでさえこんな動きで飛べるものか、これは異常な現象だ。


魔力でさえない何か、感じ取ることが敵わない神々の権能である。


浮かぶ女神イースを飾るように、周囲の空間に幾何学の紋章が走るように描かれた……。




「『愚かな、藻掻きだ。勝てるなどと、考えていたか?……そんな結末は、ありえない。お前たちは滅びるのだ。ただ一つだ。ただ一つの人種だけで、この大陸は運営される。それが、悲しくおぞましい争いを、最も減らす道に他ならない……それが、私からの最大の慈悲だ。抱きしめてやるぞ、選ばれずに去るべき命たちよ。抱きしめてやるぞ、選ばれた種族たちよ。どちらも、抱きしめてやろう。すべて愛しい私の子供たちである』」




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