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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百二


―――ビビアナの精神力は、回復していく。

自尊心を取り戻した彼女は、たとえ『蟲』の支配下にあったとしても。

その類まれなる知性を使い始める、このリュドミナという強敵の目的を探るのだ。

心をつなぎ合う力は諸刃の刃、ミアの考え通りに逆襲は始まる……。




―――リュドミナにとって、『最悪の状況』とは何なのか。

それは、女神イースの再臨が阻止されることである。

それを阻止するための最良の策は、メダルド・ジーの『心臓』を確保させないことだ。

どうすれば妨害できるか、ビビアナを人質に使わせなければいい……。




―――この『蟲』からの呪縛から解き放たれたなら、それですべてが解決する。

『ブランガ』の毒を、適切に使えたらそれは成せるはずだ。

しかし、命の危険もあるのが厄介である。

今のビビアナは自分を傷つけたり、まして自らの死を望んだりすることはない……。




―――自分が『生きていていい存在』なのだと、思い直したからだ。

むしろ生き抜くべきである、両親のためにもメダルドのためにも。

大切な者たちの全員が生き延びるために、知恵を尽くす。

『人買いジーの一族』として作り上げて来た、心理掌握と心理理解の知識を使うのだ……。




―――取り戻した自尊心のおかげで、一族の力に対して嫌悪も矛盾も感じない。

『人買い』は悪だと理解している、多くの人々から『可能性』を奪い取ってしまった。

それは罪であり背負うべき過去だが、それでも力には変わりない。

幸せになるために、使い尽くすべき一族の財産でもある……。




―――リュドミナの呪縛の構造を、何なのか。

心理操作術の一種であるとビビアナは結論した、詠唱長とは聖歌の研究者なのである。

芸術の力を用いているはずで、『プレイレス』の土地を訪れた以上は演劇術に触れる。

この支配の本質は演劇的な心理操作術であるはずだと、この才媛は見抜いた……。




―――呪術と『蟲』が『人格』をビビアナに押し付けてはいるけれど、それだけじゃない。

この術はビビアナの心を利用しているんだよ、『彼女』がそうであったようにね。

リュドミナという強烈な『人格』を、宿主は『演じさせられている』んだ。

暗示や催眠や忠誠の魔法と同じようなもので、『仮面』と同じものだった……。




―――ビビアナは『リュドミナの仮面』を無理やりつけられて、その権威の支配下にある。

賢いビビアナは自分の状況を、そう解き明かしていた。

現状を読解することで、『リュドミナの仮面』の魔法の一つが解けてしまう。

ミアを頼り、自分の腰回りを抱きしめてくれるちいさな手に触れようとした……。




―――『強制的に人格を演じさせる』ほどの『仮面』から、自由になるのは困難だよ。

でも、ミアのくれた大いなる母性を頼ればいい。

心の底から欲しているものの一つだ、ミアのママが成し遂げたのと同じように。

そういった願いは、不可能さえも覆してくれる……。




―――『リュドミナの仮面』の束縛は強く、抗おうとするとノドが痛んだ。

だからといって、この抵抗を止めることはないよ。

ミアの名前を呼び、フリジアの名前を呼ぶ。

心のなかで友情を頼れば、この苦痛とだって戦えたんだ……。




―――ミアのちいさな手を、ビビアナの手が触れる。

ミアは少し驚くけれど、それ以上に喜んでいたよ。

この意味が分かったからだ、自分の手を触ってくれたのはリュドミナじゃない。

ビビアナだということを、ミアは理解したんだ……。




―――この戦いを応援するために、無言のまま抱きしめ続ける。

ビビアナは手の動きを一つ、『リュドミナの仮面』から取り戻せたことで自信をつけた。

『リュドミナの仮面』は、絶対ではないのだ。

それが証明されただけでも、その権威がまた一つ引き下げられる……。




―――心理操作術の要は、序列だからね。

偉い人には逆らいにくいのが、ヒトという生き物の本質だよ。

ひねくれた荒くれ者でもない限り、およそのヒトは権威に従うものだ。

それに従わなければ落伍者とされて、集団から拒絶される運命だよね……。




―――良かれ悪かれ評価は分かれるかもしれないけど、ヒトはそんなものだ。

『リュドミナの仮面』は、ビビアナの手の動きを許してしまった。

権威は下がる、神さまみたいな支配力からそれよりは『やや下』に。

ちいさな一歩だが、確実な前進であることを喜びながら策を練る……。




―――ミアの手から、体温と触感を得ることに集中していく。

感覚が自分の支配下にあると認識し直すことで、また一つ前進した。

抵抗することで得られるノドの痛みも、その一つだ。

これは自分の体であり、『リュドミナの仮面』は邪悪な侵略者でしかない……。




―――『リュドミナの仮面』は、不完全でちっぽけな存在だ。

寄生して自分の知性を支配しなければ、組み上がらない脆さがある。

『彼女/レナス・アップル』がそうであったように、単独では存在できない。

推理の方向をビビアナは変える、『どうしてこんなに弱いのだろう』か……。




―――『蟲』の力と、『カール・メアー』と『プレイレス』の芸術の技巧と知識。

それらを使いこなせるのであれば、もっと『完全な支配』を与えられるのではないか?

そもそもより強烈に『人格』を植え付けて、『完全な分身』にすることも可能では?

何故それをやらないのか、効果的な戦術を採らない理由があるはずだ……。




―――おそらく『完全な分身』にすると、困ることがあるのだ。

ビビアナは推理のために『決めつけた』、正しいかどうかは後回しでまずは推理だ。

『完全に同じだと困ること』とは、何であろうかとも考える。

それは簡単である、『区別がつかなくなると混乱するからだ』……。




―――となれば、『区別をしなければならない事情がある』。

それの理由こそは分からないが、明確な答えが一つあった。

『認識のためである』、何かしらを感じ取るために区別を与えておくのは一般的な管理だ。

では、『認識の方法』はどうやっているのだろうか……。




―――区別をするために、ビビアナが最も一般的に使う方法は『見る』ことだ。

『カール・メアー』の詠唱長ならば、音楽的な感性で『聞く』ことかもしれない。

手触りやにおいという者も、いるだろう。

共通しているのは一つだけ、『感覚』を使っているのだ……。




―――『区別がつかないほど同じになる』ことが、リュドミナにとって不利ならば。

『そのとき感覚は、どうなっているのだろう』。

推理のために新しい課題を得たビビアナは、一人の男を想像した。

左眼に竜の力を宿し、竜の感覚と『同調』することが可能な呪術師のことを……。




―――『感覚を共有する呪術もある』のだ、『感覚を互いに分け与える呪術』が。

それは同等なパートナーであれば、任意に共有してもいいだろう。

しかし、『リュドミナの仮面』は序列の力を使っている支配の道具だ。

奴隷と『ご主人様/人買い』は、『同じ視線』であってはならない……。




―――ジーの一族の知識が、ビビアナに一つの可能性を見つけさせた。

『リュドミナと同調をあえて深めれば、リュドミナの視点を覗けないだろうか』。

それを防ぐためにこそ、『不完全』にしているのではないだろうか。

自らを分身させるときのリスク管理として、支配と序列の『仮面』の魔法として……。




―――怖いが、今のビビアナには勇気がある。

試してみればいいのだ、押してダメなら引いてみればいい。

抵抗で現状を解決できないなら、飛び込んで内側から崩してやればいい。

自分と『彼女』のあいだを、自在に移動した『人格』は都合が良すぎる……。




「あんたの『本体』が、それを見届けて操っているかもしれないからね。役者と演出家みたいに。まあ、試してみてやるわ――――」




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