第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百九十四
「び、ビビっ!?どうして、私とミアを攻撃するんだ!?」
「……『どうしてだと、思いますか?』」
「そ、そんな!?その声は……リュドミナ……っ!?」
「『薬以外のものも、飲ませていたなんて。考えるべきでしたね』」
「まさか……っ。き、『寄生虫』を、飲ませて……っ」
「『そうですよ。あくまで保険だったのだけれど。ここまで使わせるなんて……貴方たちは、本当によくやりましたね』」
「こ、この女も……さっきの女と、同じ声を……っ!?ど、どうなっているんですか、ミアさんっ!?」
「パロム、こっちに来て。ビビから、離れるんだ。これは、命令だよ」
「りょ、了解ですっ!!『曙』、行きますよ!!」
『ヒヒイイン!!』
「『あらあら。慎重ですこと』」
「当然だよ。ビビを傷つけるわけにはいかないんだ」
―――パロムはこの状況についていけない、ミアとフリジアだって混乱している。
だからこそ、ミアが指揮を執る必要があるんだ。
この状況では一番、冷静なのだから。
考えなくてはならない、最良の結果を得るためにはどうすればいいのかを……。
「フリジア、パロム。慎重に行動するよ。絶対に守るべきことは、ビビを傷つけないことだからね」
「あ、ああ!ビビ……必ず……助ける」
「状況は、よく分かりません!!ですが、命令にしたがいますっ!!」
「『ビビアナさんを、助けられる気でいるなんて。私は、そこまで甘くはありませんよ』」
―――再び『風』を放つが、三人はあっさりと回避してみせる。
リュドミナは指を握ったり広げたりして、感触を確かめていた。
想像していた以上に、動きが悪かったらしい。
それでも、それがミアたちの助けになるとは限らないよ……。
「『魔力が弱いですね。それだけ、死にかけているということです』」
「や、やめろ。ビビを……殺すなっ!!」
「『うふふ。あわてなさい。そちらの方が、私は戦いやすくなります』」
「つ、つまりは人質を取られている状況なのでしょうかっ!?」
「うん。そうだよ。だからこそ落ち着いて、二人とも。こいつは、すぐにビビを殺そうとはしない」
「……そ、そうなのか!?」
「『あらあら。どうしてでしょうか。私は『カール・メアー』の詠唱長なのですよ。『狭間』を殺すのは、使命です』」
「殺すのが最優先なら、もうとっくに殺している。そんな弱ったビビで、私たちを倒せるはずもないのは分かっているでしょう。最初の奇襲が、私たちを仕留められる唯一のチャンスだったんだ。それを、あなたは逃したの。それでも、ビビを殺していない。他に、利用目的があるからだ」
「『賢いんですね。そうですよ。私には成し遂げなければならないことがありますから』」
「メダルドのおっちゃんの、『心臓』が欲しいんだ」
「『ええ。その通り。必要なんですよ。こんなに『引き合っている』んですから』」
「引き合っている?おっちゃんの『心臓』と……『何』が?」
「『ギルガレア』がですよ。この娘の喉に宿した『ギルガレア』と、メダルド・ジーの心臓にいる『ギルガレア』。肉親の魔力だからでしょうか。レナスに宿っていたときよりも、しっかりと引き合っている……それが感じられるの』」
「何が、何だか分からないでありますがっ!?」
「『特別な『ギルガレア』の卵。貴重な卵なんですよ。それらが、レナスとこの子とメダルドにいる。『本体』の私にも。つながっているの。『ギルガレア』がつなげてくれている。遠く離れていても、関係ない。だからこそ、神の器になれる』」
「あなたが何を企んでいたとしても、そうはならない。私たちが、あなたを自由にしたりはしないから」
「『そうかしら?こうやって、ナイフをビビアナさんの首元に近づけたら?』」
「……や、やめろっ」
「な、何と、卑劣なっ。そういうコトはしてはいけないぞっ!!」
「脅しは利かない。あなたはビビを殺せない。殺したら、使命が果たせないんでしょ」
「『……試して、みると?』」
「そんな余裕は、そっちにもない。ビビは、そっちにとっても保険なんだ。『狭間』を嫌うのに、『狭間』のビビに憑りつくなんて、本当はしたくないことでしょう」
「……あの子も、『狭間』だというのですか……」
「ビビは、両親が特別な呪術で、耳を伸ばさなかったの。『ハーフ・エルフ』だよ」
「ビビのご両親は、命懸けで呪術を使い、命を失ったのだ」
「……なん、と。親の愛とは、壮絶なまでの行いを果たすのですねっ」
「『美しい物語だとは、思いませんよ。最初から交わらなければ、良かった』」
「そういう考えを、するんだね。リュドミナ」
「『ええ。じつに『カール・メアー』らしい考えです』」
「……リュドミナ。あなたはとてもクールだよ。だから、私は交渉がやれると考えている」
「『交渉、ですか?私がそちらに差し出せる唯一のモノは、ビビアナさんだけですが……その代わりに、そちらは何を与えてくれるのかしら?』」
「おっちゃんの、『心臓』」
「み、ミア!?な、なにを……っ」
「ビビと、おっちゃんの命。どっちも大切だよ。でも、私は、おっちゃんの考えが分かる。おっちゃんはね、ビビのためなら自分の『心臓』だってえぐる覚悟だ」
「『姪のために、そこまでやれるなんて。『人買い』のくせに、情の深い男性ですね』」
「そうだよ。だから、私はおっちゃんの命を使って交渉もできる。確実に、『心臓』が欲しいんでしょう?……元・『人買い』で、大商人のおっちゃんと、あなたが交渉して確実に『心臓』を得られるなんて限らないでしょう?」
「『そうかもしれませんね。これでも交渉事については得意ですが、あくまで尼僧です。交渉の達人である商人に、勝るとは思えませんね』」
「このルールを理解してね、リュドミナ。『ビビを助けてくれないと、『心臓』は絶対、手に入らない』。あなたはね、何が欲しいのかを私に知られているんだ。このルールを破れば、私がおっちゃんの『心臓』を爆破して吹き飛ばすことだってありえる。嫌でしょ?」




