表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4238/5089

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百九十


―――チェーン・シューターは唸り、ミアを『ゴルメゾア』の後頭部に向かわせる。


断ち切り損ねた首に、自分の体重を弾丸代わりにしてぶち当てるためだ。


思い描いた通り、ミアのブーツの底がそこに到着する。


蹴り込んで力を伝えて、落ちかけていた首を強く揺さぶった……。




『があああああああああああああああああああああああああああ!!?』




―――悲鳴と血しぶきが吹き上がり、鋭い切断面が蹴りの力に引き裂かれていった。


ほとんど切断された状態だったけれど、まだどうにか薄皮一枚でくっついている。


だから、ミアは『風』を使った。


蹴り込んだ勢いを反動に変えながら、宙に舞いながら一瞬の突風を放つ……。




―――魔力を練り上げる余裕がないから、切れ味の細い『風』だ。


ルルーシロアの頑丈なうろこのあいだを、狙えるほどの細さと精密さがある。


竜の関節周りを走る血管、それをピンポイントで断つための技巧だよ。


それがほとんど落ちかけていて『ゴルメゾア』の首に、軌跡を刻んだ……。




―――薄皮一枚が、その瞬間に断たれてしまったのさ。


『ゴルメゾア』の首が今度こそ落ちて、前倒しに突っ伏していく。


大地に倒れて揺れる敵の巨体、一瞬遅れてその背中にミアが着地した。


攻撃の手は緩めないよ、『蟲』のしぶとさをよく理解しているのだからね……。




―――予備のナイフを『ゴルメゾア』の断たれた首の根本に、投げつけたのさ。


そのナイフには『蟲』に対しての特効毒である、『ブランガ』が塗られている。


本来は作った傷口に、素早く毒を叩き込むための動きだ。


この首なしにどれだけ有効なのか、ミアはベテラン的な判断をしていたよ……。




―――細かいことなど、気にすることはない。


考えたところで答えが出ないものもあり、これもその一つだ。


考える暇があれば、さっさと行動をつなげてしまえというのもベテランの発想だよ。


二本目の投げナイフも同じ場所に投げつけて、『ブランガ』を注いでやる……。




―――結果として、とても正しかった。


再生しようとうごめく傷口周りの『蟲』どもは、活性化していたからね。


そこには活きのいい『蟲』どもが集まっていて、そこに『ブランガ』が注がれた。


より多くの魔力を有した『蟲』どもを、殺せたというわけさ……。




―――魔力が失われていく、ミアはそれで自分の攻めの有効性を悟る。


三本目も同じところに投げつけて、さらに毒で傷口を攻めたんだ。


『ゴルメゾア』の体が波打ちながら、揺れる。


『ブランガ』の毒で苦しくなったから、藻掻いたのさ……。




「……ッ!?」




―――波打った瞬間、その背中に『顔』が浮かんだ。


ちいさな顔だよ、幼い子供のような『顔』がいくつも浮かんですぐに失せる。


それはこの不気味な怪物を生み出すための、あわれな生贄たちだった。


ダメージがたまり過ぎて、『ゴルメゾア』の形を保ちにくくなっている……。




『ぎゅううああああああああああああうううううううううッッッ!!?』




―――首が落ちて毒に身を痛めつけられたとしても、『ゴルメゾア』は動いてみせた。


背中にいるミアを巻き込んで潰してしまおうという魂胆だろう、横回転だ。


獣じみた早さと荒さを兼ねそろえた動きに、ミアは慣れているよ。


なにせ竜騎士の技巧と知識があるからね、予備動作を感じさせては回避も容易い……。




―――ミアは跳躍しただけで、土砂崩れのような威力を持つ回転から逃れる。


もちろん、地面に着地すると同時に獲物を追いかけていたよ。


『ゴルメゾア』の首なし巨体が、もがきながら立ち上がろうとしている。


その右腕には落とされたばかりの首を掴んでいる、再生させる気はない……。




―――赤く血走る目玉が、黒い疾風をにらみつけた。


敵意が乏しくなっていたよ、ミアに怯えてしまっていたのだからね。


数十分の一ほどの体重しかないであろう、ちいさなケットシーに対して。


これも『ドラゴン・キラー・コンビネーション』の一つ、威嚇だよ……。




―――ルルーシロアであれば、怯えることなどないだろう。


気高い竜であれば、この威嚇に即座の反撃で応じたはずであった。


『ドラゴン・キラー・コンビネーション』は、それを想定しているよ。


でも、『ゴルメゾア』は反撃を作るまでに時間をかけ過ぎてしまっていた……。




―――見つめ過ぎては、良くないことが起きるよ。


ボクたちの『暗殺妖精』は、一瞬のうちにとても多くの攻めを叩き込める。


黒い疾風が跳び、『ゴルメゾア』の立てていた左膝を踏み台にしてさらに跳ぶ。


高さを得ながら加速して、黒い疾風が敵と交差しながら飛び抜け一瞬の斬撃を放つ……。




―――『ピンポイント・シャープネス/一瞬の赤熱』に強化された、爪の一撃だ。


『ゴルメゾア』の右手首を、今度は断ち切っていた。


右手と、それが持っていた首も地面へと落下していく。


落下のダメージというのも、なかなかに大きいものだよ……。




―――それに呪術に対しては、儀式的でもあった。


首を断ち切ることは、代表的な死の儀式なのは言うまでもない。


呪術の力を大きく削ぐために、これは有効な行いになる。


首と胴体が長く離れているほど、『ゴルメゾア』の呪術は緩んでいくのさ……。




―――巨大で醜く、そして悲しくて哀れな怪物が巨体を震わせる。


先ほどよりも顕著な現象が起きるんだ、波打つ毛皮の奥底から。


たくさんの孤児たちの顔が浮かびあがる、いや今度は顔だけじゃない。


たくさんのちいさな手が、救いを求めるように怪物の巨体のあちこちから生えた……。




―――空を掴むように、ちいさな指たちが藻搔いている。


苦しくて恐ろしいのだろう、むき出しの殺気を浴びせてくるミアのことが。


孤児たちを縛っていた呪術が、切れかけている。


だからその身は、右にも左にも前にも後ろにも逃げようとした……。




―――『ゴルメゾア』になっていた殺された孤児たちが、それぞれの自我を主張する。


怖くて痛くて辛い戦いの場から、女神だとか母親を求めて逃げようとした。


悲鳴を放つんだ、もはやヒトのそれとは思えないくぐもった音を。


『ゴルメゾア』の全身が、ぶちぶちと音を立て巨大な震える肉塊へと分かれていく……。




―――それぞれの肉塊が、一つか二つかあるいは三つの顔を持っていた。


泣いて叫ぶ肉塊たち、その断面から『蟲』が飛び出して再結合を強いようとする。


ミアはそれが何を意味しているかなんてこと、分かるはずもない。


そうだとしても本能が指示を出す、加速して戦いの力を振るうんだ……。




「その子たちを、これ以上、戦わせようとするな!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ