第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百八十八
―――パロムは『カール・メアー』が、大嫌いである。
亜人種にとっては、当たり前のことではあるけれどね。
『霊槍』を振るい、裂帛の気合と共に突風へと化けた。
勇敢なるディアロスの伝統は、何よりも突撃を推奨している……。
「でやあああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
―――青くかがやく『霊槍』による突きのラッシュが、リュドミナを襲った。
リュドミナは回避に徹し、自身にとって未知の武術に対しての分析を試みる。
『捕食』するために広げていた口を閉じ、踊るようなバックステップ身をかわした。
パロムの突きはすばやく、長くなっている……。
「『あのお馬さんと、ひとつに融け合うことで強さを得られるのですね。何とも、不思議な力を使う……』」
「お馬さんなどではない!!ユニコーンと呼べ!!」
「『はいはい。ユニコーンね。ヒトと魔物が融け合うなんて……古い時代の錬金術を感じさせるものです。ずいぶんと、人工的な力にも感じますね』」
「ディアロスとユニコーンの絆は、一生涯をかけて作り上げていくものだ!!お前などに、推し量られるものではない!!」
―――強烈な突きが走り、リュドミナの体の一部に『霊槍』がかすった。
パロムは喜ぶが、それは一瞬しか続かない。
手応えが想定していたものと違う、リュドミナはわざと『霊槍』の突きを食らったのだ。
それを悟り、激怒してしまう……。
「舐めるなあああ!!何だ、その動きは!!」
「『推し量りに、かかってあげたのですよ。ああ、痛い痛い』」
「お、の、れえええ!!」
「『短気な動きです。せっかくの力ですが、真っ直ぐ過ぎて……私には届きませんよ』」
―――威力は十分であった、何せユニコーンの『霊槍』なのだから。
ロロカと『白夜』のそれならば、城塞さえも一発で大穴を開けられるものだよ。
パロムと『曙』の一撃も、それの三割近くの威力は誇っていた。
十分な力であるけれど、リュドミナには相性が悪い……。
―――誇りを侮辱されたと思ってしまったパロムの突きは、激しいが単調である。
『カール・メアー』の武術で踊る者に、回避され続けてしまった。
かわされる度に怒りがふくれ上がり、ますます速くなるが単調さも増していく。
若い巫女戦士たちの武術をよく知っているから、この若さをあしらうのが得意だ……。
「『ほらほら。もう少しですよ。もう少し。今度は、ちゃんと当てられるかもしれません。ほうら、ほら』」
「おのれ!!なめ、るな!!なめるなあ!!お前は、お前は!!『カール・メアー』あああああああッ!!たくさんの、亜人種の同胞たちを、殺したッ!!」
「『それが、私たちの成すべき正義です』」
「そんなものが、正義なハズがあるか!!お前は……お前は、故郷から『外』の世界に出て、何を見た!!」
―――もちろん、『カール・メアー』のお山のことを言っているわけじゃない。
ディアロスたちも、極北の土地に限定して暮らしていた者たちだ。
そこから『外』に出て、パロムは多くを見た。
帝国の残酷と、それ以外にもたくさんを……。
「『……たくさんの、絶望ですよ。絶望ばかりが、ひしめき合っていた』」
「違う!!そんなものでは、ない!!そんなものは、一側面にしか過ぎん!!どこにでも、人々の暮らしがある!!それは、たまには私と『曙』に手厳しくもあったが、少なくない者が、私たちを受け入れてくれた!!宿を貸してくれて、食事もくれた!!」
「『だから、何だと言うのです』」
「種族だとか、何だとか、細かいコトで!!多くの者を、殺すなと言っている!!」
「『見解の違いが、大きいですね。私たちの行いは、慈悲に基づく適切な処置なのに。理想の世界へと導くための過程なのです』」
「何が、慈悲だ!!そんなものが、理想なはずあるかあああああ!!」
「『……ッ。動きが……ッ』」
「『曙』!!こいつは、許せん!!許してなるものか!!私たちに、宿を貸してくれたエルフと、ハーフ・エルフの少年のことを、忘れるなああああッッッ!!!」
―――明るいパロムと『曙』の旅路には、絶望もあったんだよ。
道に迷ってしまった森のなかで、ちいさなボロ屋にたどり着く。
そこには町からもエルフの一族からも、追い出されてしまった母と子が住んでいた。
一宿一飯の恩を受けて、パロムと『曙』は救われたんだ……。
―――輸送の任務を成功させて、恩を返すためにその家を再訪する。
焼かれてしまったいたから、森で見つけた木こりを詰問した。
教えてくれたのは、『カール・メアー』の悪行だ。
『狭間』を見つけ出して縛り首にしたんだよ、母親は焼いた……。
―――やさしい八才の少年で、人懐っこく笑う。
パロムを歓迎してくれた、だって迫害されていたから友達なんていないから。
母親以外と話したのは、いつ以来のことだろう。
笑顔から出る言葉は、少しどもっていたがパロムには愛おしかった……。
―――『水晶の角』を持ったユニコーンを、カッコいいと褒めてくれた。
『曙』は、なでてもらったんだよ。
ユニコーンは賢いから、状況を察している。
『水晶の角』がもたらす心の絆が、『曙』にこの戦いの意味を教えてくれていた……。
「啼け!!『曙』おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
『ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンンンンッッッ!!!』
―――詠唱長の戦い方のせいでもある、若手の力を引き出してしまう動き。
『彼女』のリュドミナに対する尊敬が、その傾向を強めてもいた。
パロムみたいな若く才能にあふれた原石の、成長さえも促してしまう。
『カール・メアー』への恨みと怒りが、『霊槍』にあふれた……。
―――リュドミナの足元に突き立てられた『霊槍』が、咆哮を放つ。
荒れて狂う青い光の爆発だよ、まるでソルジェの『バースト・ザッパー』。
威力はそれの半分程度しかないけれど、それでも十分な威力だ。
地上が爆ぜて、詠唱長を吹き飛ばしてしまう……。
「や、やった……ッ!?」
―――吹き飛ばされたはずのリュドミナが、すぐさま飛び起きた。
自分で爆発に乗って飛んでもいたから、ダメージが少なかったのさ。
この結果について、パロムは悪くない。
むしろ上出来であったが、この攻めで魔力を使い過ぎていた……。
「『残念ですが。時間切れ。『ゴルメゾア』が、起きてくれたました』」
「……な、な、なんだ、あれ、は……ッ」
―――海からその身を現した、巨大な獣。
『ゴルメゾア』の姿を見て、大きく力を使ってしまったパロムは悟る。
勝てない、勝てないのであれば。
勇敢なるディアロスの戦士として、成すべきことは一つ……。
「と、特攻あるのみ!!『カール・メアー』、討つべし!!」
「ううん。そんなの、する必要はないよ。私が、間に合ったから」




