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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百四十二


―――幼いころから、戦場の奴隷だったからね。


ファリス帝国が王国だった時代から、ガンダラは戦場にいた。


それよりも前は、いくつか別の国にいたよ。


人間族の国ばかりにね、例外のひとつもなく……。




―――最前線に立たされて、逆らえば呪いを込めた言葉一つで首の骨を絞められる。


窒息するのは少年時代のガンダラには、あまりにも恐ろしい罰だった。


人間族の『飼い主』たちは残酷だったり、あるいは無関心が過ぎたり。


戦争用の巨人族の奴隷は、『飼い主』たちの気分次第でも罰を与えられる……。




―――とくに戦闘が起きていないときは、酷いものだよ。


戦場近くでは『飼い主』たちは緊張と焦りと苛立ちが多く、奴隷の子供たちに厳しい。


性悪な教師のように、ヒトの動きの一つ一つを観察し尽くすのさ。


一挙手一投足に、難癖をつけてもいい場所を探していた……。




―――罪を無理やり見つけ出して、罰を与えるのを好む者もいる。


戦場の近くに蔓延しやすい恐怖という感情は、怒りをも燃え上がらせるものだよ。


怖がっていると怒りやすくなるもので、『飼い主』たちはガンダラたち子供を怒鳴った。


殴って踏みつけて、反抗的な態度をするガンダラあたりはボコボコに殴る……。




―――血まみれにされた子供のころのガンダラは、それでもにらみつけたから。


『飼い主』たちは子供の見せた反抗心を鼻で笑い、どこか満足もする。


楽しそうに首絞めの呪文を唱えて、レッドアウトが起きた。


赤く染まる視界にガンダラは怯える、手足をばたつかせて首から泡を吹く……。




―――ヒトの多くは残酷だから、罰を与えられる『特権』に満足を覚えるよ。


良かれ悪かれ、それは一つの真実だからね。


恐怖を克服するために、他人に八つ当たりの罰を押し付ける。


苦しむ子供を見るほどに、『飼い主』たちは恍惚と安心を得たものだ……。




―――よくあるハナシで、たぶん千年前も千年後もありふれているだろう。


戦場の近くの、無意味な緊張感ほどヒトを腐らせるものはない。


赤く染まった視界が、どんどん暗くなっていく瞬間をガンダラは恐れた。


それは死の色で、どんなに抗っても許しを与えられない限り死の罰は下される……。




―――人間族が大嫌いだった、そうなったとしても何の不思議もないよ。


自分のことをいじめるのが大好きな、残酷なクズどもに命を握られるなんて。


多感で繊細な子供時代において、深刻な人格形成の力学となるだろう。


大嫌いだった、人間族なんてね……。




―――そんなガンダラだけど、死ななかったのは幸運であり頑丈だからだ。


同じような目に遭った子供たちの、少なくない数が首を折られたり窒息死したり。


そんな子供たちを穴に埋めるのは、生き残っていたガンダラの役目だったよ。


人間族の『飼い主』たちが、巨人族の子供の死体を埋めるために土なんて掘らないよ……。




―――冬には硬い土を掘っていき、夏には少しはやわらかい土を掘れた。


苦悶の顔で憤死した子供たちは、誰もが実際の年齢とはかけ離れて見える。


絶望と痛みと苦しみに、子供たちのやわらかな表情は深いしわを刻んだ。


やせた体は傷だらけ、あちこちアザだらけでもある……。




―――戦闘訓練は過酷なものだったから、いつだって子供たちはみじめにボロボロだった。


大きな穴を掘り、そこから出ると獣どもがいる。


カラスや狼や野犬、ひどい時には腹を空かせた戦場近くの民間人がいたよ。


もちろん、巨人族の子供たちの死体を食料にして食べるためだ……。




―――戦場というのは、過酷だからね。


焦土戦術で畑を焼き払うときもあれば、食糧庫を燃やされるときもある。


軍隊に優先されて食料を送られることもあるし、軍隊に食料を略奪されることもあった。


真の飢餓は切ないものだよ、ヒトにヒトの肉だって口にさせる……。




―――ヒトも獣も追い払い、埋めることを優先した。


食わせたくなかったよ、もしも自分が死んでいたら。


そうなりたくなんて、絶対にないのだからね……。


埋めてやる、雨の日には空を見上げた……。




―――感情を表に出すことは、損だとガンダラは知っている。


戦場用の奴隷は、とくにそうだから。


それに涙を流すのも大嫌いだった、雨に打たれて誤魔化してしまいたい。


友人たちや仲が悪かった仲間たちに、土をゆっくりとかぶせてテントに戻る……。




―――戦場は地獄だったけれど、戦闘は好きだった。


『飼い主』たちが戦闘用の奴隷を、無意味に殺したりしなくなるからだ。


それは気楽なものだと、幼いガンダラは理解する。


首を絞められてありもしない罪の罰で、殺されるよりはマシじゃないか……。




―――ガンダラが最も嫌いな死に方は、『魔銀の首枷』による絞殺だったからね。


敵よりも『飼い主』たちの方が、憎くて嫌いで殺してやりたい対象だった。


戦闘は気楽なものだよ、これでも仲間たちの大勢が死んでいくけれど。


巨人族の子供は、他種族よりも早く『必要な体格』に達するからね……。




―――9才でも殺し合いの最前線に、ガンダラは出されていたよ。


かの有名な『巨人族最強の男/ガンジス』の実弟だ、『飼い主』たちも期待する。


期待に応えられるほどに、ガンダラは強かった。


子供は体力回復の面でも優れているから、行軍でも主役にされる……。




―――子供を戦力として軍隊に同行させたら、荷物を運ばされる役目になるものさ。


戦う力が弱いからでもあるけれど、大人より疲労を回復させやすいからね。


荷運びの馬代わりにして消費するわけだ、つまり巨人族の子供たちは最高の道具だった。


戦いにも行軍にも、幼いころからガンダラは駆り出されている……。




―――人間族が、大嫌いな亜人種。


その典型的な一人だったよ、不思議なことだとは思えないプロフィールだろう。


正当ささえ、そこにはあるはずだ。


ボクはそう信じるよ、ガンダラが人間族のソルジェを信じられたのは奇跡さ……。




―――今のガンダラは、亜人種のために命をかけた人間族に感動している。


でも、ボクに言わせれば奇跡の体現者はガンダラその人もだ。


あんな目に遭わされても、ソルジェを信じられたなんてね。


うちの姉と義兄の関係とは違う、友情と主従の関係だ……。




「奇跡ですな。本当に、今の私は……強いでしょうよ」




―――感情を出すのを嫌う男が、静かに燃える微笑を浮かべた。


血に走るのは歓喜の力で、筋肉を満たすのは哲学の保証。


人種の壁を越えるのは、何度目のことなのだろうか。


数少ないそれを数えてはいないけれど、最初の日は覚えている……。




―――魔銀の首枷をつけたまま、見張りの帝国人を殴り殺して。


そのまま野に向けて逃亡したあとで、ソルジェとガンダラと出会った。


猟兵にスカウトするために、ガンダラを探していた二人にね。


殺し合いになったよ、追手だと勘違いしたから襲い掛かった……。




「善き戦いでしたな、本当に。あの日から、私の世界は少しずつ変わっている。女神イース、あなたも出会うべきでしたな。不思議な赤毛の青年に」




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