表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4281/5089

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百三十三


―――ビビアナは不安を強めていく、メダルドの顔が見えなくなっているからだ。


『繭』のなかで、『繊維』に成り果てたのかもしれない。


『カール・メアー』の巫女戦士の肉体と共に、女神イースを構成する部品に。


嫌だったが、どうすればいいのかなんて分かるはずもない……。




―――リュドミナは目を閉じてしまい、ビビアナから左眼を守っている。


抗う術は失われ、今ではもう祈るほかない。


無力に陥ることは、賢い彼女からすれば屈辱が過ぎる行いだったけれど。


どうすることもできない、今は本当に無力だった……。




―――レイチェルが一秒でも早く勝利することを、ただ祈るのみ。


リュドミナの腕が止まればいい、足が竦めばいい。


自分の意志が力となって、妨げを与えればいい。


そんな期待を裏切るように、リュドミナは善戦してしまうんだ……。




「信仰が、血が、喜んでいる!!この聖なる歓喜が、貴方たちにも伝わればいいのに!!」




―――冷静な詠唱長は消え去り、狂信者の笑みがそこにはあった。


すぐれた戦士は闘争の最中に笑うものだが、この表情は違う。


死や生贄となる定めを受け入れているからこその笑みは、戦士には作れない。


性的な恍惚にも似ていると、レイチェルは見抜いていたよ……。




―――命を作ろうとする、女の顔そのものだと。


獣じみていて、攻撃的になるものさ。


レイチェルにも覚えがあるからこそ、正確に見抜ける。


女神を『産もうとしている女たち』がいて、その出産は完了間近だ……。




―――理性はそれを拒むだろう、一連の流れを知らなければ当然だよ。


あまりにも荒唐無稽で、あまりにも意味不明だ。


正気である多くの者がこの考えにたどり着いても、自ら否定するだろう。


眉をひそめた困り顔をして、自分の考えをおぞましい狂気だと放棄して封印する……。




―――サーカス・アーティストは違う、芸術家という存在は真実を拒まない。


たとえどんなに恐ろしくて、おぞましい真実であったとしても。


感じ取った真実を、自ら捨てるような真似はしないんだ。


レイチェルは、受け入れている……。




「女神イースが、この世界に現れるのですね。貴方たちが、『出産』して」


「そう!!私たち『カール・メアー』の巫女戦士こそが、女神イースに最大の献身をするのよ!!そのために、私たちは世代を重ねた!!長い検証と考察と精進の時代を貫きながら、祈り続けた!!聖なる世界の到来を!!完璧な世界になるわ!!」


「それは『カール・メアー』にとっての理想に過ぎない。私は、ユーリのためにもそれを認めませんよ。女神だろうが、何だろうが……殺します」


「罰当たりな、異教徒ですね!!」




「『母親になろうとしているのなら』、よく分かるでしょう。自分以上に大切な存在のために、女は戦える。命も人生も、すべてを捧げ尽くして……どんな男よりも狂暴になれると!!」


「ええ、そうね!!たしかに、この感情は、そう呼ぶに相応しい!!最愛の者の命に、血を、肉を、魂を捧げる!!狂暴ではあるでしょう!!」


「命を紡ぐとは、どう猛な行いなのです!!とても原始的で、とても野蛮で、どこまでも狂暴になれる!!あの子を産んだときの痛みが、私に殺意を与えてくれる!!」


「貴方が、その母性を使うならば―――私だって!!私には、無数の同胞がいる!!子宮を使わずとも、この道を作り上げるために全てを捧げ尽くした、巫女たちの魂が!!」




―――『歌』属性、影に宿る死者たち力。


それを使えるのは、ソルジェとミアだけじゃない。


リュドミナも正真正銘、その大いなる未知の力の使い手だったよ。


怨念のような深みを帯びた、無数の巫女の魂が彼女を支える……。




―――息子のために、数段切れを増したレイチェルにさえも。


互角に競り合う狂暴さだったよ、戦輪に刻まれながらも止まらないんだ。


『カール・メアー』の霊魂たちは、女神イースのためにいたのは事実。


現存するあらゆる歴史のなかでも、この祈りは最古参の蓄積がある……。




「魂たちに、体を貸すわ!!先達の祈りを、伝えて叩き込んでやる!!聖なる戦士として、どこまでも捧げ抜いた私たちこそが……真なる母だわ!!」




―――『ギルガレア』の力の化身である『蟲』どもが、触媒になっているのかもね。


巫女の霊魂たちを呼び寄せて、リュドミナに宿らせていく。


『カール・メアー』武術の究極を、体現させた。


尼僧体術の最果ては、あまりにも獣じみた迫力だったよ……。




―――聖なる炎で、内側から燃やされながら大暴れする獣がいた。


レイチェルに壊されながらも、どう猛に進むのさ。


出産の痛みが与える歓喜に、これは似ていたのかも。


リュドミナは感じ取っている、『繭』のなかで『それ』が形成されていく感覚を……。




「喜びを歌いなさい!!かわいそうで哀れで、あまりにも穢されてしまったレナス・アップル!!貴方も母親になれるのよ!!男として生まれ、『人買い』に男を奪われ!!女にされても、子宮もない貴方こそが!!聖なる子守歌を捧げられるの……人種の境界の苦しみがない世界を、産み落とせるのよ!!貴方の痛みは、穢れは……ちゃんと報われるの!!」




―――リュドミナは、やさしいだろう。


『彼女』の苦しみに、これだけ大きな意味を与えてあげているんだから。


レナスの苦難は、聖なる陣痛だったらしい。


残酷な世界に嬲られ尽くした者を、聖母の道へと導いてみせたのさ……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ