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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百二十四


「メダルド・ジー、ですね」


「……君は、誰だ?」


「貴方の勘の良さを期待して、手短に自己紹介を。私は『カール・メアー』の者です」


「……フリジア・ノーベルの、上司だな」




―――メダルドは護身用の長剣に手を伸ばそうとして、止めた。


相手の実力を推し量れる程度には、武術の心得がある。


ソルジェたちを目の当たりにしたおかげで、価値観が狂いそうになっているけどね。


目の前にいるリュドミナが憑依した巫女戦士は、十分に達人と言える強さがある……。




「……何をしに、来た……と聞くのは、野暮だな。何をすれば、オレは姪を取り戻せるんだ?」


「ウフフ。やはり、とても賢明な御方ですね。『人買い』ジーの一族の当主は」


「……罪深さを責めるのなら、それも構わん。だが、交渉においては優先事項の通りに話せ。君は、オレに倫理観を問いたいわけじゃないだろう」


「ええ。私に必要なのは、貴方の自己犠牲です」




「……具体的に言ってもらえれば、助かるね。オレは、ビビのためならば、どんなこともやれるだろう。およそ、非常識な範囲まで―――」


「―――『ルファード軍』の機密情報を、私に打ち明けられますか?」


「……仲間を売れと?そんなつまらん嘘で、探りを入れないでもらえるかな、『カール・メアー』よ。アンタらは帝国軍じゃない。この戦の勝敗に、それほど興味なんてないだろう」


「本当に、鋭い方ですね」




「……『カール・メアー』は、あくまでも帝国軍の協力者だ。だが、軍事の専門家というわけじゃない。君らは異端審問だとかで、軍隊を取り締まりはするだろうが、本職は宗教活動のはず。戦争になど、そこまで積極的に介入したくはない」


「断言するのですね。知性の成せる業」


「……商人というビジネスは、賢くなくちゃ出来ない。素直に手の内を明かすといい。何を求めていて、何を返してくれるのか。それに、名前もだ」


「コミュニケーションの基本でしたわね。私は、少しばかり複雑な状態にあります。この体と、人格は別なのですが」




「……不思議なヤツばかりだな、最近の『オルテガ』は。人格の方を、教えてくれ。君に乗っ取られた哀れな彼女は、生きていないかもしれないから」


「リュドミナ・フェーレンと申します。『カール・メアー』においての役職は、詠唱長」


「……詠唱長。聖歌や聖句の読み方やら歌い方を、教える研究職のことか。かなりの偉いヤツじゃないか」


「女神イースの前で、すべての者の地位は同じです。例外は、ありますがね」




「……亜人種や、『狭間』についてか。政治的な……いや、アンタの場合は宗教的な理由かもしれないが、ビビアナはただの若い娘だ。彼女を、解放してくれ。オレにして欲しい行為を教えろ」


「必死なのですね。その必死さは、愛情の証明になります」


「……さぞや、感動的だろう。感動してくれたなら、さっさと取引を始めようじゃないか。遠からず、ここは戦闘になるぞ。それに、ストラウス卿や猟兵がいつ戻ってくるか分からない。それは、嫌だろう?」


「ええ。でも、ソルジェ・ストラウスは私の『本体』に迫っているので、しばらくは来ないでしょう」




「……ミア・マルー・ストラウスは、来るだろう」




―――探りを入れるための脅しも使う、商売は博打と詐欺の力も必要だった。


ミアの動きを確認したかったんだよ、少なくともソルジェの行動は理解したからね。


カニンガムと結託していたことも、メダルドは理解する。


敵の『行動範囲』もね、『ルファード』から『オルテガ』の東までだ……。




「そう、ですね。ミア・マルー・ストラウスさんも、近づいていますよ」


「……あの子は、ビビの親友だ。あの子が、手ぶらで戻るとは思わん。つまり、あの子はビビと接触した。助け出したのか……あるいは、その途中」


「包み隠さずに話した方がいいでしょうね。誤解は、悲劇を生みます」


「……もちろんだ。ビビは、ミアは?どうなっているのか教えてくれ」




―――彼はビビアナ以上の商人だからね、情報戦を挑むには分が悪い。


リュドミナは、素直に状況を教える気になった。


それでも問題はないよ、そもそも彼女は有利なのだから。


嘘をつかなくてもいいし、誤解はお互いのためにならなかった……。




「ビビアナさんにも、『私』が寄生しています。『蟲』の力で」


「……くそ。ビビを、殺したのか?」


「生きていますよ。ビビアナさんのそばに、ミアさんもいます」


「……あの子は、ビビを……人質にされた」




「あちらから、言い出したんです。貴方との交渉を、手伝うと」


「……当然だ。それでいい。ビビが最優先だから。それで、何が欲しい?ミア・マルー・ストラウスが手伝うのなら、『ルファード軍』に致命的なダメージを与えるものじゃないだろう。ならば、いい。猟兵が認める犠牲なら、オレはいくらでも支払う。オレの命でもな」


「本当に、賢い方です。貴方の血と肉を、供物に捧げられるのは、幸いなことですね」


「……供物、ね。どうしろって言うんだ?」




「『心臓』を、いただきます」


「……ナイフで、突き刺せばいいのか?」


「そんな乱暴さは不必要ですよ。私が寄生している、この体と共に……融け合えばいい」


「……融け合う、とは……?」




「『蟲』の力で、肉体を繊維に解体します。無数の、『蟲』たちの力で……」


「……『ギルガレア』の『蟲』は、かなりやられただろう?」


「ここは、『オルテガ』ですよ。『蟲の教団』に、花束を捧げている者たちもいる」


「……『ホーム』だからな。教団とやらの根も、生き延びていてもおかしくはない」




「いくつかの職人ギルドに、それらは伝わっている。彼らの体内には、弱く小さいけれど、『蟲』の亜種がいるのです。それを、すでに呼び集めているの」


「……巨大な『蟲』の集合体で、街でも襲うのか?」


「違いますよ。融け合うための、触媒となるだけ」


「……オレと、アンタが、その『蟲』どもの群れと融け合えば、どうなる?」




「痛くはありません。むしろ、快楽を伴いますよ。性交とは、異なるでしょうけれど。肉の繊維が、絡み合い、再構築されていく……」


「……『蟲』に分解されて、組み替えられるんだろ。それが痛くないなんて嘘だ」


「仮に、痛くても、問題なんてないでしょう。ビビアナさんのためなら」


「……そう、だな。だが、ビビを解放してくれる保証は欲しい。犬死にしたくはない」




「信じてもらうほか、ありません」


「……死ぬのに、か」


「ええ。女神イースの『器』となるのです。世界を、救うために。お覚悟を」


「……アンタは、『カール・メアー』の、残酷だがマジメな巫女戦士か。彼女たちの全員を知りはしないが、一人はよく知っている」




「フリジア・ノーベル、ですね」


「……あの子は、真っ直ぐだ。アンタも、真っ直ぐだろう。他人や大義のために、嘘をつくことがあるかもしれないが。あったとしても、そういう自分以外のためだ。フリジアを信じているからこそ、アンタのことも、信じてやろう」


「いい判断です。フリジア・ノーベルも、役に立ってくれますね」


「……いい子だ。殺すなよ。約束でいい。口約束だけでいい。ビビと、フリジアと、ミアを殺すな。これが、オレの死ぬ条件だ」




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