表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4273/5088

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百二十五


―――ビビアナは叫びたかった、リュドミナに囚われている体は動かないけれど。


リュドミナの見せてくれるメダルドは、死の覚悟を固めている。


自分のために死のうとしてくれている存在、それには既視感があった。


耳を伸ばさないための呪術、両親はビビアナのために命を捧げた……。




―――また、ビビアナのために家族が死のうとしている。


何て辛いことなのか、それと同時にありがたいことなのか。


愛する者のために命を捧げるなんて、誰にでもやれることじゃない。


誰しも死は恐ろしいもので、本能に打ち克たなければ究極の自己犠牲は選べない……。




―――メダルド・ジーという男は、本当に愛情深い男だったよ。


その姿を見ていると、聖なる任務のために非道を行う詠唱長も感動していた。


『カール・メアー』の尼僧として、多くの悲劇や祈りと出会ってきたけれど。


ここまで高潔な態度で、自分の命を家族に捧げられる者は極めて少数だ……。




―――リュドミナはとても賢く、相手の心を見抜く達人だからね。


分かってしまうのさ、どれだけ相手が本気なのか。


目の前にいるメダルドは、『人買い』だ。


邪悪な生業をしている男手、この種の職業人をリュドミナは嫌う……。




―――レナス・アップルの人生を破壊した、邪悪で残酷な『人買い』もいた。


およそ『人買い』という存在は、クズや外道が多いものだよ。


それでもメダルドは、どの道にも時おり現れる例外らしい。


どんな生き方をしていたとしても、正しい行いは選べるという実例さ……。




―――聖なる供物とするには、何とも相応しい人物なのだと。


リュドミナは大いなる満足を得ていた、女神イースの『器』として使うに相応しい。


それを納得させられるほどの、大きな慈愛を感じさせてくれたのさ。


身を震わしながら詠唱長は喜び、この運命を用意してくれた女神に感謝した……。




「約束します。私は、あの三人を殺しません」


「……私は、という限定的な言い回しは気に食わないが……」


「私にやれる限りを、尽くすという意味ですよ。この聖なる任務の果てに、世界は変わる。それに、もうすぐ……私の命も尽きるのです。敵の手にかかり、私も女神イースの殉教者となる……その運命のなかで、やれる限りをやる。それ以上の約束は、ヒトの身では不可能でしょう」


「……たしかにな。それなら、構わない。とっとと始めてくれ」




「叔父さま!!叔父さま!!ダメです!!そんなこと、しないで!!」




―――両親を思い出し、あのエルフの薬草医を思い出す。


ビビアナにやさしくしてくれて、すぐそばにいてくれる者たち。


彼らはいつもビビアナのために、命を尽くしてくれる。


そして、いつもビビアナは何も返してやれていない……。




―――精神的につながっているから、ビビアナの叫びをリュドミナも聞く。


メダルド・ジーに近寄り、腕を伸ばしてその男の体に抱き着きながら。


こちらをじっと見つめている男に、教えてやるのだ。


レナス・アップルの声に変わりながら、ささやきを使う……。




「ビビアナさんは、『お前の言葉を聞いている。だから、告げたい言葉があれば、言ってみるがいい』」


「……ビビが、聞いているのか」


「『そうだ。私は……リュドミナさまのなかに融ける魂。記憶の残骸。私は、『人買い』に人生をめちゃめちゃにされたんだ』」


「……罪深い仕事だ。オレが、関わっているのか?」




「『違う。お前は、関係ない。関係ないけれど、きっと、お前も……多くの悲劇を作ったのだと思う』」


「……否定はしない。ジーの一族は、間違いを犯してきたからな」


「『……反省しているのならば、許してやる。最後の別れの言葉くらい……かけてやれ。私は、父さんに……別れの言葉を交わせなかった』」


「……ビビ。きっと、悲しんでいるだろうし。オレの選択を、許さないだろう。だが、それでも……お前のために最善を尽くしたい。愛している。死んでも、絶対に、オレの魂はお前のそばにいるだろう」




「叔父さま!!叔父さま!!お願い!!やめて、リュドミナ!!やめて!!レナス・アップル!!お願いだからッッッ!!!」




―――『彼女』の腕がメダルドの首に抱き着いて、儀式が始まる。


リュドミナとレナス・アップルと『蟲』と巫女戦士、それらで編まれた肉体がかがやいた。


魔力を消費し尽くしながら、その肉体が光り輝く無数の『繊維』に分かれていく。


光る繊維たちは、カイコの吐き出す糸のようだ……。




―――光の糸が『繭』を作るために、メダルドの体を覆い尽くしていく。


やわらかくて温かい、ヒトの体温を帯びていた。


メダルドは自分の『心臓』が、鼓動を弱めていくのを感じる。


死を覚悟しながらも、彼はやさしい……。




「……ビビ、泣くなよ」




―――見えてはいないが、それでも分かるのさ。


ビビアナは理想的なジーの一族であろうとして、いつでも努力を惜しまない。


親子の愛情を感じ取りながら、『彼女』も父親を思い出した。


自分の『聖歌』を好んで、誇りに思ってくれた父親を……。




「……悲しまないでくれ。笑ってくれ。お前は、オレの自慢の『娘』だ」




―――光る繊維に変わりながら、もはや誰なのかを定義し切れない細腕が。


メダルドに抱き着いて、光る瞳からは涙があふれていた。


メダルドの体も、ゆっくりと光る糸に変わっていく。


意識が分解され始め、壊れていく意識の器からたくさんの記憶がこぼれた……。




―――ビビアナの記憶、兄の記憶に兄の妻の記憶。


自身の妻の記憶に、エルフの薬草医の記憶。


悲しいことも多くあったが、笑顔も多く見てきた。


『人買い』ジーの一族が背負う運命的な罪科を、支払うことになったとしても……。




「……オレの人生は、最高だったぜ。ビビ……お前も、いい家族を作れよ」




―――父親の役目の一つに、嫁ぐ娘を見送るというものもある。


ビビアナは『狭間』だから、そういう日は来ないかもしれないと考えていた。


でも、どうやら世界は変わっているらしい。


それに、知ってもいた……。




―――愛というものは、いくらでも人種の壁を越えてしまう。


兄たちがそうだったし、今の自分もそうだ。


きっと、ビビアナは幸せな結婚をする。


だからこそ、今から死ぬなら告げるんだ……。




「……幸せにな。オレの、ビビ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ