第四話
―――リュドミナは死を覚悟している、猟兵たちの強さを考えれば当たり前だよ。
殉教者としての死ぬことは、彼女にとっては幸せだろう。
問題があるとすれば、『いつまでもつか』だ。
ビビアナは気づいている、今このとき『リュドミナの策』が動いていることを……。
―――何が行われるかを探りたいところだね、どこで起きているかは想像がつくから。
『オルテガ』だと考えていいよ、もちろんメダルド・ジーの『心臓』もそこだ。
メダルドはビビアナのためなら、心臓を差し出すかもしれない。
ミアも協力を申し出てくれてはいるものの、それは分かりやすいフェイクでもある……。
―――リュドミナは追い詰められているし、それに気づけないほど間抜けではない。
それなのに、まったくあきらめていなかった。
自分の死をも許容して、何かを狙っているのだとビビアナは見抜く。
それが何であるのかを探りたい、メダルドを守るためにも……。
「こちらから、地下へと降りられます。せまくて、暗い道となっているので、リュドミナ殿。お気をつけてください。どうやら、魔力がちいさくなっているご様子ですが……」
「……少し、力を使い過ぎていますね」
「『蟲』を統べる力を使うのは、なかなか疲れるようですからなあ」
「貴方も、『蟲』を使っているのですね」
「ええ。体内に入れてからは、それほど日が経ってはいません。それに、部下たちやリヒトホーフェンらほど数ではない。おそらく、貴方ほどでも」
「……さすがは、情報通ですね。私の力についても、想像がついているようですが」
「まあ、上手く立ち回ることばかり磨いてまいりましたので。多くの実力者に奪い合われて来た『オルテガ』で商売などやっていれば、洞察も磨かれます。さあ、こちらに」
「狭い通路ですね。深さは……井戸と同じほどですか」
「おお。さすがは、詠唱長殿ですなあ。音の反響で、探ったのですね」
「ええ。盲目の尼僧イルドラが伝えた技です。これも、知っていたようですね」
「無知で無学な者でしたからなあ、大人になってからはよく本を読むようになったのです。知識欲を満たすために、多くの方々とも話してまいりました」
「素晴らしい料理人であることは、知っていますよ」
―――褒められることを好む男は多く、カニンガムも例外には漏れない。
笑顔を浮かべながら、地下室の底からさらに深みへと降りる階段を進む。
リュドミナをエスコートするためにね、部下は置き去りにする。
彼には仕事があるからだ、猟兵たちを迎え撃つためにここを守るのさ……。
「貴方に、女神イースのご加護がありますように」
「はい。リュドミナさま。私が死んだら、私の体内の『蟲』で死体を操ってください。カニンガムさまにも、貴方のためにも……敵を、一秒でも長く防ぎます」
「いい部下だ!さすがは、手塩をかけて育てた甲斐はあるぞ。この献身を忘れはしない。遺した家族については、任せておけ」
「ええ。頼みます。こちらが、ランプです、カニンガムさま」
―――どんな敵にも人生がある、カニンガムの暗殺者として育成された男にも。
地下へと進むリュドミナとカニンガムを見送ったあとで、彼は地下への道を封じ始める。
利益で結ばれた関係だとしても、その忠誠は見事なものだ。
主のために本当に死ねる者は、あまりにも少ないよ……。
「だからこそ、私は自分が使っている者たちに、麻薬を推奨しているのです。あいつも、今からそれを体に打ち、ソルジェ・ストラウスどもに挑むでしょう。ああ、麻薬が『蟲』に悪影響を与えますかな?」
「大丈夫ですよ。死体となれば、薬の反応も止まる。『蟲』で、無理やりに動かせばいいだけのこと」
「なるほど。安心しましたぞ。せっかくの、リュドミナ殿のお力が、私の用意させた麻薬ごときで、にごってしまうとなると……あまりにも無礼です」
「……死にゆく彼の献身の方が、尊いですよ」
「それは、もちろんですとも。私も、大切な部下を失うことは体を引きちぎられるほどに痛ましいですが……それでも、物事には序列があるもですからなあ。あいつよりも、私や貴方のほうが生き残るべきなのです」
「女神イースのために、私は生きます。貴方も、それを志してくださいませ」
「ええ。そうでした。私も……貴方をお守りすることで、女神イースへの貢献としましょう。さて、足もとがお暗いですので……ああ、音の力で、暗がりをも見通す力がありますかな?」
「灯りがあった方が、安心はいたします」
―――カニンガムは、おそらくリュドミナの情報を引き出したがっている。
何のためなのか、それがただの知的好奇心だとは思えない。
この男は傲慢で、実利的な男だよ。
敬虔なイース教徒になりたがったとしても、本質的に商人だ……。
―――『売り物』を作ろうとしているのだと、ビビアナは確信する。
同じ商売人だから、よく分かるのさ。
リュドミナをソルジェか、あるいは他の誰かに。
売り払って利益を得たいと、考えているのかもしれないね……。




