第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百三十八
―――ギムリのむき出しの主張は、とても正しい。
生命力のある野心だったよ、自分のために生きることは何よりも正しい。
『彼女』もそうだしね、聖なる任務の生贄になるのが『夢』だったはずだ。
願望が見せた幻覚なのか真実なのか、『彼女』は啓示を受けたのだからね……。
―――赤い竜に乗るまやかしの希望を否定して、真なる信仰を打ち建てる。
いや、それよりもずっと昔からだった。
リュドミナに出会ったときからか、聖なる生贄として『未来』のいしずえとなる。
『母親』として、新しく慈悲深い世界を出産したくなったのかな……。
―――ボクは男だから、生命力を帯びた母性はないかもしれない。
『彼女』も男として生まれたけれど、それはもはや過去のことだろう。
奪われて追い詰められて拒絶され、世界の残酷さを知り尽くした『彼女』の選択。
敵として挑むだけの価値はあるよ、ギムリは感情を爆発させる……。
「多少は、痛い目に遭わせちまうが!!悪く思うなよ、『オルテガ』人たち!!殺すつもりはねえが、どうにも力が入っちまう!!」
「『やはり、こうなるだろう!!分かり合えないんだ!!』」
「そうだな!!ああ、そうだから!!戦いって起きる!!アンタらの正しさが、邪魔だ!!オレたちの正しさには!!」
「『未来永劫、分かり合えない戦いで傷つくのが、望みなのか!!これだから、男は嫌いだ!!』」
「男も女もねえだろ!?いや、もしかしたら、あるのかもしれねえけど!!」
「『あるさ。おぞましい性質だ!!お前も、それの一員だから!!自覚はあるんじゃないのか!?』」
「痛いトコを突いてきやがるぜ!!アンタらは、賢いのかも!!」
「『想像してみろよ!!人種の違いが、他と違っているコトが、どれだけの痛みなのか!!お前の記憶に問いかけろ!!『人買い』どもは、巨人族をよく奴隷にしただろうに!!』」
「ああ!!うちの、親族もな!!」
「『その歴史は、繰り返されるぞ!!』」
「ならねえよ!!『人買い』ジーの一族は、もうやらねえんだとよ!!」
「『甘い、認識だ!!女神が不在のままなら、世界は、きっと変わらない!!繰り返されるんだ!!』」
「ジーの一族の、お嬢さまは『狭間』だったんだぜ!!それを、公言しちまっているなら、変わるに決まってる!!他の『人買い』は知らねえが、『ルファード』のジーの一族は、もう『人買い』なんて、出来っこないだろ!!」
「『たった、一つの、イレギュラーごときで!!』」
「一つでも、一歩だろ!!ちいさいことかもしれねえけど、変えたぜ!!オレたちは、世界を、ちょっとは変えてみせたんだ!!」
「『これが、不愉快だっ!!『狭間』が見せる、可能性だと!?まやかしだ……人間族も、亜人種も……おぞましがって、嫌うだろう!!まるで、私にしたように!!』」
―――言ってしまえば、『似た者』だよ。
去勢されて犯された男の子も、『狭間』もね。
罪はないけど、この大陸では異端あつかいだ。
世界に拒絶される者の痛みは、よく分かっている……。
「『変えられるはずがない!!ヒトってのは、そんな上等な動物じゃないだろ!!『狭間』だぞ!!それは、場所や空間に使うべき言葉じゃないか!!『ヒトあつかいもしていない呼び方』なんだ!!そんなものが、見せた……希望?……はかなく、壊れやすいっ。ただの罪作りなまやかしじゃないか!!』」
―――思慮深さを持つギムリには、突き刺さる叫びだったね。
『狭間』、『狭間』。
差別ってものは、『ヒトあつかいしてあげない』のがスタートだよ。
残酷なのは当たり前だ、『ヒトあつかいしていない』んだから……。
―――千年前も、千年後も。
世界には差別はあるだろう、間違いなくね。
だって、これはヒトの本能だからだ。
群れをつくるヒトの本能、だから完全に否定するのが難しいのさ……。
―――群れ成すヒトは、違いにこだわるものだ。
違いがあるから、それを指摘して責め立てられる。
差別というのは行動で、その結果として自己満足を得られもする。
社会規範そのものを書き換えるなんていう、政治的な力も持っているよ……。
「『違いを、消すんだ。そうすれば、きっと……ヒトもやさしくなれる。女神イースに統治してもらえるのなら……間違いはない。大多数の人種だけになれば、いいじゃないか。お前たちも、苦しむだけだろ。疎まれ、迫害され、殺される。生きているのが、苦痛のはずだ。この大陸が、お前ら亜人種に、やさしいはずがないのだから……』」
―――賢さは、厄介だね。
敵を理解し過ぎることは、危険なときもあるよ。
ギムリには『彼女』の主張が、少しばかり分かり過ぎてしまっていた。
それは、ギムリだけじゃない……。
―――無数の『彼女』たちが、それぞれの戦士たちに『説教』するものだから。
多くの戦士たちに、十分な戸惑いを与えていたよ。
『カール・メアー』の掲げる慈悲が、亜人種たちに響いてしまうなんてね。
亜人種たちにとっても、意外な事実だったろう……。
―――『カール・メアー』は、恐ろしい殺意と悪意の化身という認識だったのに。
亜人種や『狭間』を殺したがる、狂気の宗派だと。
自分たちの『天敵』みたいな存在に、共感めいたものを覚えるなんて。
主張した理論が届いたとは、ボクは思っちゃいない……。
―――『彼女/レナス・アップル』の必死で、ひたむきな言葉だからさ。
『やさしい』と思うよ、亜人種の絶滅さえも望んでいたとしても。
その大量死さえも、やさしさに由来しているんだ。
じっと見つめてくる、たくさんの『彼女』の目……。
―――ギムリは、捕縛するための手を止めてしまう。
一秒、考えた。
それで十分だったよ、『彼女』を拒絶するためにはね。
生贄となり燃え尽きようとする命に、『夢』を持つ命は反発するものだ……。
「それでも!!死にたくねえッッッ!!!『未来』が欲しい!!!だから、お前らに、オレたちは勝つんだッッッ!!!」




