第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百八十一
―――『そよ風』をもう一度放ちながら、灯台を目掛けて突撃して行く。
ミアは探しているのさ、最も警戒すべき対象についてね。
それは、もちろん『ゴルメゾア』だよ。
名前こそ知らないが、巨大な魔物じみた獣を想定している……。
―――そいつの足跡を探しているが、視界の何処にもそれらしきものはない。
ビビアナとフリジアが巻き込まれていなければ、もう少し慎重に行動しただろう。
でも、戦場というものはせわしいものさ。
二人の命がかかっているのであれば、危ない橋でも渡らなくてはならない……。
―――『ゴルメゾア』の居所を見つけられなかったが、それでも突撃あるのみだ。
灯台のふもとまで接近すると、『そよ風』で探り出した場所に向かう。
地下へと向かう穴があった、それなりの深さがあるようだった。
工事の痕跡も見つけたよ、最近になって石材を割ったらしい……。
―――割られた石柱から、どんな工事だったのかまで断言する知識はミアにはない。
それでも、軍事行動だという予測はつけられる。
『きれいじゃないから』だよ、『大学半島』での経験が活きていた。
この中海周辺地域の建築文化は、美麗さをそれなりに追求する……。
―――無骨な割り方であり、何かしら機能的なのかもしれないが美しさがない。
この石柱を割った者は、中海地域の建築家ではないだろうよ。
古い石材を漁りに来た地元の人々の仕事じゃなく、そうでないのならば消去法が働いた。
地下空間を拡充するために、掘削してその補強にこの石柱の半分を用いた……。
―――ミアは、考えない。
もはや成すべきことは決めているからね、地下への入り口の数も把握した。
三つだった、四つ目のそれはただの枯れ井戸に過ぎないから排除する。
どの入り口にも足跡があるが、最も新鮮なものを選んだ。
数十秒前に、あの敵の影がつけたものだよ……。
―――その穴の奥には、階段があった。
古さはあるが崩れてはおらず、真っ直ぐ地下に伸びている。
戦いに巻き込まれたときを想定していたのか、そもそも軍事基地として作られたのか。
要塞建築にありがちな、直角に曲がる階段のおかげで先を目視することは不可能だ……。
―――『そよ風』を送り込んでも、深さがあるだけしか判明しない。
だから飛び込むのが、最も早い解決手段だった。
無音のまま、階段を降りていく。
十二段降りると、今度は右に向かって直角に曲がることが強いられる……。
―――襲撃者対策を試みるのであれば、ここが怪しい場所の一つになる。
戦士を隠しておくには、ちょうどいいくぼみも壁にあった。
でも、ミアが探したのは敵兵ではなくて罠についてだ。
罠は仕掛けられていたよ、原始的なまでに基本的なワイヤーと鈴だ……。
―――殺傷能力こそないが、音が鳴れば敵に感づかれるリスクが増える。
ミアはそれに触れないように、歩幅を大きくしながら乗り越えた。
頭上に張られているワイヤーについても、気が付いていたよ。
問題はない、ミアほど小柄な敵を想定していなから身を低くしないでもくぐれる……。
―――ミアはそのまま地下へと進み、暗がりは深まった。
二度の直角を過ぎ去ると、地上からの光はまったく届かなくなる。
その代わりに、灯りが見つかった。
松脂の焦げるにおいもね、オレンジ色の光が地下の暗がりで踊っている……。
―――敵が設置した灯りだよ、その近くにも罠があった。
これも殺傷力のない、ワイヤーと鳴り鈴の仕掛けだった。
敵は『やさしい』性格をしているらしい、罠というものには性格が出る。
複数回同じ罠を仕掛けられるほどには、神経質であり潔癖症だ……。
―――誰かを間違えて罠で傷つけたくはない、そういう意図も感じられる。
この罠が仕掛けられたのは、数日は前だ。
設置部位の周りはホコリがキレイに掃除されていて、ワイヤーに付着したホコリもない。
あらためて掃除した、計画性も感じられるし几帳面であり何より神経質だ……。
―――『カール・メアー』は、あれでも宗教組織だからね。
こういう罠を仕掛けたがるのも、分からなくはないよ。
『彼女』も、本来はやさしい性格だったのかもしれない。
だからといって、ミアが手加減したくなる要素でもないけれどね……。
―――罠を越えて、また罠を越えて。
地下の深みへとミアは侵入を果たした、地下空間はやはり掘削が行われている。
かなりの広がりがあり、かつては複数あった地下の倉庫をつなげたようだ。
何か錬金薬らしいにおいもするが、それよりも何よりも……。
―――気配を見つけたよ、その薬品のにおいの向こう側に。
かすかな音が混じっている、それはせき込む音だった。
誰のかは、分からない。
ビビアナのものかフリジアのものか、それとも敵のものか……。
―――その音からは演技らしさは感じられず、それゆえ罠ではないと判断する。
ミアはナイフを抜いて、ピュア・ミスリル・クローも伸ばす。
『そよ風』をもう一度放ち、地下空間における間合いの最適解を音で把握しにかかった。
白兵戦に備えた状態を作ったまま、せき込む音が漏れた場所に向かう……。
―――閉じられた古い扉があり、その奥に誰かがいるようだ。
魔力を探れば、人数が分かった。
二人だ、死にかけているほど弱い魔力は一人だけ。
それが、おそらくビビアナなのだとミアは気づいた……。
―――激烈な殺意が、体の中で沸騰していく。
ビビアナをこんな目に遭わせた者を、一秒でも早く殺したくなった。
『そよ風』のおかげで、この古くて掘削し過ぎた地下空間に侵入経路を見つけている。
扉を開かなくても上部の裂け目を通れば、この部屋に忍び込めるだろう……。
「……すぐに、助ける。その敵を、殺して」




