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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百十六


―――長い地下通路を歩きながら、商人はうなる。


この男の信仰心とやらが、一体どれほど真剣なものかは分かりにくいものだけど。


イース教徒であることは確かであり、リュドミナの告白はイース教徒には重みがあった。


女神の『器』があり、『歌』という記憶が揃うのであれば……。




―――本当に女神イースを、この世の中に再誕させられるかもしれない。


多くの神々は信仰が創り上げる心の世界にしかいないのに、女神は実体を得る。


人工的に創り上げた女神であったとしても、女神として『相応しい能力』があるのなら。


すべてのイース教徒は、歓喜と共に受け入れるべき出来事だろう……。




―――実在する女神イースが、どれほどの力を持ち得るのか。


カニンガムは好奇心をくすぐられ、想像力と野心を燃やしていく。


どれほどの価値が、女神イースにあるのか。


それを知りたくなるのは、信者としても商人としても当然のことだよ……。




「『最高の歌い手』、ですか。それは、つまりリュドミナ殿なのですな?」


「いいえ。私ではなく……」


「では、レナス殿」


「そう。レナス。かわいそうな子ですが、女神イースに愛されてもいた」




「女神イースに愛されていながら、かわいそう……つまり不幸だったと?」


「試練をお与えになる。それも、思し召しなのです」


「試練により、磨かれるわけですな」


「ええ。レナスは、本当に多くの試練に耐えた。壊されて、穢されて……それでも、女神イースの教えを体現するような存在でした。『彼女』の歌声は、聖句の詠唱者としても最高だったのです」




「……大いなる福音が、我々にもたらされようとしている。素晴らしい」


「多くの者が、女神イースの思し召しのもと、運命を絡め合ったのです。貴方も、その運命の一翼を担った」


「だとすれば、これほどの幸せはありませんな……計画は、完成直前と」


「はい。問題は……」




「貴方は、レナス殿を、聖句の詠唱者としても最高『だった』と表現された点が気になっているのですが」


「さすがですね。そう、レナスは……」


「敵に討たれた、と?」


「そうです。でも、問題はないのですよ。歌声は、ここにありますから」




―――リュドミナは自分の喉を触り、そこに宿した『蟲』へ命じる。


神経を集中させれば、すぐさま『歌』は記憶から浮上した。


レナスほどでなかったとしても、リュドミナもまた歌声と音楽の天才だからね。


知識と経験については、レナス以上でもある……。




「『母なる女神よ。我らの罪に、赦しを与えたまえ。我らの弱さと、我らの苦しみに、慈悲深き恵みの抱擁で応え、慰めを与えたまわん。母なる女神よ。魂と霊でつながり、終わらぬ幸福の園を世界に導きください』」




―――その歌声を聴いて、ビビアナとカニンガムの心は震える。


驚くほどの美しい歌声であり、薄暗い地下道に光が差したかのように感じるほどだ。


究極にまで高められた芸術は、力尽くで魂に思い知らせるものだよ。


『レナスの歌声』を『蟲』と記憶と自らの技巧で、『完璧に再現してみせた』……。




「……このように。レナスの歌声を、私は使えるのです。『蟲』の賜物として」


「素晴らしい歌声でございました。なるほど、これが……『最高の歌い手』と」


「レナスは、女神イースの思し召しそのものでした」


「殉教なされた後でも、こうして歌声を遺しておられるのならば、彼女も満足でしょう」




「はい。迷いは、ないでしょう。苦しみの道だったとしても。レナスは、きっと理解します。聖なる道が、けっして、美しさや潔癖な路ではないことを……壊れるほどに、穢れた路だからこそ、ヒトはより多くも悟れる。レナスの歌は……罪科によって完成した。ヒトの邪悪さを知らねば、これほどの歌が魂からあふれることはないのです」




―――あの不幸すぎる生い立ちは、多くの視座を『彼女』に与えただろう。


『家族』を殺され、男性としての自分をも奪われた。


誰よりも深い絶望の底を、『彼女』は知っている。


だからこそ、あれほどの歌声が成せるのかもしれない……。




「誰よりもやさしく、誰よりも不幸な子でしたよ。聖なる者に憧れながらも、自分の穢れと醜さを知ってもいた。神聖さと邪悪さのあいだで、もがく。それが、『彼女』だけが歩めた修行の道だった。とても痛ましく、とても苦しく……それでもなお、自分が女神イースの母胎となり、この世界の救済を成し遂げるという使命のために生きたのです」




―――『彼女』には、狂暴な怒りもあっただろうけれど。


すべてを女神イースに捧げていることには、間違いなんてなかった。


『彼女』なりの救済を、世界に与えたいと願っていたのさ。


ボクたちにとって困ったことに、『カール・メアー』式の救済だけれどね……。




「……救済、とは。どういう形になるのでしょう?多くの宗派が、それぞれの主張を持っておられるようですが……」


「『カール・メアー』の慈悲は、いつでも明瞭です。世界から争いを減らすために、世界を改変する。その方法論は、ファリス帝国の主張とも、一致していますね」


「帝国の、方法論。つまり、亜人種どもを……」


「人種を、ただ一つにする。世界が融け合うためには、人間族だけが生きている世界となり、女神イースの直接支配の下に置かれる。それこそが、最良の平和なのです」




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