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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百二十二


―――おぞましい儀式的な戦いだったのさ、これは間違いなく一種の呪術でもある。


カニンガムが活性化させてしまった『蟲』たちは、おぞましく蠢いてしまっていた。


自ら『歌声』を放ってしまっているせいで、リュドミナにはそれらの位置が分かる。


そうなれば、支配することは全くもって難しくないんだよ……。




「何処にいるのか。どれだけいるのか。私に教えてくれましたね。だからこそ、私が操って差し上げられます」


「は、はいっ。罪深く、邪悪な私を……どこまでも、操ってください。聖なる貴方に、すべて、さ、差し上げますから……っ」


「いい子ですよ。そのまま、魔力を『蟲』に与えなさい。その子たちの『歌声』を解き放つのです」


「こ、こう、ですね……リュドミナさま……」




―――暴力で敗北して、精神でも負けた。


自分よりも知的で恐ろしくて、しかも聖なる存在の代行者である。


カニンガムの悪人性は、今となっては完全に消え去っているんだ。


いじめれっ子程度のはかなさで、とんでもなく強大なリュドミナの前に跪く……。




―――リュドミナの命令に従って、魔力を『蟲』に与え続ける。


『蟲』どもはこの弱者の肉の檻のなか、リュドミナのなかの『蟲』にラブコールを送った。


歓喜しているのさ、カニンガムの『蟲』どもは『女王』を見つけている。


リュドミナは『蟲』の『女王』の『歌声』さえ、操れるのさ……。




―――自分の体内にいる『蟲』どもで、彼女は体内楽団を作っているらしい。


詠唱長らしく指揮を執り、『蟲』どもが最も喜ぶ偉大な『歌声』を演奏させる。


とてつもない芸当であり、リュドミナだけにしかやれない領域だよ。


寄生虫を演奏するなんて、とんでもない狂気がなければ思いつきもしない……。




―――『蟲』が歌うなんてことを発見できたのも、詠唱長だからだろうね。


博物学者たちはリュドミナから、とてつもなく多大な知見を得られたかもしれない。


残念ながら、そのチャンスはおそらく永遠に失われるだろうけれど。


狂気の天才リュドミナ・フェーレンは、与えられた才能を運命に費やすのさ……。




「ほうら。全身が温かくなっていくでしょう。それは、『蟲』の力が引き出されている証です。貴方は、これから私のための傀儡と成り果てる。それこそが、貴方の望みであり、最後の願い。そして、どうしようもなく価値がない貴方が、女神に救われる唯一の方法です」


「はい……ぜひ、私を、傀儡に、変えて下さい……っ。す、救われたいのです」


「よしよし。そんなに泣かないで。おびえなくても、大丈夫ですよ。どんなに邪悪で無礼でゴミクズで、罪深い貴方でも、私は女神の慈悲を体現し、こうやって頭を撫でてあげられるのですから」


「あ、ああ……っ。ありがたい、ありがたいです。このような、邪悪な私に……っ」




―――聖なる序列に組み込まれたとき、信仰に生きようとする者は充足するらしい。


女神イースという巨大な宗教の、本当の歯車になれたわけだからね。


末端であり部品に過ぎないけれど、聖なる存在の一部分となれた。


そのつながりが『蟲』の放つ熱として、カニンガムを満たしていく……。




―――ビビアナは、おぞましいと思おうと必死だった。


それは正しいよ、この『宗教行事』にボクたちの側に立つ者は抗う必要がある。


手練れの商人さえも操り切ってしまうリュドミナの洗脳術を、恐れなくちゃならない。


もしも納得なんてしてしまえば、ビビアナはリュドミナに呑まれてしまうだろう……。




―――ビビアナには屈服して降参して、自分を放棄してしまった男の心が分かった。


心地良さがあるだろうし、もっと正確に言うのなら『幸せに満ちている』のさ。


自分が無価値だと悟らされ、取るに足らないゴミだと思い知らされた。


それなのに聖なる存在に、許してもらえるなんてね……。




「光栄なことですっ。私を……もっと、傀儡に……私をっ。焼き尽くして、ください。この幸せな熱量で」


「ええ。融かしてあげますよ。貴方の脳を、貴方の脊髄を。貴方を内側から、『蟲』の熱で焼き尽くして、聖なる傀儡へと変えてあげましょう。これこそが、貴方にとって最良にして唯一の浄化なのです」




―――ビビアナは怖くなる、かわいそうだけれど正しいよ。


それでいいんだ、このおぞましい儀式に同調なんてしちゃいけない。


リュドミナという存在が、敵だと認識し続けるべきだ。


こんな怪物とつながっているのなら、そうしないと序列に呑まれてしまう……。




―――この怪物と戦うことはとても辛いだろうし、その逆はおそらく甘美な降伏だよ。


ビビアナは予想しているんだ、つい数時間前のようにリュドミナに降伏したら。


毒さえ自ら飲まされたあの瞬間を再現して、自分を放棄できたなら。


おぞましいことに『安心』するんだよ、怖いけれど支配ってそうなんだ……。




―――自分よりもずっと大きな山とか、海とかを想像してごらん。


強大な軍隊でもいいよ、数十万の同胞でもいいけれど。


そういう大きなモノと、一緒にいられたら安心するだろう。


支配がもたらす最高の安心は、それなんだ……。




―――権威に呑まれ、序列の一部として自覚する。


ただの部品になったときだけ、得られる安心というのもあるんだ。


信仰が与えられる最大の幸福は、滅私の果てにあるよ。


自分の悩みも苦しみ消え去って、ただただ女神のために動くだけにすればいい……。




「悩みが消えていくでしょう。不安が消えていくでしょう。貴方そのものが、消えていくでしょう。そして、貴方が消え去り生まれた空白に、聖なる正しさだけが充たされていくのです。これほど、安らかで穏やかになれるなんて、貴方には想像も出来なかったはずですよ」


「はい……とても、とても幸せだあ……」




―――吐き気を催すべきだよ、ヒトの意志の価値を信じる者たち全員が。


ボクたちは『魔王』の軍勢の一員であり、『自由』を選ぼうとしているのだからね。


これが神聖さだというのであれば、『魔王』と『自由』は抗うべきだ。


ビビアナは圧倒されながらも、観察を続ける……。




「ミア、フリジア……っ。私は、まだ、がんばれる。叔父さまのために、がんばるんだ。情報を…………こいつ、みたいに。操れたら―――」




―――『人買い』ジーの一族の知識と技巧は、心理操作の力を持っている。


フリジアに対して『仮面』の力を『使わせた』のは、ビビアナの力だよ。


ビビアナもリュドミナと同じように、一種の『洗脳』の達人なのさ。


リュドミナの視界を覗き見するなんて芸当が可能なほどの、大天才だ……。




―――ならば、『操るべき相手』がいるよね。


もちろん、リュドミナじゃないよ。


さすがにこの聖なる怪物を、操ることは不可能だろうから。


だけど、怪物にボロボロにされた生贄はどうだろう……。




―――本当に、賢い乙女だよ。


やはり商人は、そうじゃなくちゃならない。


目の前にいた、自分を捨て切り『道具』に成り果てた最底辺の『奴隷』がね。


そんな相手を従わせるなんて、ジーの一族には朝飯前に決まっている……。




―――目だ、片目でいい。


ビビアナはリュドミナの左目を動かそうと試みる、ソルジェを真似るんだ。


魔眼があるかのように、それをわずかに動かそうとする。


『いつものように奴隷を従わせる要領』で、ただこちらの思惑を伝える眼を選ぶ……。




―――『洗脳』された傀儡に、壊されて食われていく精神の残骸に。


ビビアナ・ジーの才能が、命じていた。


『蟲』が伝えているのさ、そのせいで諸々の精神的な伝達が融け合っている。


敵の力をも使い、賢い乙女はクリア・カニンガムの心をわずかばかり掌握した……。




「この幸せな感覚を、あいつも味わっておるのでしょうなあ」


「……ええ。メダルド・ジーも、遠からず。この神聖さに帰依するでしょう。『心臓』は、『歌声』を受け入れる……『器』として、最良の形質を備えているのですから」


「『蟲』を、伝達として飛ばした。あいつは、あいつも、こうやって聖なる隷属に受け入れておられるのでしょうか。その光景を、感じ取りたい……知りたいのです。メダルド・ジーの、運命を……」


「興味深いですね。でも、願いを聞いてあげますよ、『ビビアナさん』。私におねだりしたら、そのあとは……貴方の体を、掌握させてもらいますけれどね」




―――ばれていたよ、そうだろうね。


だって、リュドミナ・フェーレンは怪物から。


でも、取引をしてくれるというのなら乗る他ない。


ジーの一族も取引ならば戦えるだろうから、この心を喰らう聖なる怪物とだって……。




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