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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百八


「……私に、気がついているというのですか」


「ソルジェ・ストラウスに、読まれたのですか?……この場所が?」


「いいえ。安心してください。そこまでは、おそらく……ただ、戦い方からでしょうか。それを読まれてしまったようですね」


「戦闘の達人ともなれば、そうなるのでしょうな。分析するほどの余裕があるのか、あるいはベテラン過ぎて、直感で読み解いてしまえるのか……」




―――リュドミナは『蟲』に命令し続ける、ソルジェの竜太刀に斬り裂かれても戦えと。


脊柱狙いの攻撃を避けるために、『間合い』を盾にしろともね。


死体になっても戦わされている者たちの『腕』を、長く長く伸ばさせたのさ。


『蟲』と骨と肉が、おぞましいコントラストで組み直されていく……。




「な、何でだ!?こんな、動きをするなんて聞いていないぞ!?」


「これでは、ば、バケモノじゃないか!?」


「『ゴルゴホ』は、騙していたのか……っ!?」


「嫌だ、嫌だ……っ。し、死んだあとも、あんなバケモノにされて戦わされるなんて!!」




―――ヒトには尊厳があるよ、たとえ戦いのために命を捧げる覚悟をしていても。


このおぞましい姿となってまで戦い続けるのは、彼らだって嫌なんだ。


戦意を失っていくのが分かり、猟兵たちは戦闘の終結を予感する。


交渉してもいいかもしれない、捕虜に出来たならこちらも情報を得られるからね……。




―――いくら覚悟を決めた『帝国軍のスパイ』らの精神力でも、辛い現実だった。


自分の肉体を、あまりにも変異させられるなんて。


そんな結果は地獄だろう、誰だってそんな結末は嫌過ぎる。


誰もがバケモノになってまで、死んだ後も戦わされる地獄を許容するとは限らない……。




―――このままでは壊滅する流れでもある、無意味に死ぬのは戦士の仕事じゃない。


『帝国軍のスパイ』の生き残りが、戦略的な判断をする。


それをソルジェもレイチェルもジャンも、予感していたよ。


『蟲』に操られる死体どもに全力は費やしつつも、生き残りには手加減した……。




―――ソルジェの指揮だったよ、言葉じゃなくて態度で伝えている。


『帝国軍のスパイ』に対しては、油断はしないがリスペクトを持っていた。


因縁がたまりつつある相手だけど、能力も組織哲学の強さも評価している。


帝国軍は憎んでいるけれど、帝国人全てに怒りと憎悪を叩き込む必要はない……。




―――王さまらしい、公平性だった。


復讐者であることだけが、正義じゃないとソルジェも定めつつある。


ソルジェには、とても難しい選択だけれど。


多くの敵との出会いが、この考え方だって許容させているんだ……。




「仲間の合流を待っていたようだが、そいつらはお前らを見捨てたらしい。クリア・カニンガムは、自分だけを守らせるつもりらしいぞ。そんな相手と、心中するのがお前らの死に方でいいのか?考えるときだぜ!!」




―――『正しい王さまの条件』は、たくさんあるけれど。


その一つには、ちゃんと弱者に手を差し伸べられるかというものがある。


残酷な厳格さも必要でありながらも、真なる王道を往く者には寛容な慈悲も要るのさ。


残酷なだけの王が、どれだけ人々の心を束ねられるのか……。




―――厳しさとやさしさ、矛盾するかもしれない力をも併せ持つべきなんだよ。


王さまの道は、決して易しいものじゃない。


どれだけ多くの民に、幸せを与えられるのか。


そんなことまで考えられなくちゃ、単なる愚王でしかないのだからね……。




「ど、どうする……っ」


「……カニンガムは、我々に援軍を出さないようだ……」


「このまま、全滅するだけでは……何にもならない」


「投降するのも、悪い選択ではない、が……」




―――『王者の剣』の威光、それがもたらす結果でもある。


敵は、ソルジェを信じつつあった。


殺し合いながらでも、コミュニケーションは成り立つ。


日常のそれよりは、かなり異質なものではあるけれど……。




「オレは、約束を守るぞ。そっちを一度だけなら信じてやれる!選ぶがいい!!全滅するのか、それとも……オレの名において捕虜となるのか!!」




「……聞いていた以上に、厄介な人物かもしれませんね。敵の心にも、その言葉を届かせるなんて」


「弁論術に、長けた男というわけですか?」


「いいえ。あれは、本気で語っているのでしょう。私には、分かります。演技であれば、もう少し声に違和感が宿ってしまうものですから」


「余裕ぶっているわけでしょうか。あるいは……」




「たんに、信じてやろうとしているのでしょう。恐ろしい敵ですね。あれでは、こちらが誘われてしまう」




―――『帝国軍のスパイ』であっても、絶対の統制なんてありえない。


ソルジェの言葉を、この敵どもは信じて考慮し。


生き延びるための選択を、しようとしたんだ。


彼らにだって家族や恋人がいて、人生の継続を望んでいるのだから……。




「……わ、分かった!!……オレは、もう戦わない!!」


「……全滅することが、組織への貢献なんかじゃない」


「生きて、戻るんだ。オレは、オレには……あの子が……っ」


「ソルジェ・ストラウス!!投降する、攻撃はしないで欲しい!!」




―――もちろん、リュドミナはそれを望まない。


彼女の信仰心は、どんな感情にも揺るがないよ。


必死に生きようとする者たちを、踏みにじったとしても。


この犠牲の果てに、正しい結末が訪れると信じているのだから……。




「……戦いなさい。聖なる女神イースの戦士たちよ。その血を捧げ抜き、聖なる供物となるのです」





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