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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百四十四


―――力比べになったよ、人間族と巨人族のね。

体重の差があるし、身長でも負けている。

大きさというのは力であり、大はいつでも小に勝るものだ。

それでもソルジェは絶えて、ガンダラと張り合ってみせる……。




―――プライドが高いと、こういうときは心強いものだよ。

ストラウス家は竜騎士姫の時代から例外の一人なく、とんでもない負けず嫌いだ。

負けることを根本的に許せない人々だからこそ、今も途方もない底力を見せつける。

ガルフは意地悪だから、教えてやらなかったのさ……。




―――若いソルジェはもちろん今より馬鹿だよ、経験不足で知識不足な若造だ。

だからガルフ・コルテスに、騙されてしまう。

師匠でもある彼を、少しばかり誤解していたのさ。

『意識が消えたのに生きているのは、ガルフが自分を助けたから』と認識していた……。




―――自分が『勝手に生き残っただけ』なのに、ソルジェはそれに気づけない。

悔しかったんだよ、一対一という騎士道的な流儀においては間違いなく敗北だ。

ガルフに助けられた自分が、許せない。

竜騎士ストラウス家のプライドが、負けず嫌いの意地が筋力を強めていた……。




―――粘るソルジェに、ガンダラは迷う。

どうしてこの男は、『魔銀の首枷』の呪文と唱えないのか。

近くでニヤニヤしながら見守るだけの老人も、どうして呪文を唱えない。

若いのはガンダラも同じで、プライド/傲慢さを持っていた……。




「まさか、私に勝てるとでも!!」

「思っているさ、当然なあ!!」




―――戦場の流儀ではない、一対一という概念。

しかし、それをガルフ・コルテスが軽んじ切れない理由がここにある。

戦闘は交流であり、この一対一という行いはまるで儀式のような神秘があった。

若い人間族の戦士が、とっくに完成された巨人族の肉体に競り合っている……。




―――成長させる効果もあるんだよ、濃密に競り合う一対一という儀式は。

問答無用の冷たい合理ではなくて、何とも感情的な衝突だよ。

ガルフの目論見は、このときも正しく機能してくれる。

期待に応えてソルジェを成長させていた、素晴らしい成果だった……。




―――竜騎士姫の血が咆哮し、ガンダラを後ずさりまでさせる。

間合いを作ると竜太刀を振り回して、追撃を仕掛けていった。

ガンダラは逃げに徹する状態となるが、その視線の先には打ち捨てられた鋼がある。

雨に打たれて錆がうっすらと浮いてはいるものの、まだ使えるはずだ……。




「そいつを、拾え!!」

「なめてくれるな、赤毛!!」




―――若さが出ていたよ、ソルジェはガンダラが素手であることを許せなくなった。

猟兵としては失格とも言えるよね、それでもガルフは喜んでいたよ。

合理的な教えがすべてではないのさ、戦場というものはカオスだから。

ハルバートを拾い上げたガンダラは、竜太刀を超えるリーチを獲得する……。




―――筋肉の山脈が操る長い腕に、長柄のハルバート。

ガンダラにとって、最強の『形態』と呼ぶべきものだった。

ハルバートを振り回し、荒ぶる風を起こす。

技巧と経験に満ちた威風堂々とした姿に、猟兵の師弟は喜びを隠せない……。




「ハハハ!さすがは、巨人族だぜ!!」

「赤毛、笑っていられるのも今のうちだ!!私は、人間族が嫌いなんだぞ!!」

「知ってるよ!!言葉でも態度でも、語っている!!オレが嫌いなら、戦え!!」

「命令されるのは、大嫌いなんだ!!」




―――人類の頂点に君臨している、十数人の戦士たち。

そのなかの二人が、そのとき全力と全霊を込めてぶつかり合う。

竜太刀とハルバートが衝突し、互いの全身に破壊力を伝え合った。

鋼が鳴り響き、繰り返される斬撃の衝突は白獅子ガルフを笑顔にさせる……。




「とんでもねえなあ、こりゃ!!速さも、力も!!技巧の極まり方も、それらを操る魂までもか!!ああ、まったく!!オレを満足させてくれる連中だぜ!!」




―――嬉しくてしょうがない、最強の猟兵を作りたい男は。

ついに自分の視界のなかに、それらのうちの二人を捕捉している。

ガンダラはバケモノじみた強さだし、ソルジェはそれに匹敵していて若さを残す。

成長の余地があるのに、戦士としては完成を迎えていたガンダラと互角なんだよ……。




―――『未来』を想像して、ガルフは大声で笑っていた。

まるで気が狂ったように、大爆笑している。

この二人が、『パンジャール猟兵団』を完成させると理解していたからさ。

実際、この老人の思った通りになりはする……。




―――しかし、それはこの対決からもう少し時間が必要だ。

プライドのせいでアタマに血がのぼった若者たちは、ただただ互いを攻めている。

互いの体のあちこちに、傷が刻まれ血が吹き上がった。

止まることはない、もちろん怯むこともない……。




―――竜騎士姫の血と、ストラウス家の伝統が命じている。

勇敢であれ、最強であれ。

巨人族の知性が、逃亡奴隷に告げている。

何もかも残されていない立場でも、大嫌いな人間族に実力で負けてたまるものか……。




「負けねえ!!」

「負けるか!!」




―――冷静で沈着で、賢くて合理的。

感情を抑えるのが好きな、ガンダラという男。

それがここまで感情を爆発させるのは、初めてだったよ。

後にも先にも、ソルジェとの本気のぶつかり合いだけだろう……。




―――この一対一という、おかしな儀式はガンダラに大きな手触りを与えていた。

何もないはずの自分、『秩序派』の抱えたあきらめから逃げ出した彼は孤独だ。

世界に対して、ただの一人で反逆をしている男。

虚しいはずのプライドの空回りだが、この戦いには充実があったよ……。




―――必死で、自分を『表現』しているからさ。

行き場のない感情を、誰も受け止めてくれない絶望を。

目の前にいる赤毛は、強大な壁となって受け止めている。

ぶつかり合いたい、孤独な魂は衝突することに充足を求めるものさ……。




だから、ヒトはときに拳を振り上げる。

これは、ガンダラという男の絶望を、ソルジェが受け止めた交流の瞬間でもあった。




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