第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百九十一
―――ミアの斬撃に『風』が宿り、それらは『飛ぶ斬撃』を生み出していく。
『風』の『魔剣』だよ、無数の真空の刃が『ゴルメゾア』の全身を切り刻む。
再結合を強いようとしていた『蟲』どもの脚を、断ち切った。
泣いて叫ぶ肉塊たちは、そのおかげで再び四方八方に逃げることが出来る……。
「そうだよ、それでいいの!!子供は戦わなくていい!!死んじゃったのに、それでも、戦って苦しむことなんてないんだ!!だから、だから!!『蟲』ども、その子たちから、離れろ!!!」
―――ミアの怒りは、とても偉大なやさしさだよ。
生贄になった孤児たちは、痛いのも怖いのも苦しいのも嫌なんだ。
たとえこの世界があまりにもやさしくないから、怒っていたとしても。
生きていたときでさえ不幸だったのに、死んでまで苦しむことはない……。
「違う!!勝手に決めつけるな!!世界を、変えるために!!戦うんだ!!救うために、戦って……女神イースさまを、この世界に与える……戦うことで、この世界を救うんだよ、誰にも必要とされなかった、穢れた私たちこそがッッッ!!!」
―――『彼女』の叫びに、孤児たちが同調してくれるんだ。
逃げようと藻掻いていた孤児たちが、その藻掻きを弱めてしまう。
何も無理強いしているわけじゃない、本当に聖なる使命を果たそうとしているだけ。
だからこそ宗教的な執念はおぞましいときもあるし、ミアの逆鱗に触れるんだ……。
「神さまなんて、いらない!!私たちが、変えてやるんだッッッ!!!」
―――『ドラゴン・キラー・コンビネーション』は、まだ続いているよ。
バラバラになりそうだった孤児たちのために、ミアは夢を追いかけるための力を使う。
『風』を使い過ぎて、強い魔術は使えない。
魔力も体力も使ってしまっている、だからこそ疲れた体はその鼓動を聴ける……。
「私の影に宿ったヒトたち!!力を、貸して!!」
―――『歌』属性、ミアの影にも多くの魂が宿っている。
兄であるソルジェがそれを使えるように、今のミアならそれを使える。
戦う死者を否定したばかりでも、死者は応えてくれるんだ。
だってこれは矛盾ではない、この属性の本質はやさしさだからね……。
―――ミアの影が、朝陽を浴びながら伸びるのが見えた。
長く広く、そして枝分かれするようにも。
影たちが踊るんだ、ミアに同調する死者たちの魂が。
『ゴルメゾア』に飛び掛かる少女の影たちが、あふれて暴れる……。
「『魔剣』ッ!!『エルフェンリート/妖精の歌』ッッッ!!!」
―――ミアそのものの、突撃する斬撃の乱れ撃ち。
そして、11に分かれたミアの影から空間へと放たれる無数の斬撃。
それらが一斉に『ゴルメゾア』を、切り刻みにかかるんだ。
三大属性でもない、第四属性でも第五属性でもない『歌』の顕現……。
―――ミアはソルジェに近づいた、また最強の可能性の一つが進化を果たす。
『エルフェンリート/妖精の歌』は、たった一瞬の『魔剣』だった。
それでも百に近い斬撃の群れであり、その威力たるや絶対的なものだよ。
ほとんどすべての斬撃の軌道が、精密にうごめく『蟲』を狙い撃ちにしていたから……。
―――『ゴルメゾア』を、つなぎとめようとする力がその瞬間に破綻する。
バラバラになっていく、崩れ落ちていく。
それでも、孤児たちは戦おうとするのだ。
バラバラになり崩れて融け落ちながらも、女神さまのくれた使命を信じる……。
「あ、ああ……っ」
―――『彼女』は、死者の魂が聴こえたのかもしれない。
『蟲』たちを経由して、孤児たちの叫びを聞いていたのかもしれない。
痛ましくて勇敢な、死の安らぎに逆らって戦おうとしてくれる子供たちの声が。
それが『彼女』の使命を打ち砕き、痛みと後悔に身も心も突き落とす……。
―――それでも、『彼女』は動けない。
リュドミナの呪縛のせいではなくて、やっぱり『彼女』も聖なる使命が大切だから。
どんなに痛ましくて、残酷な路であったとしても。
燃え尽きながら突き進むと、決めている……。
―――美しかったはずの声で、また命じよう。
『戦え』と歌えば、あの子たちの勇気は燃え上がるはずだ。
のどを使う、賛美するほどの美しい世界を失ったとしても。
聖歌は歌えなくても、命令ぐらいは叫べるはずだ……。
「……っ!!…………っ!?」
―――命令さえも歌えない、疲れ果ててもいるからか。
それとも、見てしまったからだろうか。
『彼女』と殺し合いをしていた、フリジアが走る。
おそろしい『彼女』に、隙だらけが過ぎる背中を見せて……。
―――斬れるはずだ、『蟲』で編んだ腕で打ち据えて。
そうすれば、聖なる使命を妨げる敵が一人倒せるはずだ。
あまりにも無防備で、あまりにも。
それはあまりにもやさしいから、『彼女』は斬れなかったんだ……。
「もう、いいんだ!!もう、いい!!戦わなくて、いいんだっ!!」
―――聖なる者が、抱きしめた。
大声で泣きながら、その腕と体のぜんぶを使って。
どろどろにうごめくおぞましい、穢れた醜い肉のかたまりを抱くんだよ。
やさしさでなければ、救えない者たちもいる……。
「もう、いいから……っ。私たちが、がんばるからっ。きっと、今より、ずっと……お前たちが、苦しめられずにすむ世界を……勝ち取るから……私が、創るから……っ!!」
―――顔が浮かんだ、夏に咲き誇る赤い元気な花畑みたいに。
とてもきれいで、とても温かく。
生きてるとき、まだお母さんがいたときの顔だ。
バラバラになった『ゴルメゾア』にたくさんの笑顔が浮かび、魂は還った……。




