第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百八十三
―――ミアは驚いた、それは当然だよね。
メダルドの『心臓』を、求める理由が分からないからだ。
呪術だとか、『寄生虫』にまつわる何かかもしれない。
何にしても確実なのは、ヒトは『心臓』を奪われたら死ぬということだ……。
「『素晴らしい供物として、成長している。偶然の産物だったけれど。メダルド・ジーは、『ギルガレア』に強い適性を持っていた。その『心臓』さえあれば、女神イースの魂に、『器』を与えられるわ。素晴らしいコトが、起きるのよ。女神イースが、再び、この世界に蘇る』」
―――リュドミナ・フェーレンの野望を聞いても、ミアは無表情だ。
神さまを創りたがる者たちを、何人か知っているからね。
動じないよ、暴走した信仰心が狂暴なのは理解している。
それに、ビビアナを助けるための方法も判明した……。
「『この子を、助けたいのなら。フリジア・ノーベル。我々のためにメダルド・ジーの『心臓』を取って来てもらう必要があるの。それで、私はようやくこの子を許してあげられます』」
「ビビの、叔父なんだぞっ!?ビビの最後の家族だ!!それを、殺すなんてこと……」
「『死には、至りません。大いなる女神の一部になる。それこそ、永遠の命でしょう?なぜ、それが分かってくれないのかしら』」
「お、お前は……もう狂っているぞ。リュドミナ・フェーレン……ッ」
―――何であれ、やり遂げることが一つあった。
ビビアナを助けるために、フリジアを助けるために。
行動すべきだよ、目の前にいる『彼女』の狂気は無視すべきじゃない。
だって、リュドミナ・フェーレンはフリジアに殺意を抱いていたからね……。
―――リュドミナ・フェーレンの指が、フリジアの首を掴んだ。
頸動脈を的確に押さえて、瞬時の窒息を仕掛けてくる。
解剖学的に確かな圧迫を頸動脈に加えられたなら、ヒトは一秒もかからず気絶した。
詠唱長は喉の周りの構造について、どんなことでも知っているみたいだ……。
―――リュドミナ・フェーレンの動きは、完璧だったよ。
でも、フリジアはその恐ろしい指先の技巧をわずかながら外していた。
おかげで瞬時の気絶はない、苦しさと痛みはあるだろうけど意識はしばらくもつ。
フリジアが見せた能力の高さに、リュドミナ・フェーレンは不満だ……。
「『ああもう。どうして、この子は……どこまでも『カール・メアー』を裏切るのでしょう。でも、捕まえたわ。このまま、気絶させてあげます。そして、貴方にも『入れて』あげましょう。体を変えてあげれば、心も、変わってくれるでしょ―――』
―――リュドミナ・フェーレンの右腕が、一瞬で断ち切られていた。
フリジアが自由になる、せき込みながらもリュドミナから間合いを取ってみせた。
ビビアナのそばへと、崩れ落ちるように倒れる。
問題はないよ、二人の前にはミアが立っているのだから……。
「『私の腕を、一瞬で。強化していたはずなのに。何者です?』」
「ミア・マルー・ストラウスだよ。ビビと、フリジアの、親友」
「み、ミアっ!!」
「『赤毛の、竜騎士の一味ですね。魔竜と心を通わす、おぞましき女神イースの敵』」
「女神イースとケンカしてる覚えはないけれど、アンタが二人を苦しめたことは、分かる。ビビに、毒を盛っていることも」
「『あら。盗み聞きしているなんて、お行儀の悪い子です。そういう子には、飴玉をあげられませんね』」
「いらないよ。飴玉なんて。欲しいのは、ビビの解毒剤」
「『残りは、『本体』が持っています。ここには、ありませんよ。私を倒したとしても、得られません。ここには、ないのですから』」
「『本体』って、東にいるでしょ?クリア・カニンガムの近くに」
―――リュドミナ・フェーレンの表情は、穏やかな微笑みのままだ。
それでも、ミアには見抜かれてしまう。
動揺していたんだよ、リュドミナはミアがどこまで状況を把握しているか知らない。
『最悪の状況になっているかもしれない』から、一瞬だけ恐怖してしまった……。
「『嘘をついても、意味がなさそうですね。そう、いますよ。クリア・カニンガムの近くに。私の『本体』が……』」
「じゃあ。『それ』は、もう死んでるか、確保されてる。お兄ちゃんと、ジャンまでいる。逃げられる状況じゃないよね」
「『だとすれば、残念ね。『本体』が死ねば、ビビアナさんに解毒薬を与えられません。貴方のお兄さんたちの活躍のせいで、ビビアナさんは死ぬのよ』」
「嫌なヤツだ。うれしそうに、ヒドイことを口にする」
「『真実を、告げてあげているだけです。亜人種や、『狭間』は、やっぱり幸せになれません。それが、女神イースの定めた運命なのですから』」
「……そんなに『狭間』が嫌いなら、ビビを助ける気なんて、ないでしょう。解毒剤とか、本当にあるの?」
「……っ!!りゅ、リュドミナ……ッ!!」
「『あら。ばれてしまいましたね。フリジアほど、単純ではないみたい。好きになれませんね、亜人種は』」
「別に、いいよ。私も、あんたのことなんて、大嫌いだから。リュドミナ……だっけ。それとも、レナス・アップル?」
「『どちらでも、好きな方を』」
「どっちも、嫌いだ。お前は、今から私が八つ裂きにしてあげる」
「『あら、怖い。出来るでしょうか、私は、なかなか頑丈ですよ』」
―――リュドミナが、斬られた右腕から『蟲』を伸ばした。
『蟲』どもはうごめきながら絡みついて、巨大な触手を形成する。
それを鞭のようにしならせて、ミアを打ち据えにかかった。
もちろん、怒れるミアの前では無意味だよ……。
「『え……なに、ですか。今の……動きは』」
―――触手が、真っ二つにされていた。
それだけでは、すまない。
リュドミナ・フェーレンの全身が、この一瞬で斬り刻まれている。
ミアが爪とナイフで襲いかかり、その動きの速さに反応できなかった……。
―――武術の達人である、リュドミナ・フェーレンが。
おかしい、ことではないよ。
だってね、今のミアは。
とても、怒っているのだから……。




