第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二百十五
―――あらゆる信仰には、秘密が必要だよ。
それがあるからこそ、神聖さは深みを増してくれるのだからね。
『カール・メアー』が抱えている秘密は、女神イースの正体だった。
女神イースは『ヒトの体に宿っていた』というのが、彼女たちの伝承らしい……。
「おお……っ。女神を宿せた者がいるのですなあ!なんと、なんとも……それは、一体、どういった人物だったのでしょうか?」
「女性ですよ。女神イースの精神と、同調可能な肉体を持った」
「聖女、ですな」
「そうです。憑依なされていた……」
「まるで、『寄生』していたかのように?」
「……その言い方は、あまりにも冒涜的ですね」
「ああ、申し訳ございません。どうにも、『寄生虫ギルガレア』に触れ過ぎておりますので。やや女神イースに対して不敬であったかもしれません。しかし……」
「しかし……何だと、言うのです?」
「『憑依』と『寄生』は、どちらも宿主に対して外部からやって来るという行為においては、同じですな」
「否定は、出来ませんね。それは事実です―――」
「―――だからこそ、貴方は『ゴルゴホの蟲』や、『寄生虫ギルガレア』に惹かれたのでしょうか?聖なる女神に対しての、知識欲ゆえに」
「詠唱長として、信仰にまつわる知識を磨かなければなりません。それに、正しい信仰の方法も見つけて、周りに知らしめる。啓蒙こそが、私の役目でした」
「信仰とは、知恵の光でございますからなあ。『蟲』に対しての嫌悪感を、貴方が持っていなかったことが、第一印象では違和感を覚えたものです。しかし、こういう事実が根底にあったのであれば、納得がいきました」
「……あらゆる過去の秘跡を追求する必要がある。女神イースの教えの『起源』は、この中海に由来するのですから」
「過去の多神教と、女神イースの教えは異なっていると思うのですが……歴史をさかのぼれば、あらゆる道は……」
「『古王朝』という文明は、大陸の歴史の起点ですから。女神イースを宿した肉体を持っていた女性も、かつて『古王朝』で錬金術師をしていた」
「ふむ。千年前の文明……『古王朝』時代の、錬金術師……」
「彼女は知識を求めて、『プレイレス』を旅立ったのです。そして、さまざまな土地を巡り、多くの試練を与えられ……女神を宿すのに相応しい『器』へと至った」
「なる、ほど。貴方は、女神イースの『器』となった者に対しての研究をなさっていたわけですな。この地域にやって来られていたのは、そもそも……そういう研究を。女神イースの足跡をたどっておられた」
「詠唱長としての義務であり、私自身の願いでもあったのです。より女神イースの教えを理解したい……それに、可能であるのなら……」
「『女神に再び肉体を与えたい』。貴方は、長年の研究と努力の果てに、その『具体的な方法』を、ついに見つけたられたのですなあ」
「……そう。古来、神々の『器』を用意するのはヒトなのです。『古王朝』で生まれた多くの神々がそうでした。女神イースを宿した錬金術師も、その道を辿ったのです」
「彼女も、『蟲』を使ったのでしょうか?」
「……いいえ。『蟲』ではありません。しかし、『ギルガレア』と本質的には一致しているものです。神々には、二種類いますが……」
「信仰される神々と……『それ以外』。『ギルガレア』は、『ゼルアガ/侵略神』ですな」
「そうです。彼女の道程にも、『ゼルアガ/侵略神』がいたのです。『ヒトの願いを聞いてしまう『ゼルアガ』』がいた」
「『ギルガレア』も、そういう側面がある。『蟲の教団』どもの求めに応じて、『ギルガレア』はその身を分けて、『寄生虫ギルガレア』をも与えた……それから分化した『ゴルゴホの蟲』も……」
「『ゼルアガ/侵略神』の中には、ヒトに与えることを好む者もいる。邪悪な破壊の神々も少なくありませんが……ヒトに力を与える、あるいは、ヒトがいなければ真価を発揮できない『ゼルアガ』もいるのですよ」
「つまり、『宿主がいなければ機能しない』、と。それでは、まるで……『寄生虫』のようですなあ」
「そうです。『ゼルアガ/侵略神』の力が、女神イースの『生贄』として相応しい条件の一つなのですよ」
「異界から侵略してきた神を『喰らって』、滋養を得るのですね。なるほど、神々の頂点である女神イースには、相応しい『食事』です!他の神々をも、喰らう!!」
「ええ。女神イースの『器』を作るには、これもまた必要だった」
「『器』が、今まさに作られつつあると」
「いくつかの材料を、組み合わせなければなりませんが……」
「具体的には、どういったものなのですかな?」
「……メダルド・ジーの『心臓』。ボーゾッド伯爵が、彼に『寄生虫ギルガレア』を寄生させました。それが『心臓』に宿り、進化を続けています」
「適合した、と。奇跡のような確率で」
「いいえ、これは必然ですよ。言うなれば、運命。女神イースの『器』に欠かせない素材が、私やレナスの道に現れたのは、女神イースの思し召しがあったからこそ。この『器』に、私たち『カール・メアー』が伝えて来た、『歌』を注げばよいのです。『最高の歌い手』も、いましたので」




