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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二百一


―――ミアはヒトの強さを信じているよ、猟兵の申し子だからね。


体力や魔力だけじゃなくて、心の力そのものも。


知性を信じているし、意志を信じている。


感情も信じているんだ、ビビアナならそれらすべてを使えると信じている……。




「ビビは、強い子だよ」


「『強い子は、自分で毒なんて飲まないわ』」


「あなたが、飲ませただけでしょう。ビビが、自分でそれを望んだわけじゃない。追い詰めて、意地悪な方法で、飲ませただけのこと」


「『そうだとしても、彼女は、ちゃんとこの世界に絶望をしていたのです。『狭間』がどれだけを不幸にしたのか。ご両親も、周りも……多くの血が、『狭間』のために流れている。それは不幸です』」




「ううん。不幸じゃない。ビビのパパもママもね、ビビのために、がんばっただけだよ。それって、ぜんぜん不幸なコトじゃないもん」


「『死んだとしても?親と子が、離れ離れになったとしても?』」


「私だって、ママが命をくれたもん。奴隷商から逃げてくれた。命がけで。死んじゃったよ。殺されちゃったけれど。それは、悲しいだけじゃない。不幸なコトで、終わっていないんだよ」


「『終わって……』いない……?」




「そうだよ。私は、こうして生き抜けた。お兄ちゃんに会えて、ガルフおじいちゃんに会えたよ。リエルやみんなにも会えて。あちこち大陸を旅して、たくさんのヒトに会えた。ここではね、ビビとフリジアにも出会えた。さっきは、パロムとも」


「……ミア。『貴方は、たくさんの出会いを生きているのですね』」


「ママがね、私にくれたプレゼントだよ。すごく、ありがたいコトだよね。すごく、幸せなコトだよね。コレはね、絶対にそうなんだ。だって、私がそう感じているんだもの!」


「そう、『ですね』」




―――心はね、知性と意志と感情で世界を認識してくれるものだ。


ミアはそれらの三つをどう使っても、ママが自分にくれたプレゼントを信じられる。


ミアの人生は戦いばかりだけど、周りに多くの死もあるけれど。


不幸なことばかりじゃなくて、幸福なことも多くあるよ……。




「世界はね、人生はね、自由ってね。『可能性がある』ってコトなんだよ!ママはね、それを私にくれたんだ。それってね、すごく大切で、それって、とんでもなくありがたいことで。こんなにすごいコトは、どう考えたって幸せなんだよ!」


「……私も、そうかしら」


「もちろんだよ。ビビ。私とママが、保証してあげる。ビビのママとパパもね、ビビの幸せを願っているの。それだけは、絶対」


「恨んでたりしないかしら……私が、産まれなかったら、良かったとか……」




「そんなコト、思うわけないよ。ビビだって、知ってるでしょう」




―――親友の背中に少女は抱き着いて、言葉以外の何かも伝える。


体はときどき便利だよ、体温や感触だけでも多くを物語れた。


友情と信頼だって、こうやって簡単に伝えられてしまう。


リュドミナの心に寄生されていたとしても、ビビアナにミアは届く……。




「うん。そうね。そうだった。私は……愛されてるって、信じるべきだ」


「そうそう。だって、それが本当だもん。愛って、強いね。ママって、すごいよね」




―――ぎゅっと抱きしめて、甘えるんだ。


今はとても大変な状況だけど、強敵に寄生された親友の背中に。


ミアはママを感じ取っていたよ、やさしくて甘い香りがして温かい。


背負ってくれて、奴隷商から逃げ出してくれたんだ……。




―――知っているかい、奴隷商や『人買い』っていうのはとてつもなく邪悪なんだよ。


硬くて冷たい鋼の檻にヒトを閉じ込めて、色々な手段で希望を奪い取っていく。


どんなに知恵を絞ったところで、そこからは抜け出せないのだと思い知らせる。


どんなに願っても祈っても、神さまも英雄も助けてくれないと分からせるんだ……。




―――可能性をすべてむしり取り、絶望しかない場所に閉じ込める。


そこから逃亡するなんて、どれだけの執念だろう。


どれだけの奇跡だろう、どれだけの心の力を使ったのだろう。


それがねビビアナにはよく分かるんだよ、他ならぬ『人買い』だからね……。




「……すごい、ことね。ちいさな子を一人抱えて、それで……逃げ切るなんて。命を、使い尽くさなくちゃ、ありえない……とんでもなく、大きな願いだわ」


「ねー。ママって、すごいでしょ」




―――絶望に負けなかった希望があって、不可能を覆した可能性があった。


命を使い尽くして、死にながらだって願ってみせた。


ソルジェとガルフとボクたちに、偉大なママはミアを届けてくれたんだよ。


ミアに与えられた大きな可能性は、彼女からの最大の贈り物だ……。




「こんなにね、大きなプレゼントをもらえる私は、愛されてるの。ビビと、同じ。だからね、ビビは生きていていいんだよ」




―――もう一度、抱きしめた。


ビビアナの体に巣食うリュドミナにも、その温かさは届いていたよ。


彼女も悪じゃない、ボクらとは別の正義なだけだ。


それに『人買い』の邪悪さと苛烈さを、知っているからね……。




―――『人買い』の犠牲者だったレナスを助けたのは、『カール・メアー』だ。


レナスに誰よりも寄り添ってあげていたのも、リュドミナだ。


正義を規定する哲学はさまざまあって、ボクらと違う正義なだけだよ。


敵同士の正義だけど、つながるところは確かにあったのさ……。





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