第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百三十七
「『女神イースを傷つける者は、許さない!!許していいはずがない!!』」
「『そうだ!!そうよ!!ヒトに許されるのは、この祝福を受け入れるだけ!!』」
「『排除すればいい!!倒せばいい!!』」
「『大いなる救いを、拒絶しようとする者は許してはならないのだ!!』」
「あいつら、何で男のくせに女の声でしゃべっているのかしらね」
―――『彼女』の生い立ちを知れば、ルチアは口をつぐんだかもしれない。
複雑な人生を持つ者は、周りに沈黙を強いてくるものさ。
扱いづらさは確かにあって、ヒトはそういう者に厳しいからね。
誰もが見捨てた、『かわいそうな子』だよ……。
―――聖なる使命は、『彼女』にとって最高の救いだった。
去勢を強いられ、自尊心なんて奪い尽くされた。
それでも女神イースは、『彼女』を選んでくれる。
世界の誰もが罪なき『彼女』を見捨てたのに、ちゃんと慈悲深く手を差し伸べた……。
「『殺せ!!殺せ!!排除しろ!!大いなる平和のために……世界から、疎外を失くして、女神の慈悲深い六枚の翼で包み込むために!!』」
「大げさなヤツだわ。それに見合った力があるというの?……試してみなさいな」
―――『彼女』の声に命じられて、男たちが走る。
全員が突撃してくれたなら、ルチアとガンダラは大喜びしただろうさ。
でも、そうはならない。
半分ほどの数しか、『釣れなかった』んだよ……。
「まあ、妥当な数だわ。みんな、退くわよ!!あの『女声の男ども』を、上手く引き付けて分散させるんだ!!」
「イエス・サー!!」
「ルチアの指揮に、従おう!!」
「薄めてやるわ、戦術って……すごく有効なんだから」
―――理解が及ばない『謎の存在』に対しても、戦術は合理的に作用する。
ルチアたちを追いかけた、いいや『追いかけてしまった』だね。
『彼女』らの失敗だよ、エルフの若者たちは寝不足でも素早い。
ほんの少しの『蟲』しか有していない人間族の男たちが、追いつけるはずもない……。
「『遅さ』も使う!!あいつらの並びを、ガタガタにしてやるんだ!!そのあとは、ギムリたちに任せればいい!!」
「……ヒット・アンド・アウェイは、オレたちの十八番だ!!『風の旅団』と連携する!!市民たちを、拉致していくぜ!!……いや、確保するんだ!!」
―――巨人族の『盗賊』だったからね、多少は略奪戦術の心得がある。
ヒトを拉致するのも技巧の一つだよ、物騒な響きではあるけれどね。
『ルファード軍』に所属している今ならば、とても真っ当な軍事行動だった。
戦場ってね、やっぱり可愛らしさは足りないものだよ……。
―――ルチアたちに誘い出された『女の声の男たち』に、ギムリたちが飛び掛かる。
体格差は圧倒的だったよ、人間族と巨人族なんだからね。
取っ組み合いになれば、絶対に勝てるはずもない。
ギムリたちはタックルを浴びせ、夏の朝陽に焼ける石畳に打ち倒していく……。
「暴れやがるがっ。バケモノじみているって程じゃないな!!」
「女子供と同じだ。『蟲』が薄いのか、少ないのか……っ」
「縛れっ。口には気をつけろ!!か、噛みつこうとしてきやがる!!」
「『おのれ!!触るな、男ども!!触れるな、私は……私は、『カール・メアー』の巫女戦士なんだっ!!』」
―――悲しい記憶ばかりだから、名誉にかがやく事実は誇らしい。
男の指が世界でいちばん嫌いな『彼女』は、巫女戦士と名乗ったんだ。
『彼女』自身が選んだ、生きざまというものだよ。
それでいい、ボクたちは敵の主張を聞きながら粉砕する者たちだ……。
―――戦士なんて、それでいいんだよ。
生きざまを、殺し合いを通じて表現するのが宿命だ。
命懸けの叫びは、ギムリにも通じている。
腕力でねじ伏せながらも、紳士的な扱いを心掛けてしまうほどにはね……。
「悪さは、しない!!そうじゃない!!殺しもしない、お前は敵かもしれないが、こいつらは仲間なんだ!!」
「『巨人族と、人間族が……仲間だと!?笑わせる!!』」
「ああ。たしかにな。まあ、そうだ。ちょっと前まで、笑い話だった。でも、今は違うぜ。笑えない。笑う理由もない」
「『変わったなどと、そんな言葉は空虚なたわごとだ!!世の中は、変わらない!!千年のあいだ変わらない!!ヒトはな、とても、おぞましくて恐ろしい生き物だ!!『違う』生き物を、認める日なんて来ないっ!!』」
「そうかよ!!分からねえなんて、つまらん言葉は使わないぞ!!分かりはするが、もうそれを信じなくなっただけだな!!」
「『すぐに変わる。それが、心だ。お前も、明日には……また変わるんだ!!』」
「人間族を敵だと?そうかもな。人間族の敵もいる。でも、それだけっていう単純なアタマには戻れん。何事にも、例外はある。それを学んだ!」
「『例外なんて言葉に、こんなにおぞましい罪深さをっ。任せられはしない。任せられるのは、ヒトじゃない……ヒトには、許して、愛して、慈しむには限界がある。女神イースの抱擁だけが、いちばんやさしい。ヒトでは、私を受け入れはしなかったのに!!』」
「神さまにしか、救えねえヤツもいるんだろう。世の中は、完璧じゃない。でも、それでも。神さまにばかり、頼ってられるか」
「『信仰に頼れ、亜人種。もうすぐお前たちは消えるんだ。女神イースが消し去る。この世界から消えるとき……祈れよ。女神イースだけが、消え去るお前たちも抱きしめてくれるぞ』」
「消えねえよ。神さまにだって、勝つんだ。ガンダラ先輩が、そう言ってるんだ。オレは、信じるぜ」
「『愚かだ。受け入れろ。世界のための、生贄になるんだ……なれるんだぞ。未来永劫続くであろう孤独を、消し去るための……礎となる。それは、素晴らしい行いだ』」
「殺されるってのに、喜べるか。どんなツライことがあったのかまでは知らんが。お前は、やっぱり考え過ぎている。ちょっと、黙っていろ」
「『何をする―――』」
―――仲間の手を借りて、その口にロープを噛ませたよ。
『女の声の男たち』の一人が、全身を縛られた。
他の『女の声の男たち』の一人が、彼の代わりになる。
ギムリに話しかけていたよ、いや対面する多くの者たちと……。
「『亜人種たちよ、ムダな行いをするな』」
「『世界から人種の違いを消し去ろう。それこそが最も大きな救いなんだ』」
「『拒絶し合う無数の種族がひしめき合う大陸は、間違っているんだ』」
「『世界のために、これから生まれてくるすべての子供たちのために。一緒に死のう』」
「いやなこった!!死なねえよ、死にたくねえんだから!!そのために、戦ってるんだ!!オレはな、出世したい!!大きな責任を背負って、大勢を従える!!カッコいい偉大な男になりたいんだよ!!『夢』だ!!『夢』ってヤツが、オレにはある!!死んでたまるか!!」




