第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百七十九
―――ミアの言葉は小さいものだったけれど、パロムの心に刺さったようだ。
とてつもない迫力を感じられる程度には、有能なディアロスの騎兵だった。
身震いしながら、強い戦士と出会えたことを喜ぶ。
極北の蛮勇たちのなかでも、パロムは実に戦士的な女性のようだね……。
「はああっ!!最高ですよ、ミアさん!!さすがは、ロロカ・シャーネル副社長の義妹にあたる方でございますう!!」
「そう、ありがとう」
「このパロムも、『曙』も、感動ですよ!!いざ、敵地……っ!!くう、活躍するぞお、『曙』おお!!」
『ヒヒイン!!ブッルルルルウウ!!』
―――『オルテガ』の北に向かう街道を、『曙』は爆走してくれる。
あっという間に海岸線が見えてきた、ゾロ島の漁師たちが港を制圧していた。
帝国の勢力は水平線が許す限りの範囲では、見つからない。
ミアには、この海で探りたいこともある……。
―――おそらく、いるはずだからだ。
昨夜の戦いの規模を考えれば、『気づいたはず』である。
空に咲く薔薇だとか、軍隊同士の衝突もそうだ。
『ギルガレア』との空中戦に、心が踊らなかったはずはない……。
―――静かに見える海に、潜むのも得意中の得意だろう。
ゼファーも連戦で疲弊があり、狙うべきタイミングとも言えた。
頼りたくもなるが、今は『曙』で十分だろう。
間違いなく、説得するのには骨が折れる相手だから……。
「ミアさん、海が見えてきましたが!!灯台は、果たして、右でしょうか、左でしょうか!?」
「左!左っていうか、西に向かって。敵は、『ルファード』から『オルテガ』に向かっていたから。『オルテガ』を通り過ぎるほど、東には行けていないと思う。これだけ明るくなって、みんなピリピリしている状況だから」
「なるほど!見つからずに、ここを抜けるのは不可能でしょうとも!!さすがの、判断力です!!では、左に曲がりますよー、『曙』!!ターンだ!!」
「……この速度なら、すぐに見つけられる」
―――海岸沿いを、ミアの視線が探り始めた。
いくつかそれらしい建物の影が見える、小さすぎるものも大きすぎるものも除外すべきだ。
小さすぎれば、隠れ家としての機能も弱くなりすぎる。
大きすぎても、『ルファード軍』の戦士たちが拠点として使う可能性が高い……。
―――それらを避けて、中規模からやや小さなサイズの廃墟だ。
それが最も可能性が高いと、ミアは判断する。
いくつかの候補が視界のなかに入ってくるが、あわてない。
『曙』が近づいてから、判断をしていけばいいだけだ……。
―――廃墟が多いのも、支配者が短期間で移り変わる『オルテガ』周辺の特徴だ。
繰り返された戦いの果てに、いくつもの軍事施設が壊された結果だよ。
近づけばよく分かった、小さなものはやはり解体され過ぎていた。
石材を回収されてしまい、もはや身を隠す拠点としては使えそうにない……。
―――判断のつけ方を、ミアは確信する。
大きさは、想像の通りでいい。
そして、高い丘にある灯台も選ぶべきではない。
そこには海を警戒する戦士たちが、高確率で陣取っているからね……。
―――水平線の先を見渡す方法は一つだけ、高さを使うことだ。
大陸は、どうやら丸みを帯びているようだからね。
水平線や地平線は、それらを実感できる現象の一つだ。
『プレイレス』の地理哲学者たちの主張を、ミアも知っている……。
―――ミアは新たな条件も、頭のなかに記述した。
『オルテガ』側からは見えにくい場所だ、丘の裏側にでもあれば最適だろう。
先ほどのイース教会が集合地点であったなら、本命の作戦は『オルテガ』だ。
『オルテガ』にいる敵から身を隠せるように、行動をデザインするはずだった……。
―――作戦というものは、どうしても諸々の条件をつなげてしまう。
合理的に作成しようとしたとき、ヒトは計算を使い過ぎるものだ。
だから、戦術というもののほとんどが分析されてしまうのさ。
ミアはパロムの背中に飛びつくようにして『標的』を見つめ、腕を伸ばした……。
「パロム、あそこに向かって。丘の裏側にある、ちいさくて、崩れかけている灯台」
「なるほど!悪が、隠れていそうな予感でありますなー!!」
「うん。警戒されないように、あの灯台を通り過ぎて欲しいんだ」
「なる、ほど?」
「まるで、『ルファード』に向かっている連絡係みたいに動こう。演じるんだ。敵を騙して、油断を誘おう」
「はい!え、演技ですかー。な、なかなか。裏表がない性格と評される私には、少々、不得意な分野であるような自覚もしますがっ。ここは、一皮むけて大きく成長すべきですね!!」
「うん。強くなろう。みんなで、ちょっとずつね。そうじゃないと、多くを助けられないから」
「ええ!助けて、あげましょう。人質さんたちを!!『曙』、スピードを落として、通り過ぎるとしましょう!今の半分程度の速さで、そこらの早馬と同じ遅さならば、ユニコーンだともバレないはす!!」
―――このディアロスとユニコーンのコンビは、少々ガサツそうではあるけれど。
それでも指示に従ってくれるマジメさがある、それこそが『攻撃』に向く。
緻密に多くの策を重ねることで、威力を組み上げていくものだからね。
その灯台にこっそりと接近し、ゆっくりと離れ始める……。
「私は、先に行くね。十五分するか……私があの灯台のてっぺんで腕を振ったら、すぐに戻ってきてくれる?」
「十五分後、あるいは、ミアさんの手がブンブン振られたら、直行!!了解です!!」
「うん。頼んだよ。不用意に近づかないでね」
「す、少し、不満ではありますがっ」
「だいじょうぶだよ。十五分後の突撃は、私の作戦の一部になるから。そのときは、活躍してもらうからね」
「承知です!!フフフ、腕が鳴ります!!」




