第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百九十三
―――孤独が怖いから、独りぼっちが嫌だからこそ女神を求めた。
信仰とはヒトを聖なる存在とつなげて、大きな孤独から解き放ってあげる行いだよ。
『彼女』は救われるべきかもしれないが、ここは戦場なんだ。
体の半分を吹き飛ばされながらも、『蟲』のおかげで『彼女』はまだ戦える……。
―――ミアは、助けようと暴れるフリジアを必死に抱き留めた。
戦場の霊長である猟兵の勘は、正しく機能している。
フリジアを近づけさせてはいけない、『彼女』にも今のパロムにも。
二人にとっての標的となっているのだから、絶対に近づいてはいけない……。
―――パロムは実力以上に『霊槍』を使っていて、制御は完璧じゃないんだ。
『白夜』の荒れ狂いながらも、統率の取れた神威とはあまりに違う。
下手に近づけば、暴走する力に引き裂かれるかもしれないし。
そもそもパロムは『カール・メアー』を、殺したがっているんだ……。
―――パロムは良い子だから、全ての事情を知ればフリジアを憎まないだろう。
それでも今は、現状を把握しているわけじゃない。
戦場で敵か味方か判別がつかないとき、相手に接近することは危険極まりないよ。
殺されたって、文句は言えない……。
―――正しい行いだよ、フリジアを守るためにはしがみつくんだ。
たとえフリジアの希望を、打ち砕いてしまったとしても。
助けるべき者を助け、敵を排除するべきだ。
これはとても正しくて、戦場はいつも通りに悲しいだけのこと……。
「はああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
―――『霊槍』が踊り、『彼女』を攻め立てていく。
弾け飛んで半分になってしまった身から、『蟲』があふれてパロムを襲う。
『霊槍』と『蟲』が衝突し合うが、勝負はもう決まっている。
パロムの勝ちだよ、攻撃をぶつけ合わせる度に『蟲』が砕け散った……。
「『もう一緒に、いてあげられない。ここから去らなくちゃならない。それは、とてもさみしいことだわ。貴方を独りぼっちにしてしまうけれど。でも、ガマンしてね。』……はい、問題はありません。すべては……啓示のために。捧げられるべきですから」
―――ディアロスの槍術に崩されながらも、『彼女』の口は動く。
パロムにその言葉の意味を考えられる余裕はない、集中して倒すことしかやれない。
叩き込み、突き刺し。
えぐって、爆破した……。
「啼け!!『曙』おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
『ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンッッッ!!!』
―――壊れてしまっていた『彼女』の腹に、『霊槍』が突き立てられて。
内側から暴力的な力の奔流は駆け抜けて、その身を破裂させるんだ。
ヒトの形を保っているのは、もう右の上半身だけになっている。
それが空高くに吹き飛んで、フリジアの悲鳴に包まれながら地面に墜落した……。
「れ、レナスうううううううううううううううううッッッ!!!」
「フリジア、ガマンだよ。あいつは、あいつに近づいちゃダメだ。怖い相手なんだ」
「う、うう……うう……っ」
「……………私の……涙なんて、流さないで欲しい…………殺そうと、していたのに……『さようなら。レナス』」
―――『彼女』は、魔力を高めた。
パロムは素早く反応し、『霊槍』を胸に突き立てる。
ビクンと大きく、その身は跳ねた。
魔力の高まりはまたたく間に小さくなっていき、『彼女』は赤い涙を流す……。
―――体内にわずかながら残されていた血液は、それで失われたよ。
もう生きてはいない、生命はこの瞬間に終わりを迎えた。
フリジアはそれを悟り、うなだれる。
地面を叩いて、『彼女』の名前をかすれた声で呼んであげた……。
「レナス……っ。レナス……っ。救って、やれずに……すまないっ」
「……ううん。あいつは、救われているはずだよ。フリジアに、私の親友に、これだけ想ってもらえたら」
「……ミア……私は、無力だ。弱いよ。もっと……もっと、強くなる。失われた、命たちに応えるために」
「うん。フリジアなら、できるよ」
「はあ、はあ。はあ、はあっ。ようやく、倒した。『カール・メアー』め……あの世で、あの子と母親に、詫びなさい……っ。お前で……お前の命をもって、許して、あげます。『カール・メアー』にも……いいヒトは、いると信じます」
―――パロムの体力も、限界だった。
『霊槍』を『彼女』から抜くと、フラフラしながら後退して仰向けに倒れる。
『曙』が『霊槍』からユニコーンの姿に戻り、相棒と同じようにお腹を天に向けた。
やり遂げた、復讐の時間は終わりだ……。
―――もういつもの、まっすぐで単純な自分たちに戻っていいはずだった。
復讐のために作った、怖い心がパロムと『曙』から去って行く。
二人は同時に、お互いの顔を見た。
明るい笑顔になって、ねぎらうように鼻と鼻を突きつけ合う……。
「……えへへ。いい笑顔です、『曙』」
『ヒヒイイン』
―――戦場では、あまり多くのことが起きない。
とてもシンプルに、あらゆることが集約している。
偶然はそこになく、すべての行為は絶対に意味があるものだ。
その異変に気付いたのは、もちろんミアだったよ……。
―――フリジアが背負い、地上近くまで運んでいたビビアナ。
横たえられていた彼女の体が、ゆっくりと起き上がって行く。
ミアは喜び、そして。
警戒を強め、フリジアの体を押さえつける……。
―――猟兵の勘は、正しかった。
『風』の魔術が、戦場を薙ぎ払う。
ビビアナが魔術を使い、ミアとフリジアを攻撃したんだよ。
『彼女』は死んだ、でもリュドミナの呪いはまだ機能していた……。




