表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4228/5088

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百八十


「どう、どう!ゆっくりと、走るよー!」


『ヒヒヒイン!……ブルルルウ!』


「もう少し、落としましょうか?」


「ううん。問題はないよ」



―――まるで、『ただの早馬程度』の速さに落とした『曙』。


その背から、ミアはするりと降りた。


ゆっくりと体を左に倒していき、ソファーからずり落ちる猫のように柔らかくね。


高速で走っているけれど、ミアにとってはそんなことは何の問題にもならなかった……。




―――音も立てることなく、街道の地面に降り立った。


パロムには、どういう技巧がその運動を実現させたのか理解できない。


ディアロスは当然ながら最高の馬術競技者だけど、ミアの動きを試したこともない。


とてつもなく危険であり不可能なはずの動きだからね、ミアはそれだけ特別だ……。




「さすが、です!!」




―――ゾクゾクとした感動のしびれが、パロムの背筋を駆け抜けた。


ロロカと『白夜』の強さを、昔から知っていたけれど。


最強という概念には、いくつもの種類があるのだと学んだ。


戦が終わったあとで、『曙』と一緒に試してみようとも企む……。




「まずは、このまま早馬の演技をして……あのちいさな廃墟から離れておきましょう。15分。たったの15分の辛抱っ。ああ、腕が鳴りますねえ、『曙』っ!!」


『ブルルルウ!!ヒヒヒイン!!』




―――騒がしいコンビではあるけれど、それはむしろ『囮』には好都合だろう。


ミアが飛び降りた場所にも、技巧と経験が活きているよ。


そこも歴史の応酬によって壊されてしまった、過去の遺産。


街道沿いを走る壊された家屋の残骸、風と時間に晒されてすっかり崩れ色あせた壁だ……。




―――それは灯台から死角になってくれる、最高の遮蔽物だったよ。


ミアはそこにしゃがんだまま、パロムと『曙』が離れるのを待つ。


あの灯台こそが怪しい、おそらく敵がいるはずだ。


遮蔽物に潜んだあと、無音で動いた……。




―――壊れた壁から、ほんのちょっとだけ顔を出すのさ。


そこから灯台を覗くようにして、偵察を開始した。


動きはない、それでも観察を続ける。


角度の問題さ、あちらは昇りかけの朝陽に身を隠せるというアドバンテージがある……。




―――ミアは目を細めながら、灯台に動きがないかを探った。


待つのさ、アドバンテージを使う者は少なからず油断してしまうものだからね。


気配を消し去ったミアとは違い、敵は動いてしまった。


狩猟者の悦びが心に生まれるが、石ころのようにミアは動かなかったよ……。




―――敵影は灯台の頂上付近にいて、朝陽を背にしているおかげで顔が分からない。


それでも動きで、分かる。


『曙』を観察しながら、身を低くしていた。


隠れようとしているのさ、行動はいつでも真実を物語ってくれるものさ……。




「あそこに、いる。敵は……それに、ビビと、フリジアが、待っていてね。その敵を、必ず、ぶっ殺してやるから」




―――敵の姿が、灯台へと戻る。


『曙』が去ったと認識したらしいからね、自分の追手だとも考えていない。


『ゴルメゾア』を上手く使ったからだよ、『ルファード』からの追手は南に誘われた。


南東に向かって走る足跡を、『あらかじめ偽装していた』からだよ……。




―――『攻撃』の作戦というものは、いくつもの策をつなげるものさ。


『ゴルメゾア』を使った誘拐の果てに、ちゃんと逃げる手段も考えている。


『ルファード』の南から、『寄生虫』に侵された帝国兵が攻め込むことまでは計算外だ。


いくらか不確定要素があったとしても、おおむね作戦のデザイン通りに状況は動いた……。




―――上手く行っているからこそ、ヒトは油断もしてしまうものだよ。


敵の姿が、また現れる。


その影は、『オルテガ』の方角にある窓へと向かった。


望遠鏡がわずかに窓から飛び出している、街の様子が気になっているらしい……。




―――何か策があるのだろうが、そこまではミアには分からない。


当然だね、情報が少なすぎるんだから想像の余地さえないよ。


だけど、問題はまったくないのさ。


敵がいるのならば、ミアがすべきことは一つだけ……。




「殺して、助ける」




―――敵の視線が、『オルテガ』に向いているというのであれば。


これほどの好機はないだろう、ミアは壁の残骸から飛び出した。


影のように低く、矢のように速く。


灯台目掛けて走るのさ、パロムが見ていれば感動するようなスピードでね……。




―――ミアの走る速度に対しては、パロムも挑戦しようとは思わないだろう。


どんなに好奇心と勝気さがある、明るいディアロスの少女であってもね。


圧倒的で絶対的な力の差には、そもそも挑戦心など湧いてこないよ。


規格外すぎる相手と競争しようするなんて、正気の沙汰じゃないのさ……。




―――ミアは天才だけど、それにしても今日の走りは速さがある。


『風隠れ』を使い、身を軽くしているという点もあるけれど。


やはり、友情のための魔法がこの速度を与えてくれている。


この大陸はあまりにも悲しいことが多く、友愛は貴重なんだよ……。




―――たくさんの死がある、ありふれてしまっているんだ。


もっと厳粛に扱うべき死が、乱世ではそこかしこに転がっている。


これは忌むべき傾向であるものの、揺るぎない現実だよ。


ヒトはヒトを殺すのが、じつのところ大して嫌いじゃない……。




―――正義がくれた麻痺さえあれば、どれだけだって笑顔で殺せる。


どんな残酷なことも、笑顔でやれる。


それが戦いに染まったときのヒトであり、おそらく敵もその一匹だ。


フリジアを操っている、おそらくビビを人質に取ったことで……。




―――卑怯な作戦があるだろう、しかも前々から計画されていたものが。


怒りの鮮度が、上書きされていく。


ミアは、この新鮮な怒りをコントロールするために呼吸に頼った。


走るスピードも、ゆっくりと落としていく……。




―――侵入すべき敵の拠点に、到着したからだ。


灯台までの距離は、わずか200メートル弱。


日焼けして摩耗し、崩れかけた石材たち。


灯台は斜めに崩れていて、二階と三階の半分は外にさらけ出されている……。




―――敵の姿は、今はいなくなっていた。


探索用の『そよ風』を放って音を探り始めるけれど、居場所は見当がついている。


地下の空間がある、昔からのものか拉致誘拐の作戦のために新設したか。


どちらかは知らないが地下空間がある、その確信は正しかったよ……。




―――『そよ風』の一部が、吸い込まれるような音を立てたからね。


地下への入り口が、灯台にはある。


複数だったよ、三つか四つといったところだ。


敵の数は複数いるかもしれないが、問題はない……。




「把握した。作戦も、出来たよ。待っててね、二人とも。今すぐ、私が敵を殺すから」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ