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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百二十九


―――地下通路の入り口は、カニンガムに従順な部下により封鎖されていた。


魔術と火薬による爆破、命を捧げた対価の結果としてね。


その瓦礫を取り除くのには、少しばかり時間を必要としたし。


罠が待ち構えていそうな地下通路に、全員が突入することは無意味だ……。




―――カニンガムや『カール・メアー』の尼僧が、ここを使っている確証はない。


可能性だけがあったが、あくまでも状況証拠だよ。


『帝国軍のスパイ』と関わりがあるような切れ者が、素直な逃亡を選ぶだろうか?


あらゆる可能性に備えるために、ジャンは単独での探索を提案していた……。




―――ソルジェやレイチェルには、他の場所を探してもらうためだ。


『大魔王の騎士』として、実に正しい判断ではある。


この地下通路ごと爆破されたとしても、『狼男』の肉体ならば耐久するからね。


じつに紳士的というか騎士的な選択であり、戦術的にも適切なものだったよ……。




―――若者の成長速度は頼もしく、見ていて楽しさがあるものだ。


ジャンはこの戦いでも迷いを捨て去って、正しい行動を選んでくれている。


得体が知れないバケモノに変質しているカニンガムを、排除しにかかった。


どう考えても敵だからね、『狼男』の牙を突き立てるべき相手だよ……。




『がるるるるるるうううううううううううッッッ!!!』


「があああああああああああああああああッッッ!!!」




―――ジャンは大きくあごを開いて、牙を突き刺すような体当たりを放つ。


カニンガムは体を爆ぜさせながら、体内の奥深くから異形の腕を伸ばした。


加速した力たちが正面からぶつかり合い、『狼男』の怪力が圧倒する。


打ち負かして砕き、噛み潰してから引きちぎった……。




「……これが、猟兵ですか」




―――カニンガムを支配下においたおかげで、その視界も掌握したらしい。


リュドミナはジャンの強靭な力を目の当たりにし、驚愕する。


さまざまな達人を見て来た彼女からしても、『狼男』の筋力は規格外が過ぎたのさ。


もちろん、武術の達人らしく『粗さ』も見抜いていたけれどね……。




「単純な、あまりにも野性的な力。速いだけ、力が強いだけ……技巧は乏しい。それでいて、手が付けられないというわけですか」




―――駆け足になり、ジャンとカニンガムの闘争から離れていきながら分析も継続する。


詠唱長らしさがそこにあると言うべきだね、やはり未熟な武術を見ると反応した。


指導方法と弱点の指摘をしてやるのが、生真面目な聖職者の本能らしい。


だが、今の彼女が指導を与えるべきはカニンガムだ……。




「カニンガム、搦め手を狙いなさい。まっすぐな力勝負では、持ちません。這いずるように後退しながら、我が身を盾にする。消極的な戦術をすればいい」


「は、はい。わ、かり、ました!!」


『こ、こいつ。誰かと……話してるっ!?』


「その狼は、真っ直ぐ過ぎますから。それを、狙えばいい。肉を切らせて骨を切る。そういう戦術が、ここでは正しくなります」




―――賢い女性だよ、非の打ち所がないほどにはベストの指示だった。


カニンガムを死なせることも、容赦なく選べている。


軍人や戦士というよりも、宗教家らしいと言うべきか。


信仰のための供物はならば、それはある意味で『幸福な終わり方』なのだろう……。




『ず、ずるい戦い方を!!時間だけを、稼ぐ気ですか……ッ!!』




―――『それなら、ボクだけが突撃したので正解だった』。


ジャンはそう判断しながら、消極的に後退するカニンガムに集中する。


追い立てる係になればいい、狩猟の要領だよ。


この地下通路が『どこ』につながっているのか、少しだけ情報あるからね……。




―――カニンガムの部下の誰一人として、口を割ることはなかったよ。


それでも情報は得られる、『狼男』の嗅覚が一つの事実を悟っていた。


斜面にあるブドウ畑は盛大に焼かれていて、その煙は周囲を満たしつつある。


木を焼くことで放たれる悪臭が、そこらに満ちていた……。




―――この地下通路に入る直前、ソルジェに問われて答えていたよ。


地下通路の果てからは、焦げ臭さがほとんどないと。


『狼男』の嗅覚は、通常の感覚じゃない。


常人の数万倍は鋭いというだけではなく、おそらく呪術的知覚ということだ……。




―――理不尽なまでの正確さがあり、ソルジェはそれを信頼している。


上空を旋回するゼファーの視界ともつながりながら、想像力で情報を組み上げた。


ジャンは自分が成すべきことに、集中していていい。


カニンガムが多少、いやらしさがある戦い方をしたとしても勝利は揺らがない……。




『か、勝つ!!そ、それで、いい!!』




「カニンガムでは、荷が重い。腕も脚も、食い千切られていきますね……武術の達人でなければ、さすがにこの狼をしのぎ切れはしない……でも、助力してあげられますよ」




―――『ソルジェ対策』を、カニンガムで試すことにした。


『王者の剣』を使うソルジェを見て、創り上げた戦術だよ。


カニンガムに『狂信』を注ぐのさ、壊したばかりの心がまた変えられる。


壊れているからこそ、再形成するのも早いのかもしれないね……。




『……っ!?な、何だか、動きが……というか、け、気配が……ッ!?』




―――『戦っている相手が、いきなり別人になったような感覚』だからね。


ソルジェほど武術の達人じゃなくても、ジャンにも有効だった。


おかしなズレを感じさせられることになるわけだ、戦闘でこれは利く。


戦闘というものはコミュニケーションだからね、この変貌はやりにくいのさ……。




―――技巧や動きだけでなく、そもそも人格さえも変えてしまうなんて。


『仮面』の力とも同じ、極めれば新しい武術の道でも開けるかもしれない。


人格を別人に変えさせるというリスクは、見過ごせない非人道性だけどね。


ボクが魅力を覚える程度には、強さがあるのは事実だ……。




『や、やりにくいけれど!!圧倒すれば、それでいいッッッ!!!』




―――シンプルな判断と正攻法は、およその場合で正しさに帰結する。


とくにジャンほど純粋かつ、強力ならば。


カニンガムの体から飛び出してくる腕を、一本ずつ噛んでは引きちぎる。


それを繰り返しながら、間合いを詰めて追い立てていけばいいだけのこと……。




「ジャンさんは、勝てるわ……カニンガムは、もうすぐ死ぬ」


「ジャンというのね、あの狼は」


「猟兵は、強いわ。アンタの野望は、打ち砕かれるの」


「死は、覚悟済みです」




「……聖女面が、ムカつく。アンタは、クソ女よ」


「罵られても、傷つきません。理解し合いたいわけでも、ないから」


「狂信者め。私から、大切な家族を奪おうとしている……ッ」


「私とつながって、得たのはそれだけですか」




「……うるさい。敵だと、分かったわ」


「はい。それこそが正しい認識。恨むのならば、私を恨みなさい」


「恨むに、決まっている……」


「『繭』は完成しているわ。カニンガムを傀儡にしたまでは、見事だったと褒めてあげます。貴方は……私の呪術的な知識を、受け継げるほどでした」




「バカにしてるの?アンタの、力なんて……」


「恨みと憎しみは、私にそそぎなさい」


「……聖女ぶるな。殉教者みたいな……正しいことをしている態度はやめろ。腹が立つ。アンタは……『狭間』も、亜人種も……否定しようとしている」


「私に悪意を注ぎなさい。だから、この戦いの果てにある、新しい世界を恨まないでね。祝福してあげて。千年かけて証明された、悲しい苦しみの一つから……世界はようやく救われるの。その世界だけは、恨まないであげてね」




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